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三秋縋「君の話」を読んで

実質第一回目の投稿になりますが、先日読了した三秋縋氏の「君の話」についての感想でも綴っていこうかと思います。

まずこの作品、個人的ではありますが、今年度ベストノベルの一つと言っても過言ではないでしょう。それでいて、三秋縋氏の作品群の中でもベストノベルだと感じました。

あらすじを簡単にまとめると、
「〈義憶〉という架空の記憶を植え付けられた天谷千尋が二十歳の夏に、その架空の青春時代の幼馴染である夏凪灯花と再会する。そんな実在しないはずの彼女との物語」という感じです。

公式のキャッチフレーズとして「出会う前から続いていて、始まる前に終わっていた、恋の話」とあり、読む前からその一文に惹かれていました。
また三秋氏本人も公言していましたが、今作の下地として、村上春樹の「国境の南、太陽の西」と「カンガルー日和」という短編集に収録の「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子と出会うことについて」の影響が強くあります。
個人的にこの二つの作品が好きなので、今作「君の話」もハマらないわけがないのですが、村上春樹の作品以上に強く惹きつけられるものを感じました。

それは何か、端的に言いますと、「青春やモラトリアムへのノスタルジー」です。
下地になっていた村上春樹氏の二作もそうですが、「運命」を過去に見出しているところに強い共感が生まれたのだと思いますし、村上春樹以上に強い青春への憧憬が感じられました。(三秋氏は早川書房のインタビューで東浩紀氏から引用して「遡行的に見いだされるファンタジィ」と言っていました)
三秋氏の作品を通して「現在への俯瞰」があり、その中で希望として「過去(青春時代)へのノスタルジー」が鮮やかに描かれています。今作においては、そのノスタルジーがより鮮明に、よりエモーショナルに読者の心に映しだされるなという印象でした。

個人的にモラトリアムが終焉へと近づいているのですが、そんな時期に今作を読めたことはとても価値のあることだと思います。
そして「君の話」、おいては三秋縋氏は、今の青年たちのある種の「救い」になるのではないでしょうか。

#書評 #三秋縋 #君の話

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