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ルゥティンは本当に武田羅梨沙多胡よりも長いのか?

1. はじめに

こんばんは。
早速だが、こちらの動画の検証企画を見ていただきたい。
(検証部分は前半:10:18~14:31、後半:24:55~28:50)

この検証の結果は、以下であった。

  • ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも長い。

  • 武田羅梨沙多胡は言うほど長くなかった。

そんなわけないだろう。どう考えても「ルゥティン」が「武田羅梨沙多胡」よりも長いわけがない。この検証は、武田羅梨沙多胡が言うほど長いことを認められない作家さんが仕組んだ、エセ検証なのではないか?

本記事は、この疑問を解消するために検証企画を見直し、「ルゥティンは本当に武田羅梨沙多胡よりも長いのか?」を再検証することを目的とする。

2. 検証方法のおさらい

検証の見直しの前に、まず番組の検証についておさらいをする。

2-1. 検証のルール

番組内では、以下のルールで検証が実施された。

  • 検証では9個のサイコロを使用する。
    このサイコロには、「ルゥ」「ティン」「武」「田」「羅」「梨」「沙」「多」「胡」の9文字のうち、異なる6文字が記載されている。

  • これら9個のサイコロをまとめて振る。

  • 「ルゥ」と「ティン」が2文字揃ったら、2カウントとする。

  • 「ルゥ」と「ティン」のうち、どちらかが欠けていたら0カウントとなる。同様に、「武」「田」「羅」「梨」「沙」「多」「胡」のうち、いずれかが欠けていたら0カウントとなる。

  • カウント数が多いほうが「長い」と判定される。

番組内で説明されていたのはここまでだが、推測するに、以下のルールも存在するだろう。

  • 「武」「田」「羅」「梨」「沙」「多」「胡」の7文字が揃ったら、7カウントとする。

  • 「ルゥ」「ティン」「ルゥ」「ティン」のように2組揃ったら4カウントとする。

つまり具体例を上げると、以下のような文字数カウントになる。

図1:サイコロのカウントの例

2-2. サイコロの目

次に、番組で使用された9個のサイコロの目を確認した。その結果を図2に示す。

図2:サイコロの目の一覧。サイコロ番号は、検証終了時の並びのうち、一番左を1、一番右を9とした。

2-3. 検証結果

動画内の検証では2回サイコロを振り、結論を導き出した。
1回目は「ルゥティン」も「武田羅梨沙多胡」も揃わなかったため、どちらも0カウントであった。
2回目は「ルゥティン」は揃ったが、「武田羅梨沙多胡」は揃わなかった。つまり、9文字中「ルゥティン」は2文字存在するのに対し、「武田羅梨沙多胡」は0文字であった。
この2回の結果から「ルゥティンは武田羅梨沙多胡より長い」と結論づけられている

3. 検証方法の見直し

さて、本題の検証方法の見直しに移る。検証方法には、2点ほど適当ではないと思われる点が見られた。順に確認していこう。

3-1. 試行回数

まずは試行回数だ。
動画では2回しかサイコロを振っていない。つまりデータ数が2しかないのである。コイントスを2回して2回表が出たのを見て、「コイントスの結果は表になる」と結論づけるのは馬鹿げている。2回というのは、確率を論ずるにはあまりにも少ない。
ここを見直し、ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも本当に長いのか再検証する

「検証方法が少ない」の解決策として一番最初に思いつくのは、実際にサイコロを振って試行回数を増やすことである。しかし、サイコロを準備するのはコストがかかるため、可能なら避けたい。あみあみスタジオへ行って既に準備されているサイコロを振ろうとも考えたが、赤と青のジャージを着た女性2人組が無限に机の周りを回り続けていたため、サイコロを振る十分なスペースが確保できなかった。
そのため、試行回数を増やすという方法は諦めることにした。

次に思いつく方法は、期待値を計算することである。サイコロを1回振ったときに、それぞれの名前が何カウントになるか、を計算で出せればよい。しかし、図2に示す9個の異なるサイコロの出目が何通りになるのかを、どのように計算すれば良いのか全くわからない。らりルゥれろは、「意思エネルギーの観測方法」は教えてくれても、「場合の数(数A)」は教えてくれない。
そのため、この方法も諦めることにした。

