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夏休みがすこし減ったお話

中学3年の夏休み前に音楽の先生に呼び出された。
当時頭の中はふざけまくっていたイトーだったが表に出した事はないはずなのに何故呼び出されたのか全く分からなかった。
会議室っぽい所で待っていた先生に言われたのは

「合唱部に入ってもらえないでしょうか?」 

イトー大混乱である。
中学に入学直後から部活には一切目もくれず毎日授業後は即帰宅していたイトーに合唱部からオファーがあったのである。
入部して欲しい理由を簡単に書くと、

・合唱部が10月にあるコンクールに出るが人員不足。
・女子しか所属していない。
・男子を入れて声に厚みを出したい。

要するに数名入れなければコンクールに行けないので折角なら男子を入れようって事らしい。
そして何故イトーなのか?と聞いたら

「音楽の授業の時にしっかり歌えているから」

イトーは音楽の先生に褒められたのが嬉しく入部する事になる。 

男子9名が加わり多分厚みが増した合唱部。
この後夏休みが減らされることになるとはなんとなくわかっていたイトー。大急ぎで宿題を終わらせて部活に勤しむことになる。

元々いた部員達は既に歌い込みが出来ており後は男子がそこに入り合わせるといった感じで練習を重ねた。当然最初からすぐ合うわけでもないので毎日8時から4時間弱ほぼぶっ通しで歌の練習である。
夏休みはお盆期間と土日を除くほぼ全ての平日の午前中歌いまくるという日々。
今考えると毎日歌ってたのに何故か喉が壊れなかったな。

休みも終わりさらに練習を重ねていく。素人の耳で自分達の歌を聞いても中々いいのではないか?と思うくらいまで仕上がったとその時は思っていた。

本番当日。市内の各中学校の生徒が某ホールに集まりコンクールが始まった。課題曲、自由曲と二曲歌うのだが、他校の歌声を聞いて愕然とする。
  
レベルが違いすぎる。

冷静に考えたらそりゃそうである。たった3ヶ月弱歌い込んだだけでは到底辿り着けない領域である。何というか表現力が全然違うのである。気持ちを入れて歌うと良いと言われるがそれが後から入った男子9名にはほぼ出来ていないのである。後から入った男子達は合わせるのに必死でそれどころじゃなかったので当然ではある。
数年後、偶然道でバッタリ出会った当時既存部員であるピアノ担当の子から聞いたのであるが、他校とのレベルの差はしっかりわかっていた事。それでもどうしても出場してあわよくば何か賞が獲れればと思っていたことをファミレスで半泣きになりながら教えてくれた。悔しさが痛いほど伝わってきた。
結果は当然何の賞も貰えずだったが、大ホールで歌えたのはとても良い経験となったし楽しかった。
帰る前に先生のお話で、協力してくれた9名への感謝の言葉と、もっと早い段階で勧誘していればよかったという後悔の念を聞きちょっと泣いてしまった。

ひと月後、学校の文化祭でコンクールで歌った二曲を全校生徒の前で披露。コンクールで歌った時よりは気持ちが入っていたのかもしれない。その時聞いた大きな拍手はとても心に残っている。

進学した高校には合唱部がなく歌う機会が減るのだが、社会人になってからカラオケにハマって歌いまくるお話は次の機会にでも。

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