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「ポーランド国立放送交響楽団 岡山公演」を迎えるまでの気持ちと当日の出来事と感想

ポーランド国立放送交響楽団
Japan tour 2022
指揮:マリン・オルソップ
ソリスト:角野隼斗(ピアノ)

日時・2022.9.14(水) 19:00〜
場所・岡山シンフォニーホール


公演の感想を書こうと思いながら、どこから書き始めていいのかわからなくてすっかり止まってしまった。

(これは私の個人的な角野隼斗さんへの想いと感想と岡山公演当日の出来事などをただまとまりなく書き残したものです)

この公演への私の想いは多くのファンの方と同じ昨年のショパンコンクールに遡る。

あの日、彼の名前は読み上げられなかった。
早朝の結果発表を聞いたあと、私はベッドから起きられず、私が落ち込んで何になるんだと思いながらも何度も何度も涙が出た。

ファイナルへの道が途絶えたあの瞬間、彼が心から楽しみにしていたであろうConcerto No.1を弾かぬまま帰らなくてはならないという事実がただただ切なかった。


なのであのコンクールを経て、この公演が決まった時の喜びと衝撃を思い出すと本当に感慨深い。

ポーランドに置いてきた大きな忘れもの。
それをなんとポーランドの方から彼を求めてやって来てくれるというのだから、コンクールの真の結果ってこういう事なんだなぁって。ファイナリストにはなれなかったけど彼には彼らしい道がやはりあの時から開かれていたんだと感じて嬉しかった。
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僕は“音楽って楽しいんだ”って。
“楽しい”っていうと陳腐な言葉のように聞こえるかも知れないけど、それでも僕は一周回って“音楽は楽しい”んだということを、伝えたいということに尽きると思います。
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ソロツアーファイナルでの彼の言葉が、頭の中で鳴り響いていた。


あのコンクールから一年が経とうとしている。
この一年はものすごい飛躍の年だ。ジャンルを飛び越えて、話題をかっさらい、目を見張るようなスピードで…もうショパンコンクールなんて踏み台にしてずいぶん高いところまで駆け上がっていったようにさえ見えた。
なのに私は時々思い出しては苦しくなる。何にこだわり続けているんだろうと自分でもよくわからない感情。そしてそんな思いを抱いているのはこちらだけだとも思っていた。

けれど公演も迫るあの日、ポーランド国立放送交響楽団が大使館で記者会見を行った際に共に登壇した彼が「今回のツアーは自分の中でのショパンコンクールが完結する機会と考えています」と語ったという記事を読んで私はまた泣いてしまった。彼がこの公演にかける想いを想像すると改めて胸が熱く痛く苦しくなった。
だけど大きく成長した彼は「さぁやるぞ。見ててくれ」と両手を広げて会場で待っていてくださるはず。
一体どんな世界を見せてくれるんだろう。
期待とどこか不安に似た感情。私は客席で嗚咽を堪えられないくらい泣いてしまうんじゃ無いかと思った。タオルは必須だろうから用意していかなくては。


今回のコンサートはショパンコンクール前から角野隼斗を応援してきたファンにとっては外せない公演。
けれど発表された時からそのプログラムにも注目していた。我らが岡山では、私が子供の頃から大好きなドヴォルザークの交響曲9番。これは角野さんのピアノ以外も、心から聴きにいけてよかったコンサートになること間違い無い。
そして私にとっては、クラシック音楽という共通の趣味をもつ愛娘とこのコンサートを共有できることもまたとても幸せな時間だ。

当日は駅周辺でTwitterのFFさんと合流したい私と、平日なので学校に行く娘は客席で落ち会う約束をして出かけた。晴れの国は夏の晴れ空だ。暑い。

夜の公演までの間、岡山駅、ホテルのティーラウンジ、駅前、ホール前、ホールのロビー等で会いたかったFFさんたちとどんどん合流することができ、最終的にはお声を掛け合っていた方々総勢11名と一同に出会うことが叶った。
初めて会うのに旧友に会うような安心感と喜び。同じ方向を向いている仲間と想いを共有するってなんて嬉しいことだろう。
楽しみやこの日を迎えた喜びが倍に倍に増幅して、その時を迎えられたように思う。なんて幸せなんだ。
客席に入ると娘が座席で待っていた。「ワクワクするね」と肩寄せて言葉を交わす。この時間もまたこの上ない幸せ。

開演の鐘が鳴り、楽団の方々がステージに現れた。このホールでお迎えできることもまた私の中ではとても感慨深いのだ。大きな拍手。会場全体がもう待ちきれない気持ちでいる。

1曲目は「オーケストラのための序曲」
最初の一音から一流のプロの音。弦の音色の素晴らしさよ。管楽器の美しさよ。オルソップ氏の指揮、とても好みだ!右隣からは娘の興奮が伝わってくるようだったし、左隣の若い女性も食い入るように聴いている。曲が終わると思わずスタオベしたくなるような爽快な満足感!いやいや…だからまだ序曲ですってば(笑)と自分自身に心の中で突っ込んでしまった。

拍手の落ち着きに合わせるようにスタッフの方がピアノの準備を始められた。
いよいよピアノコンチェルトが始まる。

舞台袖から颯爽と現れる角野さん。
今回私はお顔を正面側から拝見できるお席。表情まで見える。
またしてもオケは一音目から心を鷲掴みにしてくる。ついに始まってしまったのだ。
角野さんの一音目は私の心をどちら向きに揺さぶるだろう。私は祈るように指を組んだまま彼の表情を見つめ続けていた。
切ない和音に胸が苦しくなるかと思いきや、角野さんの物凄い集中力に吸い込まれ、睨みつけるような眼差しで私はそれを見守っていた。
来た。角野隼斗がやってくれる。