最後に思いついた方法は、プログラミングを使って数値計算的に期待値を算出する方法だ。しかし、私は学生時代以降プログラミングに触れていないため、こんな複雑なサイコロの出目をどのように処理すればいいのかわからない。サイコロを振って「ルゥティンが揃った」「武田羅梨沙多胡が揃った」を判別するプログラムを作成するには、私の技術はあまりにも不足している。
そのため、この方法も諦めることにした…という展開になるはずだった。

しかし、ある動画との出会いによって、この問題は解決された。

そう、素因数分解である。
素因数分解を使えば、サイコロの出目が揃っているかを判別できる。

方法は次の通りだ。
まず、「ルゥ」=2、「ティン」=3、「武」=5、「田」=7、「羅」=11、「梨」=13、「沙」=17、「多」=19、「胡」=23、というようにサイコロの目に素数を割り当て、数値に変換する。
次に、それぞれのサイコロの目からランダムに数字をピックアップする(これが出目に相当する)。
これらピックアップした9個の数字の積を計算することで、出目の組み合わせを数値化できる。

図3:素数を使ったサイコロの出目の表し方

最後に、計算した積がそれぞれの名前に対応する数字(ルゥティンの場合 2×3=6、武田羅梨沙多胡の場合 5×7×11×13×17×19×23=37,182,145)で割り切れるか確認することで、出目に名前が揃っているのか判別できる。

図4:名前が揃っているのかの判別法

ちなみに、もし「数字が割り切れるか確認する方法がわからない」というれろっ子がいたら、らりルゥれろ第94回を見てほしい。この回で説明している通り、modが0になれば割り切れるということである。図4に挙げた144345210を例にとると、144345210 ≡ 0 (mod6)であるため、この数字は6で割り切れるが、144345210 ≡ 32798775 (mod37182145)であるため、37182145では割り切れない事が確認できる。

らりルゥれろは「場合の数(数A)」は教えてくれないが、「整数の性質(数A)」は教えてくれていた。ためになるラジオだ。いずれ場合の数も教えてくれるかもしれない。

話が長くなってしまったが、この方法を使うことでサイコロを振る~名前が揃っているかの判定まで計算できるようになった。あとはforループ(この程度なら学生の頃に習ったことがある)を使って100万回程度計算してやれば、数値計算的に期待値が計算できる。

ということで、サイコロを100万回振って期待値を計算してみた。結果は以下だ。

図5:期待値計算結果

1回サイコロを振ったときに、ルゥティンが揃う確率は46.94%、武田羅梨沙多胡が揃う確率は1.66%となった。ここから、ルゥティンの期待値は0.94カウント、武田羅梨沙多胡の期待値は0.12カウントであることがわかった。

つまり、試行回数を増やしても「ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも長い」という結果になった。そんなはずはない。そんなはずはないので、2点目のおかしな点を確認していこう。

3-2. 目の配置

試行回数以外にも見直す点はある。それは目の配置だ。
図2のサイコロの目をもう一度確認してほしい。おかしなところはないだろうか?

図2 再掲:サイコロの目の一覧。

そう、サイコロの目が均等に配置されていないのだ。
9個あるうち、5個のサイコロはルゥティンが2面配置されているのに対し、サイコロ1と3は1面しかなく、サイコロ5と6は1面もない。
私は数学に明るくないので詳しいことはわからないが、ここに作家さんの"仕込み"があるのではないか?サイコロの目を均等に配置しなおすことで、ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも短い、という本来の結果が得られるのではないか

そのため、サイコロの目を以下のように配置しなおしてみた。

図6:サイコロの目の一覧(パターン2)。

このパターン2なら、ルゥティンが1面 or 2面と均等に配置されているため、本来の結果が出るだろう。
ということで、もう一度サイコロを100万回振って期待値を計算してみた。結果は以下だ。

図7:期待値計算結果(パターン2)

