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僕は小心者なんです。

男の子は勇敢でなければならないと思い込んでいた少年の頃、
友だちの前で高い塀から飛び降りて捻挫して病院通いしたり、
ドブ川を飛び越えるつもりがドボンと落ちて、
帰ったら母に臭い臭いと嫌がられたり、痛々しいほど自分が
小心者だと覚られないように虚勢を張って生きて来たことか。
 
初老になって、僕は小心者だとそっと家族に言ってみた。
特に反応がなかったところをみると周知の事実だったのだろう。
友人たちにも小心者だと打ち明けると、
そんなの分かっていたよとばかりに、聞き流された。
そうだ、みんなそう思っていたのか、気持ちが急に楽になった。
通りすがりの野良猫にも、路傍の草花にも、
公園のケヤキの大木にも、
僕は小心者なんだと言って回りたい気分だった。

小心者にも良い面があるようで、時代の変化に強い、
リスク回避するので大きな失敗をしない、
比較的正しい判断をする、人とのコミュニケーションは上手、
純粋な心を持ちやすい、
そして嬉しいのは、総体として幸せになりやすいと
心理学の本にあった。
 
若い頃は自分の弱点は恥として一所懸命に覆い隠し、
不得手でも頑張ってしまう。
ところが年取ると失うものが無くなるからか、
平気で自分の弱点を笑いに出来るようになる。

利口ぶったり、強がったりする奴は安全で、
自分の頭をポカポカ叩いて、俺バカだからと笑いながら
戯けていた奴がいたが、侮ってはいけない。
こういう男こそ知略に長けて、隅に置けないのかも知れない。



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