そういえば私、角野さんのコンチェルトを生で聴くのはこのツアーが初めてなのだ。
初めて聴いたコンチェルトがこの1番だなんて。改めてなんだか感動してしまうけれど。
曲目にもよるのかもしれないが実は私の持っているピアノ協奏曲のイメージはというと、オケの中でピアノが一生懸命に弾いている。というもの。
だけどこの演奏は全く違った。
オケの音色にピアノが寄り添って、ピアノの演奏をオケがそっと包み込むような。そんなシーンの繰り返しをとても穏やかでおおらかで温かい気持ちで見守りながら聴くことができた。
オルソップ氏の指揮は柔らかく力強く繊細でとてもとても魅力的だ。
こんなにも指揮者とソリストは対話をしながら演奏するの?知らなかった。こんなに温かくお互いを尊重し合い、高め合う姿をダイレクトに目の当たりにするコンチェルトを体験するのは初めて。
嬉しかった。角野さんの奏でる1番をこのオケとこのマエストラとの共演で聴けて本当に幸せです。
大好きな2楽章は、まさしくうっとりと…とろけてしまいそう。静寂のホールに響くピアニシモの美しかったこと。
演奏のボルテージが高まるにつれ、私はだんだん目頭が熱くなって行くのがわかったけれど、涙は下瞼にとどまり、次の瞬間には満足そうな角野さんの表情を見て嬉しくて思わず微笑んでいました。あぁなんという至福の時間を共有しているんだ。
終盤に近づくとだんだんと寂しい気持ちになってきた。終わってほしくない。ずっと聴いていたい。一音たりとも聴き落としたくないとまた睨みつけるような眼差しで見つめながら聴いていました。

もし私の表情をずっと見てる人がいたらさぞや面白いことだったでしょう。しかめ面に泣き顔に笑顔にうっとり顔と大忙しで。

最後の音を聴き終えて、迷いなく立ち上がりました。周りも見事なスタオベ。大きな大きな拍手。
叫びたい。はぁぁぁぁ!!!両手を高く打って、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
嬉しい!嬉しい!素敵!ブラボー!!!この想いをどう伝えればいいの。

そして角野さんの嬉しそうなお顔。
深々としたお辞儀。
この瞬間が一番泣けてきました。
こんなにも素晴らしい演奏を大切に大切に奏でてくれて、聴かせてくれて、ありがとう!

鳴り止まない拍手の中で、あ!アンコール…と思って着席するやいなや始まった、トッカティーナ!!!!
キターーーーーーー!!
♪───O(≧∇≦)O────♪
やばいーーーーーー!!
思わず両手ガッツポーズで椅子の上で飛び跳ねたかもしれない(笑)
実はソリストアンコールで一番聴きたいと思っていた「トッカティーナ」
やってくれた!岡山で!!
実は会場に入場するときにFFさんたちとも「トッカティーナ来ないかなぁ」と話してたのです。
勿論ちゃんと期待通りの位置で、指パッチン高らかと鳴り響きましたよ。

かっこよすぎて、かっこよすぎて、興奮しきりのまま休憩時間へ。。。
会場外でFFさんたちと喜びを分かち合い、また各自の席へ。

さぁ、こちらも楽しみにしていた「新世界より」の始まりです。
前日の福岡公演での様子もお聴きして、さらに期待が高まっていました。
ピアノが移動されたことで指揮がバッチリ見えるようになり、楽団の皆様もよく見える。
みんな大好き2楽章は今日の高揚しすぎた心を少し落ち着かせてくれるような優しい時間でした。
弦も管も打楽器も本当にそれぞれ素敵で、一人一人が主役級。
全ての楽章に好きポイントがあるけれどやはり私は4楽章。どうしてこの曲はこんなにテンションが上がるのだろう。しかしあんな躍動感のあるコントラバス、日本のオケでは見たことないよ。チェロかと思ったわ(笑)最高です。

勿論最後は飛び上がる勢いでのスタオベ。鳴り止まない拍手の中でも一番大きな音で叩きたいと思ってしまうようなそんな気持ち。私たちの興奮と喜び、ステージ上までちゃんと伝わったかな。

アンコールの二曲もノリノリで!身体も揺れる。オケの皆さんもオルソップ氏も本当にお幸せそうで嬉しかった!その都度起こるスタオベと拍手の嵐。
オルソップ氏の胸に手を当ててのご挨拶はカッコよく素敵で、手を合わせてのご挨拶はなんだか微笑ましくて嬉しかったです。


待ち続けていた公演が終わってしまった。

「角野くんの…角野くんの想いが……」とこだわり続けたコンチェルト。
聴き始めたらそんなことすっかり忘れてしまうような、ただただ素晴らしく素敵な彼らしい演奏を聴かせてもらうことができた夢のような時間でした。


着実に自分の手で多くのものを掴んできたこの一年。あの時のそっと抱きしめてあげたかった背中はもう無いのだと改めて感じた。

彼の肩書きの上段にショパンコンクールの文字はもう必要ないのではないかと思う。
悔しかった想いはその手で昇華した。
これは完結ではなく新しい 角野隼斗 の幕開けだ。


【演奏曲目】
バツェヴィチ/序曲
ショパン/ピアノ協奏曲第1番(ピアノ:角野隼斗)
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」

アンコール
・カプースチン: 8つの演奏会用エチュード Op.40 第3番「トッカティーナ」
・歌劇《ハルカ》
   第1幕:マズルカ
   第3幕:高地の踊り

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