1回サイコロを振ったときに、ルゥティンが揃う確率は48.71%、武田羅梨沙多胡が揃う確率は1.73%となった。ここから、ルゥティンの期待値は0.97カウント、武田羅梨沙多胡の期待値は0.12カウントであることがわかった。

目を配置しなおしても、「ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも長い」という結果になった。そんなはずはない。きっと、サイコロの目の配置方法が悪かったのだろう。

再度、サイコロの目を配置しなおし、以下のようにしてみた。

図8:サイコロの目の一覧(パターン3)。

今度のパターン3は、ルゥティンが0面 or 2面となるように均等に配置してみた。今度こそ本来の結果が出るだろう。
泣きの一回で、サイコロを100万回振って期待値を計算してみた。結果は以下だ。

図7:期待値計算結果(パターン3)

1回サイコロを振ったときに、ルゥティンが揃う確率は46.03%、武田羅梨沙多胡が揃う確率は1.64%となった。ここから、ルゥティンの期待値は0.92カウント、武田羅梨沙多胡の期待値は0.11カウントであることがわかった。
サイコロの目を配置しなおすと多少確率は変化するものの、期待は大きくは変化しなかった。

何度検証しても、「ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも長い」という結果になる。そんなはずはない…と思うが、これ以上、検証におかしな点は見つからない。
これはもう、番組内の「ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも長い」という検証結果は正しかったと考えるしかないだろう。

4. まとめ

本記事では、検証「ルゥティンも意外と長いかも」を見直すことで、「ルゥティンは本当に武田羅梨沙多胡よりも長いのか」を再検証しようとした。
その結果、「試行回数」「目の配置」という2つの軸で検証を見直したにもかかわらず、動画と同様に「ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも長い」という結果が得られた
科学の世界では、時折、直感に反する現象が見つかることがある。従来の価値観からすると否定したくもなるが、その現象を証明するデータがあるのであれば、それを受け入れ、考えを改めるべきである。今回の検証も同じなのではないか。ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも長いのである
記事冒頭で番組内の検証を「エセ検証」と呼んでしまったが、これは撤回せねばならない。この検証は「ルゥティンは武田羅梨沙多胡よりも短い」という既存の説を覆す、本物の検証であったと言わざるを得ない。今後は私も「武田羅梨沙多胡 言うほど長いか?」と常に疑う気持ちを忘れず、今後の番組、および、その検証を見守っていこうと思う。

5. 謝辞

本記事の執筆にあたり、テーマを与えてくださったバラエティ番組「らりルゥれろ」に深謝いたします。また、検証用プログラムの完成に至るためのキーワード「素因数分解」に気づくきっかけをくださったバラエティ番組「らりルゥれろ」に感謝いたします。最後に、バラエティ番組「らりルゥれろ」には、科学的知見や論理的思考について多くを教えていただきました。心より感謝いたします。

EX. 補足

Ex-1. 教育番組としてのらりルゥれろ

らりルゥれろが教育番組であることは知っていたが、それは国語の分野に特化した教育番組だという認識であった。というのは、らりルゥれろはことわざや故事成語に関する検証が多いためである。
しかし、今回の再検証を通して、らりルゥれろは数学(中学~数A相当)の内容を初心者にも分かりやすく説明していたことに気付かされた。更に、最近の検証を振り返ってみると、「無限」をテーマにした検証も実施されていた(下動画参照)。これは「関数と極限(数III)」に含まれる内容であり、通常高校3年生で習う高度な単元である。
これらの事実を踏まえると、らりルゥれろは国語だけでなく数学の分野にも精通した教育番組だと言えるだろう。

今回は数学についての気付きがあったが、私が認識できていないただけで、らりルゥれろが他分野の教育も実施している可能性がある。らりルゥれろの教育番組としての有用性については、また別の機会に検証したい。

Ex-2. 本記事の内容について

本記事は、記事内容を通じて元ネタである番組「らりルゥれろ」に興味を抱いてもらうことを目的に作成しました。本記事の内容は私個人の解釈であり、番組スタッフや演者の意図や見解とは異なる可能性があります。ご承知おきください。
また、記事の内容に誤りがあった場合はコメント等で教えてもらえると嬉しいです。

以上。


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