今日もそのうちいつかの夏

春の終わり頃、会社の後輩ちゃんに「みんなで山に登りに行きましょう!」と誘われた。みんな、とは、お昼を一緒に食べている、私と同じ部署の同期と後輩、隣の部署の後輩ふたりの女子5人だ。私と同期はスケジュールに空きがあるだけ予定を詰め込むため直近は全く空いておらず、だいぶ先の7月の日曜にしましょう、ということになった。

そこからなんも決めずに放置していたが、知らん間に山登るのは暑いから夏はやめようということになっており、みたらい渓谷にハイキングに行きましょう、に変わっていた。知らん間にふたり行けなくなっており、結局私と後輩ちゃんふたりの3人で行くことになった。

車を出してくれるという後輩ちゃんに甘え、私は助手席担当になった。

朝、家の近くのドラストまで迎えに来てくれた後輩ちゃんたちはひとりがワンピースもうひとりがチュニックに白いパンツという明らかに夏休みのおでかけという装い、ガチ目のハイキングをすると思っていた私はTシャツにショーパンレギンスで、同じ場所に行くとは思えないほど差があった。お茶を買って待っててもらい、紫のマキシワンピにスポサンに急いで着替えて出発した。

ナビを入れたスマホをセットし、高速で奈良県へ向かう道中、BGMそっちのけで会社の話や会社の話、会社の話でおおいに盛り上がった。みたらい渓谷は行ったことがあるので、なんとなく道に見覚えがあったから、おおまかな道は間違えなかった。
とりあえず駐車場に停め、川へおりた。

川べりはとても天気が良くて、風がひんやり涼しくて、景色は夏休み真っ只中で、最高だった。わたしたちはお互いに写真を撮り、かわいいを連呼し、冷たい川に足をバチャつかせ涼みながらまた喋った。

しばらくして、少し遊歩道を歩こうと言うことになり、階段がちな山道をおおよそ山歩きには向かない服装と心構えでぶらぶらし、5分ほど歩いたら滝壺があったのでそこで座って喋った。私は滝壺の写真を撮ってから、なんかこの滝壺見たことあるなと思った。来たことあるんだから当たり前である。後輩ちゃんが滝壺に魚を見つけた。割とでかい。

そうこうしてるうちに、お腹がすいたのでお昼にしようということになった。駐車場まで戻り、今日の山成分はこれでおしまいだったのでほんとに朝着替えて良かったと思った。
洞川温泉に車を停め、後輩ちゃんが調べてくれたパン屋を目指して街を歩いた。初めて通る道だった、こんな道があるのを知らなかった。パン屋では2階のイートインスペースで山を眺めながらパンを食べ、ポケモンスリープをセッティングし忘れてポケモンたちが常に眠そうで申し訳ないみたいな話をした。山の向こうから小学生ぽい声で「やっほー!」「さいこー!」などと叫ぶ声が聞こえてきた。

旅館や土産物屋の立ち並ぶ温泉街を戻り、温泉に入った。昼間から温泉とはとても贅沢だねみたいな話をし、わたしは爆速でのぼせたのですぐに出た。

小腹が空いたので川魚を食べたいという話が出たので、また街を歩いて魚を出しているお店に行った。岩魚が売り切れていたので子持ち鮎を注文した。ものすごくぎっしり子持ちだった。鮎おいしいね。
その後、焼き団子を見つけて購入し、川原に座って3人で分けて食べた。

明日も仕事だからそろそろ帰るか、と、早々に引き上げることにし、来れなかったふたりにお土産を買って帰路についた。最初から最後まで後輩ちゃんたちにお世話になりっぱなしやな、と思いながらついてった。

歩きながら、しゃべりながら、髪の毛を洗いながら、前来たときのことを思い出していた。前はひたすら遊歩道を踏破したからもっと景色のいい写真を撮った気がする。でも、わたしが写ってる写真は今日しか撮ってないかも。温泉街なんて全然気づいてなかったから川魚もお団子も初めて食べた。


夏の空や山や川の色合い、聞こえてくる音がだいすきで、そういうのに飛び込むと懐かしいような初めてなような、吸い込まれてなくなってしまいそうなどきどきがある。うまく言い表わせないけど、前も今日も、みたらい渓谷も他の山も川も、誰と来てどこを歩いて何を見て聞いて食べたかも、全部全部ひとつの遠い思い出になってくのかなとふと思った。

帰り道、後輩ちゃんたちが恋バナしたいがために彼氏ほしい!みたいな話をし始め(かわいい)、「ちーさんはそんな話ないんですか?」って言われて、話題提供源はない旨を申告しておいた。会社の人にそういう話をまともに答えるのは初めてな気がした。

全部いつかの夏になるとしても、今日の夏がすきなわたしがいたんだよって、いまのわたしが知ってるから大丈夫。


おわり


写真入れれるの知って入れてみたけど、アップロード重すぎて1枚で諦めました。かわいいね

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