高校陸上 2laps 【2】 高校選び、そして通信までの日々

クラブの仲間が陸上を中心に学校選びを考えるなか、息子はなぜ「陸上」で学校を選ばなかったのか。
高校生になった息子が、いま隣にいるので、聞いてみることにする。
「人生、陸上で勝負はしないから。でも、高校陸上では勝負するよ。競技場に行くと、知り合いに会えるのが楽しいし、練習も、勝負自体も楽しいから」

私は陸上に懸けている人たちを取材しているから、ちょっと寂しくもある。
しかし、無理強い出来るわけもなく、自分の家族のことだから、尊重するしかない。
特に長男には期待を寄せすぎてしまい、彼が10代の頃に親子関係は暗黒期を迎えた。
その後、嫁さんが知恵を働かせたのと、長男本人が自分で歩き出して、今でこそフツーに話せるようになったが、この反省があり、次男とは距離は近い思うが、踏み込んではいけない部分があると痛感している。

● 通信まで

息子の話に戻るが、陸上の勝負の楽しさを、息子は中3の夏に味わったと思う。
5月の多摩東部から始まり、7月の都総体、通信で、息子は陸上の面白さを実感した気がする。
後々、書いていくつもりだが、ウチの息子は中2の夏までバスケット部にいて、中学の陸上部には所属していなかった。ただ、学校の顧問の先生にお願いして選手登録をしてもらい、競技会に出場していた(先生は多摩東部大会や通信まで足を運んでいただき、今も感謝している)。

練習の場所は、「横浜DeNAランニングアカデミー」だった。
このクラブが、息子のスポーツ環境をポジティブな方向に変えてくれた。
息子は火曜と金曜の夜、渋谷のNHK放送センターの北側にある織田フィールドまで通い、仲間たちと練習に励んでいて、私は見学がてら、よく迎えに行った。
クラブの同級生S君のお父さんと、ああだこうだ話しながら練習を見ているのが、とても楽しかった。

週2回のポイント練習の質は申し分ない。ところがなにせ他の曜日は練習しない。塾通いがメインだ。
これでは練習量も、経験も足りない。
練習を見ていると、一本、二本と抜くことが多かった。
十分な練習量が積めていない証拠だった。
そのくせ、ラストの200mとかには我が物顔で参加して、25~27秒くらいでぶいぶい言わせていた。

さて、このような選手を、どうするか?

私はバイブルに出会った。
『ジャック・ダニエルズのランニング・フォーミュラ』(ベースボー ルマガジン社)である。この本は、私にとって金脈となった。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%80%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%A9-%E7%AC%AC3%E7%89%88-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%82%BA/dp/4583110022

年齢別の最大酸素摂取量と、タイムの関係性。
6週間単位で構成される練習プラン。
ポイント練習の考え方。
ジュニアの指導書をとにかく漁ったが、最終的にはジャック・ダニエルズ先生の発想を土台にして考えてみることにした。

この本を通読した私は、練習メニューをコピーするのは無理だとしても、試合に向けて「プラン」を練ることが大事だと考え、乏しい練習量をカバーするには、とにかく試合に出ることが肝心だと判断した。そうすれば息子も飽きずに強度の高い走りを経験できる。
ダニエルズは、試合を「質の高い練習の場」と位置付けていた。

東京の中学陸上の仕組みを説明すると、「地域別多摩東部」で定められたタイムをマークすると7月の「東京都総体」と「東京都通信」に進むことができる。
通信の方がハードルが高く、800mのターゲットタイムは2分8秒50で、1500mは4分28秒00(だったかな?)。
これが全国大会になると、800mは2分00秒50で、1500mは4分08秒00(だったかな?)となっていく。
プランとしては、地域別多摩東部をターゲットとして、その前のGW中の大会で800、1500ともに通信の参加標準のスピードを体感しておいてほしかった。

そこで私は各大学で行われる競技会や記録会の日程を調べ上げ、4月から7月にかけて次のようなスケジュールを組んだ。
結果的には「川内方式」に見えなくもない。

2018/4/22 東京都春季 1500m 4分44秒80 (足底に水ぶくれ)
2018/4/29 東京女子体育大競技会 
100m 12秒62 PB
800m 2分22秒56 

2018/5/3 はちおうじT&F   800m 2分10秒03 PB
2018/5/5 国士舘記録会      400m 57秒03 PB
2018/5/6 国士舘記録会      800m 2分11秒52

こうして書いてみると、去年のゴールデンウィークは競技会にかかりきりである。
私や嫁さんがついていけない時は、大学生の長男をバイトに動員したり、この後の6月の学芸大の時は、息子をゼロ歳の時から知っているシッターさんにお願いしたほどだ。

この時期は、収穫もあった。
GW中の「はちおうじT&F」の800mでは強い組に入れなかったが、府中市内のライバルS君との一騎打ちとなり、最後の最後に差し切った。いまもこのレースのことを息子はビビッドに思い出す。「Sがさ、ラスト100mで振り返っちゃったんだよね」

