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令嬢改心 1-1:突然ですが、事件です。(3/4)


 ヴィオレット様は普段から、王都や高位貴族達の夜会に招かれては、名高い貴族の方々との宮廷言葉の高度な応酬――嫌みとも――を操るばかりに、新人令嬢の拙い反応が楽しくてならないらしいのだ。
 まあそれが、身分差を利用した嫌がらせでないのかと言われれば、実際そうなのだろうが。
 何せ我が主人こと、公爵家のご長女でいらっしゃるヴィオレット様は、数年前に夜会デビューしてからこちら、権を競う事を趣味となさっている。
 己の美を追究し、美辞麗句を並べながらも相手を上手く下へ置く術は何時もながら圧倒的で、その名は王国広しと響き渡っていた。
 対する我が王国の末の王子、リュカ様は騎士の真似事が大変にお好きで、潔癖なる騎士の物語……強きを挫き、弱きを助ける……おとぎ話の騎士が大好きな、まあ、少々理想家過ぎる王子として有名だ。
 当然ながらこの二人、相性が良い訳がない。
 以前から相性最悪な婚約者同士であるとは思っていたが……まさか、こんな事になるとはと、執事の私は長々と吐きたくなる溜息を堪えた。
「エルンスト……お前、友を裏切るのか」
 殿下はそう悔しげに仰るが、
「裏切るも何も、私はヴィオレット様の執事ですので」
 そう答える他ない。
「くっ……!」
 ヴィオレット様は私と第八王子殿下の言葉を薄く笑みを浮かべながら聞いていたが、話が終わるやいなや、誤解を解くように穏やかな声で話し出した。
「本当に、誤解ですのよ。わたくし善意でお話していたのです。そちらの……お名前を聞いておらず失礼ですけれど、何方だったかしら? ともかくご令嬢が、大変お可哀想なドレスを着ていらしたから、同情差し上げていただけです」
「ひ、酷い……」
 あんまりと言えば、あんまりな言い様だ。悲しげに声を上げた少女の声に、第八王子殿下は更にいきり立った。
「……ヴィオレットッ! 何が善意だ、君は言ったそばから人を……!」
「まあ、リュカ様。そんなに声を荒げては皆様が怯えてしまいます。もっと穏やかにお話下さいませ」
 社交界の華はいきり立つ相手を前にしても慌てず騒がず、幼子をあやすように第八王子殿下に対する。
 切れ長の目が柔らかく伏せられ、穏やかに見つめる紅茶色の目はどことなく愉快げだ。
 ……こんな時だというのに、この人は。絶対状況を楽しんでいるなと、ヴィオレット様の横顔を眺めつつ私は内心に溜息を吐いた。

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