見出し画像

1993年 SideB-7「TRUE LOVE/藤井フミヤ」

藤井フミヤ作詞・作曲 佐橋佳幸編曲

・「あすなろ白書」(フジテレビ系 1993/10/11~12/20)主題歌

 フジテレビ系月曜9時枠10月クールドラマ主題歌。「あすなろ白書」は、「東京ラブストーリー」がドラマ化されて社会現象化した、まさにこのタイミングしかないという時期に連載が始まった柴門ふみ的恋愛コミックの集大成で、内容的にもなかなか個性的かつ野心的な作品であった。特に主人公たる掛居保のいびつなヒーロー像は決してテレビドラマに向いているとは言えなかったと思うが、そうはいってもフジテレビにとっては満を持しての虎の子原作であり、四の五の言わず当てにいかねばなければならない作品であった。

 実際1993年はドラマの当たり年でヒットドラマも非常に多かったのだが、正統派ボーイミーツガールもののヒットがなく、いわゆるF1向けの恋愛ものが渇望されていた。月9のラブストーリーも「二十歳の約束」以来1年ぶりで、業界内でのこのドラマにかかる期待は相当なものであった。そういう意味ではここで「東京ラブストーリー」の大多亮プロデュース&坂元裕二脚本のコンビをあえて外し、亀山千広プロデューサーを起用したのはなかなか勇気の要ったことだったと思う。亀山プロデューサーとしては「学校へ行こう」「逢いたい時にあなたはいない…」以来約2年ぶりの月9ドラマで、結果的にこの「あすなろ白書」が彼の最初のメガヒット作品となった。

 脚本は「素顔のままで」の北川悦吏子。実はその全キャリアに渡って北川悦吏子が原作ものを手がけた例は圧倒的に少なく、この「あすなろ白書」がほぼ唯一の例と言ってもいい。そんな根っからのオリジナル体質である北川悦吏子に、当時恋愛の教祖と呼ばれていた柴門ふみの原作をシナリオ化させたということがこのドラマの最大のポイントであろう。大まかなストーリーや“あすなろ会”の枠組みをほぼ忠実に踏襲しながら、この柴門流恋愛原理主義の象徴のような作品を憧れの胸キュンキャンパス物語に仕立て上げた手腕はさすがの一言で、まさにここから北川悦吏子が新たな恋愛の教祖として90年代の恋愛ドラマを引っ張っていくことになる(ちなみに北川悦吏子は柴門ふみの5歳年下で、当時32歳であった)。

 そして彼女と手に手を取って胸キュンラブ空間を作り上げたもう一方の張本人が、木村拓哉その人である。北川悦吏子が「素顔のままで」と「あすなろ白書」の間に手がけた「ボクたちのドラマシリーズ」枠の一作「その時、ハートは盗まれた」(1992年11~12月放送)で一気に注目を集めた木村拓哉を、ニヒルな主人公・掛居保ではなく明らかに主役2人の引き立て役である取手治の役で起用したことがこれまたこのドラマの重要な分岐点であった。 

 なぜ木村拓哉が掛居役ではなく取手役になったのかは、巷間さまざま取りざたされているが、いずれにせよこれは偶然ではなく、北川悦吏子と木村拓哉の共同犯行であったろう。そして取手治が魅力を放つことで、掛居保を限りなく魅力的な主人公とし、いろいろあっても結局彼を愛し続ける園田なるみにフォーカスし続けることで成り立っている原作コミックとは違うドラマオリジナルの新たな胸キュンワールドが成立することとなる。「俺じゃダメか?」の名台詞とあすなろ抱きは一種の伝説ともなり、この後長く時代のアイコンとしてシーンに君臨し続けることとなるキムタク黄金時代の幕開けとなった。

 ちなみに主人公2人に扮したのは石田ひかりと筒井道隆。その2人に、木村拓哉、鈴木杏樹、西島秀俊を加えた5人が”あすなろ会”のメンバーであった。改めて言うまでもないが、当時としてもこれは決して最強のメンバーではなかった(木村含めて)。でもなんとはなしにワクワクさせるキャスティングだったことも間違いがない。

 そして亀山プロデューサーにとってのもうひとつの切り札が藤井フミヤの主題歌であった。前年末のチェッカーズ解散後初のソロシングルで、自ら作詞・作曲を手掛けた初めての曲。少々いびつな構成ながら、淡い色彩に彩られたシンプル極まるラブソングで、すでにインパクト勝負になりつつあったドラマ主題歌シーンに一石を投じた(もっとも自身初の月9「学校へ行こう」でチェッカーズに主題歌を歌わせ、2度目の月9「逢いたい時に~」ではフミヤをシングルファーザー役で出演させている亀山プロデューサーとしては、この勝負ドラマの主題歌にフミヤの初ソロを起用するのは験担ぎ的に最早必然で、曲調なんかは二の次だったのかもしれないが)。

 結果的にこの曲はドラマの成功と相まって大きなヒットとなり、藤井フミヤのソロキャリアは順調なスタートを切ることになった。アレンジを手がけたのは佐橋佳幸。あざといフックを極力抑え、アコギメインで押し切った上品な仕上がりはもはや名人芸の域である。そして印象的なイントロ冒頭のギターフレーズは、やはり佐橋が手がけた「ラブストーリーは突然に」のイントロ冒頭のフレーズと呼応している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?