ストーリーの集積が、次のレースに影響する。
そして狙っていたレースではこのようなタイムが出た。 
2018/5/20 地域別多摩東部 800m 2分8秒04 PB 通信出場権獲得

6月には1500mターゲットになった。

2018/6/9 中大記録会 1500m 4分51秒72
2018/6/17 地域別多摩東部 1500m 4分25秒80 PB
2018/6/30 東京学芸大記録会 400m 56秒94 PB

800mと1500m、両種目で総体と通信には出られたので、どうにか初期目標は達成できた。

● 競技性格
この時期、大会に出場する息子を見て、性格が分かってきた。
とにかく、大きな大会ではかなり集中力が高まり、周りとやたらと話し出すのだが、前哨戦ではまったく気持ちが盛り上がらない。
6月9日に参加した中大記録会では、藤原正和監督、浦田春生前監督が見守る中、なんと4分51秒もかかってしまった。これは、1年生のタイムだ。

藤原監督からは「次がありますから」と慰めてもらう始末。やれやれ、である。
ただし、このときは叱っても仕方がないと思った。一週間後には多摩東部の大事な試合があるわけだし、デフレーションさせても効果はない。それに本人はいたってけろっとしていて、「帰ったら塾に行く」とサバサバしていた。
私としてはかなりガッカリしていたのだが、ここは我慢して静観し、翌週のレースを見るしかないと思った。

すると、4分25秒が出た。
このとき、気合が入った息子はラスト350m地点でわれわれ応援団に向かってガッツポーズを見せてからスパートし、一気にトップに立ったものの、最後には乳酸が溜まって見事なまでに体が動かなくなり、4位に沈んだ。
ところが息子は「いやあ、楽しくなっちゃってさ」と、まったくめげていない。
笑うしかなかったが、「こういう性格なんだな」と合点がいった。

そして、7月は息子レベルの選手たちにとっては、高校受験前の総仕上げになる。

2018/7/1 国士舘記録会 200m 24秒88 PB
2018/7/7 東京都総体 1500m 4分41秒03 (またも足底に水ぶくれで、ターゲットとしていた800mを棄権)
2018/7/21 東京都通信 800m 2分06秒78 PB
2018/7/22 東京都通信 1500m 4分39秒64 (水ぶくれ…)

江戸川で行われた都総体は、Sくんと一緒にAirbnbで民泊してレースに備えたが、水ぶくれで満足なレースが出来なかったものの、ホームトラックである通信では800mでPBが出て中学陸上はひと区切りとなったが、夏休み中のDeNAの合宿には参加した。

● 各校の色合い
競技会に参加していると、中学だけでなく、高校や大学の部活の雰囲気が分かって面白い。

競技会では日体大は緊張感に包まれているが、私は国士舘が好きだったりする。
また、参加する高校で異彩を放っていたのが、立川高校だった。
国士舘大学競技会に登場した立川高校の諸君は、三々五々集まってきて、洋書を読む人やら数学の問題集を解く人など、まったくバラバラのことをやっていた。
400mのレースが始まる時に、「応援に行こう」と声がかかったのだが、中のひとりが「400って、応援してタイムが上がるんですか?」と言っていて、吹き出しそうになった。
その通りなのだ。
400では、応援を聞いている余裕はない。
ただ、そうしたことを発言する雰囲気、それを許容する雰囲気を好ましく思った。
「いいな、あの感じ」。息子も気に入ったようだ。
このあと、立川高校は息子の志望校リストに入る。

写真提供 Ekiden mania 氏

● 陸上と受験の共通点
トライアルレースを踏み、本番に合わせる。このプロセスが受験にも役立つのだから、人生は面白い。
息子は秋から猛然とV、Wの両模擬試験を受けたが、11月までは時間が足りず、知識が必要とされる理社は仕上がらないことが分かっていた。
「11月の模試までは、理社が2本そろうことはないんじゃないかな?」
と息子に話すと、本人も「そうだろうね」と首肯した。
ターゲットを定め、それに向けて場数を踏んでいくことを陸上は教えてくれた。
この発想は受験カレンダーを決定するにあたっても、かなり役に立った。

秋からは志望校選びも本格化した。
私の本音は、陸上で選ぶとするなら、埼玉の立教新座がベストだった。
立教新座は400mトラックを擁し、近年メキメキと頭角を現しており、顧問の先生おふたりの指導ぶりには感銘を受けた。実際、関東インカレを取材しても、立教新座OBが大活躍しており、将来へとつながる指導をしているのが手に取るように分かる。
外部進学クラスも準備されており、体制は申し分ない。

しかし息子には、陸上とか進学実績とか、惚れた学校に行く思考はなく、模試の数字を見て、手の届く最上位の学校を目指す姿勢を崩していなかった。
「陸上では選ばない。偏差値と内申点との相談です」
息子は徹底したリアリストだった。
10月下旬から、彼はまったく走らなくなった。

あるものを捨て、違うものを手にする。
それが息子のスタイルだった。
なぜ、そうなったのかは、彼の中学時代を振り返ってみなければならない。

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?