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令嬢改心1-2:流石に反省して下さい、殿下。(1/3)

「さて殿下。私が人払いした理由はお分かりで?」
「……僕と一対一で話したいからだろう? 先程の行いは、どういうつもりかと」
 ソファに座った第八王子殿下は、些か憂鬱そうに金茶の癖毛をくしゃりと乱すと、溜息を吐く。それに頷き、私はテーブルに二人分のティーカップを並べてこう続けた。
「正解です。意外でございました。騎士ごっこの余韻で、てっきり反発なさるかと思いましたが」
「お前な……僕を何だと思っているんだ。人が一人倒れたっていうのに騒いでいられる程、根性悪じゃないつもりだぞ」
 そう言って、第八王子殿下は二人掛けソファの背に肘を置くとふて腐れたように頬杖を突く。
 ここは、公爵家の応接室。
 夜会の喧噪から遠ざかり、第八王子殿下と私は、急に倒れられたヴィオレット様の回復を待っていた。
 そのついでではあるが人払いをし、殿下に釘刺しをしておこうかと声を掛けた次第である。
「僭越ながら申し上げさせて頂けば、此度の事、短絡的な行いでございましたね」
 メイドが淹れたお茶をテーブルに並べた私は、第八王子殿下の対面に座る。
 一介の執事の分際で王族と目線を交えるなど本当はいけない事なのだが、同年代で古なじみである私達の間では、長話の時は座って話すことと、まあそういう取り決めになっているのだ。
 ――ちなみに全くの余談であるが、騒動のきっかけとなった問題の令嬢は、殿下の影に隠れて付いて来ようとしたが、別室に閉じ込め……もとい、ご丁重に扱い、くつろがれている筈である。
 あの婚約延期騒ぎの時、裏で来客へのもてなしを進めつつ軽く調べたところ、簡単に問題令嬢の素性は割れた。
 彼女の名はメラニー。年の頃は十六とヴィオレット様の一つ年下で、夜会デビューしたばかりの男爵家の長女であるという。
 令嬢のお家の名は古いものだが、いかんせん私の情報が古いのか、かの家に年頃の令嬢がいらした事を初めて知った。
 騒ぎの最中、接客のついでにヴィオレット様のご友人がたにメラニー嬢の印象をそれとなく聞いてみたが 、
『初めて見た方ね。正直言って、あの不恰好……失礼。お似合いでないドレスしか印象がありません』
『そうですね、不思議な方でした。まるで商人のような口ぶりで、あのお似合いでないドレスを自慢げに己の家の物だと語ってみたり。商売の話など、社交の場ではしたない事ですのに……』
『どんな方かって? 本日初めて見ましたし、あの斬新と言いますか、ドレスぐらいしか記憶にありませんけれど……』
『そうね、わたくしも商売の話をされたわ。社交はまるでする気もなく、突然に新しいドレスがどうのと。一体あの方、何をしに来たのでしょう?』
 などという呆れた声が聞かれ、皆様、あの騒動までは失礼な男爵令嬢と冷たくあしらっていたそうである。
 ……皆様の話を聞くに、大分変わった手合いだなと私も思う。初めて参加する高位貴族の催す社交場に、商売に来たとしたら肝が座り過ぎだ。不敬を謗られても仕様がないと思うが。
 男爵令嬢の件も、どうにかせねばならないが……。ヴィオレット様付きの侍女達が責任持って対処すると言われた為、報告待ちの状態だ。
 ……と。そちらの事は後で考える事にして、今は目の前に集中しよう。

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