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触って鑑賞するためのレクチャー

今まで僕自身の盲学校での体験や経験から、触ることに関する記事をいくつか書いてきました。

今回は、そんな触れる世界へ招待する、触ってわかる触察の方法についていくつか紹介していきます。

過去の触ることに関連した記事はこちらから

振り返ってみると触ることについていろいろと紹介してきたんですね。よければ覗いてみてください。

盲学校の触察の指導方法より

触るといっても闇雲に触ればいいというものではありません。触るのは主に手のひらですが、手のひらで一度に触れる大きさは限られるので、触って得られる情報は部分的かつ断片的になりやすいのです。そのため、まず全体像をおおまかにとらえたうえで細部の特徴をとらえるように、総合的に情報をまとめながら観察していく必要があります。

盲学校では触ることによる観察を「触察」といってとても大事にしてきました。

まず『新・視覚障害教育入門(青柳 まゆみ/鳥山 由子)』で紹介されている6つの触察のポイントを紹介します。

①両手を使って触る
②すみずみまでまんべんなく触る
③基準点をつくって触る
④全体→部分→また全体と繰り返し触る
⑤触圧をコントロールして触る
⑥温度や触感を意識して触る

少し解説していきます。

両手を使うことで対象の大きさや形をつかむことができます。また手のひらの大きさは限られるので、手のひらので触れる範囲はおのずと決まります。なので、すみずみまでまんべんなく触ることで情報を繋げていくのです。また樹木や高速道路の橋脚など大きなものを触るときは全身で抱きつくとその大きさがよくわかります。

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(画像は毎日新聞より)

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(画像はフォーブスジャパンより)

基準点をつくるというのは、例えば複数の骨格標本などを触るときには同じ向きにして触ることで、目や口の位置を比較するのに有効です。他にも試験管に入った液体の高さを確かめるために底を基準にしたりします(空気と水の比熱の違いによって手で感じる温度が異なるので、水面の高さが分かるのです)。

そうやって各部分を把握したうえで、全体と部分の関係を理解すると、全体像のイメージをつくることができます。まんべんなく触ることで見ただけではわからない、ザラザラ、ツルツルといった表面の特徴などにも気付くことができます。もちろんそれには十分な触る時間を確保することも必要です。

また岩石を触るのと、植物の葉や標本などなまものを触るのでは、触る力加減、触圧のコントロールも変わってきますよね。

盲学校の理科実験でもこの触って観察する方法が活用されています。

「触るマナーの五原則『かきくけこ』」

触っていいと言われても、乱暴に扱っていいという訳ではありません。『さわっておどろく!(広瀬 浩二郎/嶺重 慎)」』という本から「触るマナーの五原則『かきくけこ』」を紹介します。

か 軽く触る
き 気を付けて触る
く 繰り返し触る
け 懸命に触る
こ 壊さないで触る

繰り返し触る、懸命に触るは触ってわかるためのもので先に紹介した触察とつながるものがありますね。軽く触る、気を付けて触る、壊さないで触るは展示物を壊さないようにという配慮につながるものです。

触る展示会では、やはり展示物が壊れてしまうこともあるそうです。博物館側には、壊れるリスクと、レプリカではなくできるだけ本物を触ってもらいたいという想いの葛藤があるという話も聞いたことがあります。

丁寧に触るための「触るマナーの五原則『かきくけこ』」も忘れないようにしたいですね。

「無視覚流鑑賞の極意六箇条」

触常者しょくじょうしゃ見常者けんじょうしゃ」や「無視覚むしかくは無死角」などの独特の言葉でも知られ、触る世界への招待やユニバーサルミュージアムについての書籍も多数ある、国立民俗学博物館の広瀬浩二郎さんが提唱しているのが、無視覚流鑑賞の極意六箇条です。

無視覚流とは「思い遣り」である。
創る人(制作者)・操る人(学芸員)・奏でる人(来館者)の思いは、目に見えない。
さまざまな思いが交流・融合し、「思い遣り」が生まれる。
視覚は量なり、されど大量の情報には、かならず死角がある。
視覚はスピードなり、されど迅速な伝達は上滑りで、記憶に残らない。
無視覚流は「より少なく、よりゆっくり」を原則とし、
作品の背後に広がる「目に見えない世界」にアプローチする。
さあ、視覚の便利さ(束縛)から離れて、自然体で作品と対峙しよう。
みんなの「思い遣り」は、視覚優位・視覚偏重の美術鑑賞のあり方を改変し、
新たな「動き」を巻き起こす。

1. 手を動かす=まずは触角(センサー)を伸ばして感じてみる。
2. 体を動かす=心身の緊張をほぐし、感性を解放する。
3. 頭を動かす=触角がとらえた情報を組み合わせ、作品の全体像をイメージする。
4. 口を動かす=作品の印象、感想を声に出し語り合う。
5. 心を動かす=作品・他者との対話を介して、自己の内面と向き合う。
6. 人を動かす=ミュージアムが発する能動・感動・連動の波が社会を変える。

(小さ子社Web連載「それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける!―世界の感触を取り戻すために―」より)

他の紹介した内容と重なる部分もありますが、触ってはじめてわかることがあり、その感覚を言葉にして共有することこそが無視覚流鑑賞の本質ではないでしょうか。見えているということはとても便利ですが、全てをわかるということではありません。

無視覚流では、あえて便利な視覚を使わずに、触角で物にじっくり向き合い、そこで触角がとらえた情報は体から頭、心へと広がっていく。視覚を使えない不自由ではなく、視覚を使わない解放感を味わってもらうのが無視覚流鑑賞の本義である。

僕自身の体験や経験からも、触ってはじめてわかることがたくさんあり、だからこそあえて視覚を使わずにじっくり触って鑑賞することをお勧めしたいと思うのです。

まとめ

実はみんぱく(国立民族学博物館)の特別展 「ユニバーサル・ミュージアム――さわる!“触”の大博覧会」に行く予定なのですが、触ることに対して自分の振り返りも含めてこの記事を書いてみました。

広瀬さんの本からの引用が多い割に、盲学校に寄付してしまったという事情はありますが書籍紹介していないな…なんてことも考えてしまいますが笑。

僕自身も 「ユニバーサル・ミュージアム――さわる!“触”の大博覧会」をとても楽しみにしていますし、また各地で触る鑑賞ができる常設展や企画展が開催されています。

そんな触る鑑賞のときに今回の記事がお役に立てば幸いです。


参考にした本・サイト

1.『新・視覚障害教育入門(青柳 まゆみ/鳥山 由子)』

 2.『視覚障害教育入門Q&A新訂版(青木 隆一/神尾 裕治)』

3.学びの場.com 教育つれづれに日記「触察について」

4.三重県立盲学校 平成20年度 視覚障がい教育研修会「視覚障がい児にとっての触察について」

5.小さ子社Web連載「それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける!―世界の感触を取り戻すために―」



表紙の画像はwith news『「あ」アート、触ると「あぁ」「あ゛」「あ!」制作者の日本語愛』より引用しました。