あの娘のためにもう小道具には頼らない

https://www.youtube.com/watch?v=BvpOBh6T3nM

「よっこらしょ、ふう、ふう。」

息が整わないまま楽屋の床に大きいカバンを転がす。入り時間の30分前、楽屋に一番乗りの理由はやらなきゃいけないことがあるからだ。

カバンの中からダンボールを切って銀紙を貼り付けた謎の物体や同じような銀色に輝く穴の空いた物体、短く収納された収納ポールやガムテープといった雑多なものを無造作に取り出す。人の気配のない楽屋にそこそこ大きい銀色ダンボールを何枚か広げ、裏側からガムテープを貼り付けて一枚の巨大な銀色ダンボールを作り、裏側の印のついた場所に伸ばした収納ポールを置き、そこにもガムテープで貼り付ける。ダンボールを二つ折りにして開かないようにまたガムテープで貼り付ける。穴の空いた物体をポールを通すように差し込み、本体の根元にくっつければ完成だ。

自分の身長を優に超える巨大なダンボールソードの完成だ。

「やっぱ、小道具は大きい方が面白いもんな」

銀色に輝く巨大な武器(攻撃力0、耐久力0)を持ちながらひとりごちる。『レベルが99になって全てのパラメーターが完ストしてるからいろんなことができる』というネタを思いついた時、「レベル99のやつはめちゃめちゃでかい剣、絶対持ってるよな?」と思った。やり込んだ某シリーズ物のRPGの主人公が持ってた剣を参考に、100円ショップの売り場をブラブラと眺めながら作り方と持ち帰る時の分解方法をシミュレーション、ダンボールとガムテープを中心としたメインウェポンが完成したわけだ。ライブのアンケートで「光が反射して眩しい!」と書かれたこともあったが、そこも含めて面白いと思ってしまう自分がいる。

思えば、解散を繰り返したのち、ピン芸人でやっていこうと決意したばかりの時は、天狗にもなっていない低い低い鼻がポキポキと折られ続けてばかりだった。マイク1本で漫談に挑戦したら喋りの拙さと滑舌の悪さでウケる以前に伝わらず、白Yシャツと黒ズボンでキメた一人コントは自分に演技力が皆無だという事実を教えてくれた。じゃあどうするか。僕の中のマリーアントワネットが囁いた。

「おしゃべりや演技で伝わらないなら、小道具を使えばいいじゃない!」

携帯電話がいっぱい鳴ってるなら携帯電話をいっぱい持ってればいいんだ。ラーメン屋なら湯切り網と寸胴、日本の妖怪なら着物と雪駄と藁ずきん、神様になるために神様が持ってそうな木の枝を探して、100点の木の枝を街路樹の茂みの中で見つけた時は「神様!」と叫びそうになった。

小道具作りにおいてダンボールとガムテープの活躍はもはや「神様」だった。舞台に置く看板や宝箱、身につけるうさぎの耳や西洋の甲冑までダンボールとガムテープに作れぬものなし、経験を重ねることによって、精巧さや丈夫さ、コンパクトにまとめる分解方法もどんどん上達していった。

もちろんいいことばかりではない。結局出オチでしょ、とか、この後の空気やりづらいんだけど、とか、耳に入ってくることもあるけど、でもウケるためには致し方ないことだ。僕の小道具を適当に触って壊して「いや、小道具使って笑いとらんと実力でいけや!」と半笑いで言ってきた古いタイプの先輩のことは、おもんない人気ない絶対売れないの三重苦降りかかれ!と心から思った。

でもね。

一番辛いのはね。

あの娘、正統派のお笑いが好きなんだって。

あの娘、しっかりとした漫才や設定や演技力を生かしたコントや、とにかく正統派のお笑いが好きなんだって。

犬のぬいぐるみ10匹くらい散歩させてるおじさんのネタは正統派じゃないよなあ。

結局、今の僕にできることは、みんなを笑顔にするために、お手製の小道具持って舞台に上がることだけ。

でも、でも、いつかはマイク一本で。

※ ※ ※ ※ ※

私メカイノウエの歌ネタ「あの娘のためにもう小道具には頼らない」をベースにしたショートストーリーです。思い当たる節もあったりするけど、基本的にはフィクションです。

noteの練習がてら、挑戦してみましたので、よろしければ歌ネタとともに感想いただけると幸いです。評判が良ければ、また色々挑戦してみます。

季節の変わり目は体調にお気をつけて、またお会いしましょう。



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