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書籍紹介『当事者力』

『当事者力(奈良 里紗)』という本の紹介です。

奈良里紗さんの本を記事で紹介するのは2回目、読んだ本は4冊目になります。

この本は2020年7月10日に奈良さんを含め4人で設立された、視覚障がい者ライフサポート機構“ viwa”のこれまでの10年間の活動を振り返るという内容になっています。

視覚障がい者ライフサポート機構“ viwa”とは、10年間の取り組み

2年以上前に視覚障害者当事者団体をまとめた記事を書いたときに、視覚障がい者ライフサポート機構“ viwa”さんも紹介させてもらい、ホームページも覗かせていただいていました。

でも恥ずかしながらこの本を読むまで、その幅広い活動内容を知りませんでした。

設立当初に視覚障がい関連情報をもっと簡単に入手することができないかという想いから始はじまった、ブログを活用した情報発信と情報の蓄積。ホームページを覗くとまさにブログの山…いや森状態です。

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(画像は視覚障がい者ライフサポート機構“ viwa”より)

個人的には奈良さんの結婚式でのエピソード、よく見えるよう赤いバラのブーケでくじ引き方式のブーケプルズにしたところ、なんとたまたま全盲の女性に当たったエピソードが印象的です。自分の結婚式でブーケハンターを名乗る40代男性の先輩を懲らしめるために、偽物のブロッコリーブーケを投げたのを思い出しました笑。

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(画像は結婚スタイルマガジンより)

ブログだけではなくもっと直接に保護者の相談に応じる機会を作りたい!という想いから生まれた子育て支援相談会「パパママ会」。連携が深まるよう盲学校や眼科等の関係機関を会場に実施すること、夫婦共に参加しやすいよう土日に実施すること、託児など保護者が相談しやすい環境を整備することの3つがポイントなんだそうです。親子キャンプの子どもたちが積極的に動き出す様子は、盲学校時代に体験した科学へジャンプというイベントを思い出します。

視覚に関する様々な技(ノウハウ)を学ぶことができることを目指した視覚技塾は、参加した人が何か1つでもお土産をもって帰れることを目指したセミナーです。就職活動、障がいの伝え方、視覚障害学生のキャンパスライフ、サピエ、盲導犬、ロービジョンケア・就労、子育て、視覚障害乳幼児の発達、オンライン活動、読書バリアフリーなど、多岐にわたるテーマで開催されています。

こちらも設立当初からある月2回のメルマガ配信。なんと10年間、年末年始やお盆休みも関係なくメルマガ配信を継続されてるんです。名物コーナーの編集後記〜村上氏のつぶやき〜が紹介されています。

「機器展示会だとメーカーごとに並んでたりして拡大読書器ってどれがいいかわかりにくいよね」という声から、バーチャル展示会みたいなことができないだろうかということになり生まれたのが viwa tubeです。

視覚障がい者向けの福祉用具を中心に、拡大読書器以外にも、点字図書館、ルーペ、遮光眼鏡などが紹介されています。

また福祉用具でなくとも、ユニバーサルデザインで、だれもが使いやすい市販品を紹介するのがviwa shopです。

三菱電機のしゃべるレンジグリルや軽くて使いやすい掃除機、しゃべるIHクッキングヒーター、しゃべる炊飯器、株式会社19の白黒反転手帳などが紹介されています。

viwa Beautyというコンテンツは、視覚障がいのある女性にインタビューをして、ファッションやメイクなどで工夫していることを紹介するという内容から始まり、株式会社ファンケルのスキンケアや口紅などを紹介する動画や、佐藤優子さんによるネイルサロンについての動画など出会いによって広がってきました。

ラジオ番組のように聞き手も参加できるようなコンテンツができないかと思い作り始めたのが、気ままに viwa talkという音声コンテンツです。

こうしてブログやYouTube動画として蓄積された情報は、この本という形で出版されています。それだけでなく、日本弱視教育研究会や視覚障害リハビリテーション協会全国大会、日本ロービジョン学会などで発表され、また発表内容や活動成果を論文にもまとめられているそうです。

