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花巻で自転車に乗らなかったけどいい街だった件。

期せずして花巻

5月の末、北上に所用があった。
これまでも北上は何度か訪れている。和賀川沿いのサイクリングは楽しいし、「ミッシェル」の惣菜パンがたいへんにおいしいのでよい町だ。
過去にも記事にしている。

ところが今回、かねてから予約していた定宿のホテルから「緊急に全館空調の工事をすることになったのでその日は冷房が使えないがどうする」と連絡があり、5月も末では暑かった場合に辛かろうとキャンセルした。
そこで近辺のホテルを探したのだが、所用先は北上から北に行ったところにある。地図を見ると花巻と北上の真ん中あたりだが、花巻からも北上からも所用先に朝向かう時間はほぼ同じだ。
そこで発想を変えて花巻に泊まることにしたのであった。

花巻駅前にあるホテルに投宿。
5月からコ口ナ感染症の5類移行に伴い、スタッフは皆マスクをしていない。
必要だと思って着用している者としてはあまり話しかけないでほしいと思いつつチェックインする。
その日は地域の医師会の会合があるようだったが、医師の集まりにもマスクせずに接遇するのだろうか。

SL銀河号を見られなかったこと

宿の部屋からはJR花巻駅構内を俯瞰できた。
折しもSL銀河号が釜石から到着したところだった。ここ花巻が終点である。駅周辺の線路脇にはSLを見に来た親子連れがたくさんいる。

部屋からだと停車中はプラットホームの屋根に隠れてSLも客車も見えなかったのだが、客を下ろして走り出したら見えるんだろうと待機していた。しかし発車したらあろうことか釜石側に走り出した。まさか折り返しで回送すると思ってなかったので不意を突かれて茫然としたが、結局汽笛の音と煙突の蒸気以外は見ることができぬまま銀河号は過ぎ去ってしまったのだった。
べつにSLを見に来たわけではないのだが、せっかくなんだから下に降りて停車中に見物しておけばよかったと悔やまれる。(よく6月を以てSL銀河号の運転は永遠に終了してしまったので重ね重ね悔やまれてならない)。

花巻電鉄のこと

町外れの和洋折衷の建築が目を引く。かつての花巻町役場だ。
その隣には古い小さな電車が展示されている。むかし旧国鉄花巻駅と花巻温泉郷を結んでいた花巻電鉄のデハ3型電車である。
異様に車体幅の狭いルックスのため馬面電車とあだ名で今でも模型ファンにおなじみの人気者、1972年の廃止後も大事に保存されている。
路線の跡はサイクリングロードとして整備されて現在に至り、今も温泉郷までの7kmちょっとを電車ごっこできる。

現在は花巻市民の家という公共施設

金網に囲まれて触れたりできないのは残念だが、経年の傷みからは免れ、前回来た時以来新たに塗装し直されている。地元に大切にされているようでいいことだ。

往時の写真アーカイブでデハくん他の車両の活躍ぶりと沿線の風物を回顧できる。車両のみならず沿線風景や路線の造り等、あらゆるものが模型ぽいところがいまだにファンを魅了するところだ。

花巻の街

自転車を積んで行ったので所用が済んで天気がよければ走ろう、旧花巻電鉄廃線跡サイクリングロードでも軽くどうだろうなどと考えていたのだが、あいにく雨がちの天気だった。
所用は昼で終わったので、花巻市街へ徒歩で散策に出かける。
かつては地域の商圏の中心であった花巻の町も、今はすっかり寂れた雰囲気になっている。新幹線の新花巻駅はJR在来線で一駅離れた似内の町に作られたためこの町には関係ない。
発展が止まったかつての商店街にはしかし、その道の愛好者がよろこびそうな建築が残っている。

マルカンデパート

かつて栄えた花巻の大通りの中心にマルカンデパートは建っていた。往時の日本各地のデパート同様、最上階には市街を見渡せる大食堂が作られており、多くの市民の思い出に残っている。

本体のデパートは2016年に閉店。しかし大食堂の存続を求める声が地元高校生から起き、やがて地元若手経営者の面々を巻き込んだ存続プロジェクトはクラウドファンディングに繋がった。その結果、存続に必要とされた耐震工事の費用2億円を調達でき、早くも翌年に大食堂は営業再開したという、「プロジェクトX」もびっくりの話である。

昭和そのままの雰囲気が魅力と聞いて、われわれは旧マルカンデパートのエレベーターで最上階6階に登ってみた。

おお豪華サンプル!

おお食券売り場のレトロ造り!

560席という文字通りの大食堂で給仕するウェイトレスの制服も昭和ぽくてラブリーである。

食事には半端な時間帯だったので、とりあえず席では名物のソフトクリームを食べ、料理はテイクアウトで持ち帰ってホテルで晩餐に供することにした。

休日には食堂の客が順番待ちの行列を成すという階段には、かつてのデパート営業時の写真が貼られていた。ここで働いていた人たちの人生の物語が伝わってきてとてもよいものだった。

途中階の旧店舗は閉鎖されたままだが、1階には各種県産品のショップが営業していた。
花巻電鉄デハくんミニトートを購入。絵を描いた人が鉄道車両の構造をまるっきり理解してないのがわかるがかわいいから許す(でも集電ポールは書いてほしかった…チャームポイントなのに)。

古民家カフェ

次の日、妻氏がチェックしていた古民家カフェに赴く。
花巻と言えば宮澤賢治。ミヤケンの親族が住んでいたという洋館造りの家屋を改装したカフェである。
庭の花壇はミヤケンプロデュースとのこと。

洋館部分の席で茶を喫する。すばらしい雰囲気に酔いしれるひととき。

部屋に置かれたオルガンはミヤケンのお姉さんが弾いていたものとのこと。

ついでに立ち寄った土沢の町

今は花巻市の一部である旧東和町の中心部、土沢に立ち寄る。

かつての銭湯のようだった
花が咲き乱れる店先だが何を奉仕する店なのか不明

とある商店のウィンドには、その店の精巧に作られたミニチュアが飾ってあって目を惹く。地元の愛好家によるものというが、SNS等で見かけるカリスマジオラマモデラーの作品に引けを取らない出来だ。

店内まで作り込まれている

JR釜石線の土沢駅はミヤケン「銀河鉄道の夜」の銀河ステーションのモチーフといわれている。

はじめて訪れた花巻の町、意外と地味な魅力に溢れていたのであった。
今回自転車は出てこなかったが、さきの花巻電鉄線路跡に加えて北上川沿いに北上までの区間を加えて、北上〜花巻温泉まで合計25kmあまりのサイクリングロードが整備されているので、自転車で温泉を訪ねるのも風流であろう(北上川沿いは一部荒れている区間もあるとの情報あり)。

最後に書いていて思い出したが、以前に郊外にあるB&Bに泊まったこともあった。緑濃い静けさの中に佇むこの宿もおすすめである。



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