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創作》拍手喝采

僕は高校に入学してすぐ、なんとなく憧れていた吹奏楽部に入った。
担当楽器はトランペット。
部内にいる人たちは、中学生の頃から続けている人が殆どだったから、僕は家に帰ってからも練習をしていた。
もちろん、自宅で大きな音を鳴らしたら怒られるので、練習場所は自宅から近い、川沿いの土手だ。

♪〜♪〜

周囲に人気はない。
しかし、1曲通して吹き終わると、どこからともなく拍手が聴こえてくる。

もちろんそれは人間の拍手ではない。

土手沿いに生えた草が、毎度タイミングよくザワザワとうるさく騒ぐのだ。
最初はネズミとか猫とか、生き物の仕業かと思ったのだが、どうにも違う。
偶然に風がそよいだ、わけでもない。
吹き終わるのを見計らったように沸き起こるので、僕はいつもこの拍手がとても嬉しかった。
それもあって、僕はいつもここで練習しているのだ。

そんなある日、いつものように土手に行くと、長く伸びていた草達が綺麗になくなっていた。
どうやら清掃活動の一環で、土手沿いの草達も刈られてしまったらしい。
なんだか残念な気持ちのまま、僕はいつものように練習を始めた。

♪〜♪♪〜

1曲吹き終わると、どこからともなくいつもの拍手が聴こえてきた。
気付けば綺麗に刈られていたはずの土手沿いの、ある一画だけ草がにょきにょき生えてきていたのだ。
僕は驚きつつも、もう1曲演奏。

♪♪〜♪〜

吹き終われば、再びの拍手喝采。
清掃活動をしてくれた人達に申し訳ないなぁと思いつつ、僕はもう1曲吹き始めた。


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