本当になんでもやっててすごいですよね。

かゆいところに手が届く情報発信

viwaのキーワードとして「かゆいところに手が届く」があります。

「かゆいところ」は人によっても違います。同じ人であっても、時間の経過とともにかゆいところが移り変わっていきます。その「かゆいところ」に私たちが手をのばそうとすると自ずと柔軟な対応が求められます。その結果、気づけばブログから始まった情報発信はどんどん形を変えていきました。

僕が視覚障がいについての記事を書いているときもそうなんですが、全ての情報が体系的にまとめられた本やサイトというのはありません。それに、一時的にはできたとしても、時が経ち、機器やアプリは日進月歩で変化していきます。

当事者のみなさんの「かゆいところ」が移り変わっていくからこそ、viwaの軽いフットワークと幅広い活動内容があるのでしょう。

私たちの活動の源、それは viwaに関わる全ての人から生み出されたニーズにあります。「大学生活で困っています」とある弱視学生からの相談があれば、キャンパスライフや高等教育の専門家にお話を聞く場を作ろう、「目の見えない赤ちゃんが生まれて、これからどうやって育てていけばよいか途方に暮れている」という保護者がいれば、子育てに役立つ情報を届けよう、こうやって毎回のセミナーテーマが決まっていきます。大勢の利益を重視したテーマ設定ではなく、今、目の前にいるその人にとって必要な情報とは何か、私たちにできることは何かを考えて行動するようにしています。

おもちゃ、料理、教育実習、視覚障害学生のキャンパスライフ、サピエ、盲導犬、ロービジョンケア・就労、美容、料理、子育て、視覚障害乳幼児の発達、恋愛など、多岐にわたるテーマやどんどん増えていくコンテンツはその証です。

この「かゆいところ」やおばあちゃんの知恵袋なんて紹介されていたviwaの情報発信の軌跡を読んでいて、以前別の記事で紹介した、Twitter上のハッシュタグ「#視覚障害生活の一工夫」を思い浮かべました。

僕自身もこの本の内容や日々見かける「#視覚障害生活の一工夫」の内容を便利グッズなどの記事紹介に取り入れさせていただいています。

それらが積み重なって…気づいたら大きな力になっているんですね。

当事者みんなのパワーが集まって

本にはスタッフがそれぞれ10年間を振り返って想いや、viwaの活動に参加する家族やスタッフなどのコメントも掲載されています。

読んでいて、いろんな想いを持った人が集まり、また浮かんできた疑問を追い求めていく中で新たな発見や人との出会いがあり、どんどん情報と人の輪が広がっていくという、viwaの歩んできた道のりとその姿がよくわかりました。正に当事者力というタイトルそのものですよね。

まとめ

著者であり、viwa理事の奈良里紗さんについては、noteの記事を拝見することも多く、そのアクティブを少しは知っていたつもりでしたが…奈良さんとviwaメンバーの相互作用というか、どんどん膨らんでいくその人の輪と情報と熱量には、ただただ尊敬の念しかありません。

「奈良さん、次の 10年にむけた具体的なビジョンを語ってくださいよ!」と、この本を作るにあたってスタッフに言われたことがありました。私は真剣に考えました。 2030年の viwaに向けて、これからどうしていったらいいのだろうと。結果、何も戦略は思い浮かびませんでした。

そうです。戦略ではなく、みんなの「ちょっと困ったな」を拾うところから、viwaの活動は始まるのです。それが魅力ですし、その輪に入りたいなとの思いから、遅まきながらメルマガ登録させていただきました。

次の10年でも、さらにその情報と人の輪を広げていくのでしょう。なのでこれからもviwaから目が離せません。

著者の奈良里紗さんは、視覚障がい者ライフサポート機構 viwaの理事としてホームページ上で、また書籍やnote、Twitterでさまざまな情報を発信されています。そちらも是非覗いてみてください。




表紙の画像はブクログより引用しました。