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夢なし先生の進路指導【取り急ぎ語らせてください。/第2回】

 マンガライターのちゃんめいが、タイトル通り「取り急ぎ語らせてください。」と感じたマンガを紹介する本企画。読み終わった後の鮮度高めの感情のままに書く、というショートコラムになっています。第2回目に紹介するのは笠原真樹先生の『夢なし先生の進路指導』です。


 『夢なし先生の進路指導』(以下、夢なし先生)を人におすすめする際に「いや、ちがう! ちがうんだ! 読んでくれ!」と何度いったことだろう。本作をおすすめするとなぜか必ず引き合いに出されるのが『ここは今から倫理です。』(以下、ここ倫)という作品で「つまり、ここ倫的な?」と聞き返されるのだ。ちなみに、ここ倫とは一人の高校教師が倫理の授業を通して、さまざまな生徒達の問題と向き合う物語。対して、夢なし先生は、元キャリアコンサルタントの高校教師が進路指導時に生徒の夢に対して、現実的なデータや世の中の実情を突きつける……文字通り“夢なし”な進路指導をする物語なのである。

 確かに、一人の高校教師が生徒を導くという構造は似ているかもしれないが、やっぱり全然違うのだ。例えば、ここ倫は生徒が薄暗い方向に行く前に、倫理の授業を通して光の方へと導いてくれるけど。夢なし先生は「その道は厳しい」「本当に覚悟あるの?」と冷静かつ理論的に進路指導してるのに生徒は若さゆえに突っ走るし、それでちゃんとダークサイドに堕ちていく......じゃあそこからどう生きていくの? って話なのである。しかも、生徒の夢も声優やアイドルなどすごく現代っぽい。そういった現代的な光と、でもその光を見れるのは本当に一握りなんだって。光にたどり着けない、あるいは業界に搾取されてしまい影どころか、闇といったエグいところまで到達した一人の人間(しかも10代から20代という尊い期間!)の人生を描いてくる。『闇金ウシジマくん』『明日、私は誰かのカノジョ』がお好きな方は絶対にハマると思う。

 ここ倫、夢なし先生。どちらもそれぞれの面白さがあり、個人的にも大好きな2作品なのだが。夢なし先生に関していうと“叶わなかった夢の先”っていうところにとことん付き合ってくれる展開がとても好き。叶わなかった夢の先でもがき苦しむかつての教え子たちに、夢なし先生が教えるのは「諦める」の本質。「諦める」ってマイナスなイメージに捉えられがちだけど、本来は「あきらかにみる」「明らかに真実を観る」という意味を持つそう。なんの偏見や思いこみなどを交えず、今の自分をありのままに見る、知る。そこからどう生きていくのかと、新たな道へ進むための“綺麗ごとなしの本当の希望”を夢なし先生は私たちに見せてくれるのだ。

 ものすごくベタな話だけど、高校の図書室に置いて欲しいマンガだなぁと思いつつ。自分が高校生の頃に、本作と出会ったら素直に夢なし先生を受け入れただろうか? 現代の高校生の感想が気になるところ。


📚紹介したマンガ

元キャリアコンサルタントの高校教師・高梨(たかなし)は、生徒から「夢なし先生」と呼ばれている。彼は進路指導時、生徒の「夢」に対し現実的なデータや世の中の実情を突きつけ、否定し、覚悟を問う。それでも夢を追い、のちに夢破れ、どん底の中でも諦めきれない生徒がいれば、卒業後でも手を差し伸べ、「諦めるための授業」を行うのだった。


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