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やさしく殺して

死ぬほど苦しいこの身の上を彼に話したら、
そっと薬をくれて、
まるで深い海に沈んでゆくように
思いが薄れる中、
ずっとそばに居てギターを奏でながら
慰めの歌をやさしく歌ってくれる、
というような甘美な死の風景を
この歌から想像した。
 
初めて聴いたのは、もう20年も前の
ネスカフェのテレビのCMソングだった。
いきなり「Killing me/殺して」と耳に入り、
なんじゃこりゃと違和感を持ったものだ。
邦題は「やさしく歌って」だが、
原題は「Killing me softly with his song/
彼の歌を聴きながらやさしく殺されてゆく私」となる。
流石に日本では「やさしく殺して」というタイトルでは
気味悪がって誰も歌わなかっただろう。
 
1973年にロバータ・フラックが大ヒットさせて、
世界中の歌手がこの歌をカバーしている。
20世紀の名曲に列せられるこの曲の魅力を知りたくて
改めて解読してみたら人気の訳が分った気がする。
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街を歩いていたら 
バーから素敵な歌声が聞こえる
引き込まれるようにその店に入って 
ギターの弾き語りに聴き入った

彼の歌はまるで今の私の苦しみを
そのまま語っているように聞こえたの
まるで秘密の場所に隠してある私の日記が
みんなの前で読み上げられているようで
顔が熱くなってうつむいてしまったわ
絶望の淵に立つ私の心を
彼はなぜわかっているのだろう
ときおり 歌っている彼と目が合うと
同じ思いの人と出会えたようで 
安らかな気持ちが湧いてくる

歌う彼に目で話しかけたのよ
私を癒やせるのはあなたのギターと歌声だけよと


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