声なき人

歌を書いて人前で歌うようになって20年になる。何事においても全体的にスタート遅めな自分は、ミュージシャンが一端のプロで華々しく活躍し始める年齢にようやくキャリアウーマンを辞めてフリーランスになり、音楽学校に入ってやっとその業界の扉を叩いた。初めて自分のソロのライブをやったのは30手前。どんだけ遅咲き!笑と良くやっている若手ミュージシャンからも笑われる。

そのスタートの遅さから考えたらほんと良くやれてるよな、と自分で褒めたいこともある。光の見えない谷底からたった一人で岩だらけの垂直の崖をひとつずつ突起をつかんで足をかけて手を伸ばして、ひっそり登っていったような。ド派手に世界ツアーをやれるようなメジャーの売れっ子にはなれなかったけれど、自分のやりたい一級の人が、自分のやりたい音楽をやりたいペースでやるのに協力してくれるというのは、ミュージシャンとしてはかなり幸せな部類といっても良いと思う。

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ずっと自分の曲を書いて歌ってきたが、我がの為だけに物事を突き詰めていくのは、自分には限界があるのかもしれない。好きな料理だって、美味いものに外で出会えば今度宴会でこれアイツらに食わせてやろう、と味の分析を始めるし、出せるレベルになるまで家で何回も作るしプロのレシピを調べては取り入れる。なんならその店の人に作り方聞いたりする。

でも、これを[みんなに]食べてもらいたい!っていう言葉はなんかどうも違って、それは自分の曲を書いている時でも同じ。[みんなに]聞いてもらいたい!っていう言葉は少しも当てはまらない。

あの歌とても良いね、と評価される曲は大抵、誰かのことを書いたもの。料理でも、みんなに食べてもらいたいのではなく、はっきり”アイツら”の顔が思い浮かぶ。

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DUAL WORKに従事しているものの、自分のやりたいようにやってきた結果で、別に新しいケースモデルを作りたいとか、世の中の人に新しい働き方のスタイルを示したいとか、そんな大仰なことは考えていない。それでも、自分の生き方に影響されてると言ってくれる人がいたり、コメントも何もしないけどずうっとブログを読んで下さってる方がいたり、私を見たり聞いたりしてくださってる方は、SNSや数字には派手に出ない。

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たった一人の人が自分を見てくれてるというだけで、人はどれほど明日への希望を感じるのだろう。私はそういう、声を出さずに、でも確実にそこに生きて、私を見てくれている人々に、私もここにいますよ、と言いたいのかもしれない。

「それでは聞いてください!」ではないそういう感覚は、何て言えば良いんだろう。それにぴったりくる言葉をずっと、探している。


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奥本めぐみ

音楽家。8歳わんこ♀と横浜暮らしhttp://megumiokumoto.blog.jp/
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