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『ホット アンド コールドスロー』新しい生命の誕生を感じる日々の中で、一人の女性が向き合う自分の「生」

昨年の今頃、Twitterで公開されるやいなや大きな話題を呼んだ作品がある。

それが平庫ワカ先生の『マイ・ブロークン・マリコだった。

「友達の遺骨を奪って走る漫画です。」という言葉と共に公開されたその作品は、そのタイトル通り自殺した友人の遺骨と旅に出るという重いテーマを扱う物語だった。けれど、思わず胸が熱くなる友情と疾走感溢れるストーリーは、思わず一気読みしてしまうほどの魅力があった。

とんでもないものを読んでしまった...と感じるほどのあの読了感を今でも覚えている。そして、この作品が平庫ワカ先生のデビュー作だということもマンガ情報サービス「アル」はもちろん様々なメディアで話題になった要因の一つだった。

マイ・ブロークン・マリコ』という衝撃的な作品と出会ってから1年が経った。

こんなにも自分の心に残る作品にも関わらず、私は平庫ワカ先生の最近の作品について全く把握してなかったこと対して後悔していた。早速調べてみたところ昨年の8月にホット アンド コールドスローという読み切り作品を発表していた。

主人公は、出産を間近に控えた専業主婦、小岩 糸。前作の主人公と違って「死」ではなく、新たに生まれる「生」と向き合う女性のお話だ。

さぞ希望に満ち溢れた物語かと思っていたら、やはり『マイ・ブロークン・マリコ』の作者・平庫ワカ先生は一筋縄ではいかない。

新たな生命を迎えるにあたって、変わっていくこと。それは例えば、夫婦の在り方であったり、自分自身であったり。そもそも普段は呑み込んでいた日々の「何か」に疑問を抱くことだったり...。

そんな新しい生命の誕生を日々感じる中で、自分や周囲の存在について改めて問いかける作品だ。心の機微を象徴するアイテムとして「コールスロー」と「春のパンまつり」といったアイテムが登場するのだが、それらがまた作中に絶妙なニュアンスを添えている。

題材が「死」でも、反対に「生」だったとしても、物語に終始漂うどこか無機質な空気感、そして突如巻き起こる登場人物たちの強い衝動にも似た感情の爆発は読み手の心を揺さぶる。

昨年私に衝撃を与えた平庫ワカ先生は、時を経てまた忘れられない読書体験を私にくれた。


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