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令嬢改心:1-1 突然ですが、事件です(1/4)

あらすじ:
「ヴィオレット、今日こそ君には反省して貰う。君のその鼻持ちならない性格が矯正されるまで、僕、第八王子リュカの意思でもって――君との婚約式を延期する!」
公爵家主催の夜会の途中、執事エルネストが仕える主人、意地悪公爵令嬢ヴィオレットは第八王子リュカに婚約延期を言い渡されると、自らを否定された公爵令嬢が倒れてしまった。
数時間後、目を覚ました公爵令嬢は別人のように庶民的な性格に変わっていた!
王子リュカは喜んだ。庶民派令嬢に鞍替えしたヴィオレットは「このままでは悪役令嬢として王子に処刑されるかも! ただのジョシダイセイなのに」などと、訳のわからないことを言って節制に勤めだす。それは一見良いことのように思えたが、執事エルネストは困る。高位令嬢にして公爵家の後継者であるヴィオレットには、公爵家の顔として他を圧する高貴にして高慢な令嬢であった方が良かったのだ。
しかも、公爵令嬢の浪費が止まると、彼女の派手な散財で保っていた自領の経済がいよいよ音を立てて冷え込んで行く! エルネストは元の令嬢を取り戻し、領の平和を守れるか? 大体執事の胃が痛いファンタジー。


一章1話:突然ですが、事件です。(1/4)
 そこは童話のような、空に浮かぶ雲の上の城。
 魔法のシャンデリアに照らされたホールには、紳士淑女が集っていた。
 ホールの片隅、一際に輝かしい紳士淑女の集う場で、その騒ぎは起こる。
「ヴィオレット、今日こそ君には反省して貰う。君のその鼻持ちならない性格が矯正されるまで、僕、第八王子リュカの意思でもって――君との婚約式を延期する!」
 貴色である白を纏った青年の影には、一人の少女が隠れている。怯え竦む小柄な少女を庇う騎士然とした青年は目の前の人物を睨みつけており、その目前には謎めいた笑みを浮かべる真っ赤なドレスの美女が立っていた。
「婚約延期……ですか」
 ほっそりとした首を傾げた美女は長い睫毛を瞬かせると、赤い唇から紡がれた美しい声を響かせる。
「そうだ! 君のそのどうしようもない性根が正されるまでは、婚約式を延期する心算だ!」
 青年からそんな演劇めいた台詞が飛び出したものだから、ホールに集った面々はざわめき、流れていた楽団の華やかな音楽が止まってしまう。
 少し遅れて、歓談を続けていた人々の目線は一人の青年の言葉に吸い寄せられた。
 ……さてこの事態、どうしたものかと考えたのは真っ赤なドレスの美女だけではない。私こと、司会進行役を務める執事のエルネストもである。
「全く困ったお方ね……騎士の真似事は別の時にやって貰いたいものだわ」
 真っ赤なドレスの美女こと、我が主のヴィオレット様はそう小さく呟いた。ヴィオレット様の側に控えていた私はその呟きを拾うが、全く同感である。
 いや本当に、第八王子殿下は何を考えているのか。今も仕立ての良い白のダブレットの胸を張り、ヴィオレット様を睨みつけていらっしゃるが……そういう場ではないんだが。
 乙女の好きな恋愛物語ならば、如何にもひ弱そうな少女とそれを庇う騎士の方が正義となるだろう。
 が、残念ながらこの場は、悪役然とした美女が催した夜会であって。
 どちらが場を騒がせているのかと言えば、まあ、青年と少女の方である。
 事の始まりはと言えば、ヴィオレット様が第八王子殿下の影に隠れている少女の服装について言及した事からが始まりであるが、まあそんな事、貴族においてよくある事だ。弱みを見せればそれが話題の種となり、誰かの踏み台にされるのが常。
 夜会とは、華やかに見えるがその実油断ならない場所なのである。

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