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ひとりでも多くの人に観てほしい!/超絶技巧、未来へ!-明治工芸とそのDNA展

本展覧会は、とにかくひとつでも多くの作品を、ひとりでも多くの人に観てほしい。作品のすばらしさを少しでもお伝えしたい私の、写真とザックリ解説と暑苦しい感想です。。

1.@三井記念美術館

はじめての来館です。

歴史的な洋風建築(重要文化財)である外観はもちろん、美術館の内装もすばらしかったです。寄木(たぶん)の床に感動。シンプルなつくりですが、サラッと高級な材を使っているところに品格を感じました。元々の造作を残しつつ、さりげなく部分リフォームしているところも好感度高し。

三井記念美術館は三井本館7階ですが、エレベーターの場所が少々わかりづらいので要注意です。日本橋三井タワーの1階アトリウムのエレベーターで上がるので、「アトリウム」の案内板を目印にするといいと思います。

東京駅周辺の美術館との相互割引や、コレド室町での半券チケットサービスなども実施していてお得に鑑賞できるのもいいですね。場所がら、鑑賞前後の食事や買い物にも困りません。

2.超絶技巧、未来へ!

さて、楽しみにしていた「超絶技巧、未来へ!」展。

出品一覧によると、
木彫、金工、陶磁、ガラス、水墨画、ペーパークラフト、切り絵、刺繍、七宝、牙彫、刺繍絵画が計124点(現代作家64、明治工芸60)という、私の予想をはるかに上回るバリエーションとボリュームにあふれた展示でした。


 2−1【木彫】福田 亨(1994-)

給水/2022【木彫】

蝶の羽は、彩色ではありません。
「立体木象嵌」(木材が持つ自然の色を組み合わせる)という、オリジナルの技法で作られているのだそうです。
象嵌とは、ざっくり言うと一つの素材に別の素材をはめ込む技法。つまり、濃色の木で羽の輪郭を作って模様の部分に淡色の木をはめ込んでいるということかと。羽の薄さはミリ単位だと思います。そして触覚や足の繊細さ。すごい技術です。

なお、水滴と台座の部分は一木(一本の木)。水滴部分の厚みを残して板を掘り、研磨して水滴のツヤを出しているとの事。実物を見ると、今さっきこぼれましたと言われても信じてしまうくらい水滴が水々しい。

アップで見ても、どうやってはめ込んでいるのかわからない

 2−2【漆工】池田 晃将(1987-)

電光金針水晶飾箱/2022

写真では拡大していますが、実物は小さいです。
”サイズ:W70 × D60 × H42.5 mm”(池田亨公式サイトによる)

パッとみて、綺麗な石だなぁと思ったのですが…茶色の本体は木です。木曽檜の木に漆塗りをして作られているのだそう。断面の文様は細長く切った貝を複数のレイヤー上に配置し、その下に乾湿蒔絵で線を描いているとのこと。気が遠くなるほど細密!

 2−3【陶磁】稲崎 栄利子(1972-)

Amrita/2023

Amrita(アムリタ)は、インド神話で不死の霊薬を意味する言葉。
泡のような白い球体が薬を表現しているのでしょうか…。見つめていると、深い海の底にいるような感覚を覚えました。

袋形の部分は、信楽陶土と有色の陶土でできたリングの集合にテグスを通して巾着のような形にするという、途方もない作業で作られています。
極小のパーツを繋ぎ合わせることで、陶器とは思えない、布のドレープのような柔らかな曲線が表現できるのでしょう。その構造から、自在に形を変えることもできるそうです。

稲崎さんの作品は全部で4点ありましたが、全体を通して「いのち」を感じました。そういえば、ヴィーナスは海の泡から産まれたんだった。

 2−4【木彫】大竹 亮(1989-)

月光/2020

白い美しい花は、「月下美人」。

花弁には鹿の角、茶色の花器部分には神代欅(けやき)が使われています。
花器に水を注ぐと花が開くという驚きの仕掛け。展示ではずっと咲いた状態ですが、花がひらく様子は、会場で上映されているVTRで見ることができました。※大竹さんの公式サイトにも花が咲く映像あり

こちらの作品は、まるでずっと前からここに在ったような佇まい。三井記念美術館の内装にしっくりなじんでいる気がしました。

花器は何を表しているのだろう?と思ったら、「蝙蝠の羽」がモチーフになっているとのこと。なぜコウモリ?ーーコウモリが月下美人の受粉媒体だからだそうです。
でも、私には花がコウモリに寄生して咲いているように見えました。夜の間にしか咲かない月花美人。妖しい美しさが漂う作品でした。

 2−5【木彫】前原 冬樹(1962-)

≪一刻≫スルメに茶碗/2022

一木造りです。スルメ、クリップ、チェーンが一本の木から造られています。
信じられます? スルメの乾燥した感じ(特にゲソ部分)、クリップの硬い木の質感、チェーンの金属の質感が、同じ素材からできているなんて。半分に割れた湯飲み茶わんも、陶器ではなく木彫です。凄すぎて、もう…。

スルメと水玉模様の湯飲み茶わんには、昭和の哀愁が漂いますね。割れて転がった湯飲みには、きっと一升瓶の日本酒が入っていたんだろうな。

湯呑みの欠けも観てほしい

 2−6【金工】吉田 奏一郎(1989-)

夜霧の犬/2020

銅、リン青銅、銀メッキ、七宝を使って作られた作品。金属を切り抜き、それを彫刻として再構築して作られています。

迫力のある大きい犬です。
”H860×W250×D1600mm”(吉田奏一郎公式サイトによる)
一体いくつのパーツからできているんだろう。一つ一つのパーツは葉や花などそれぞれ形があって細部を見る楽しさがありつつ、離れて見ると犬の被毛に見えてくる不思議。

中心にあるヒマワリのような部分が心臓で、そこから鼓動が広がっているよう。後ろ足に体重がかかっていて、尻尾の部分がわさわさしているから、興奮気味? 油断したらとびかかられそう。

 2−7【ガラス】青木 美歌(1981-2022)

あなたと私の間に/2017

バーナーワーク(チューブやガラス棒を用いて、卓上でガラスを溶かしながら制作)で作られた作品。テーブルの下に映る影も含めて、空間自体が繊細な作品になっています。

テーブルの上下に伸びるガラスが、生き物のよう。暗がりの中でどんどん繁殖していきそうです。暗闇で光る胞子のようなガラスは、生きているけど意思がないようにみえて、なぜか泣きたい気持ちになりました。

床に広がる影までが作品だと思う

 2−8【木彫・牙彫】無銘(明治工芸)

鳩の親子

明治工芸からは、ひとつだけご紹介。

箱書きに「牙彫木上ニ鳩ノ親子御置物」と記されている、ということで「鳩の親子」というタイトルが付いたそうです。雀じゃないのね。
鳩の胴体は牙彫(象牙に彫刻したもの)、足は真鍮、目には黒蝶貝がはめ込まれているそうです。すごい技術なのに、無銘(作者不明)だなんて…

小鳩のくちばしから舌が伸び、必死に餌をもらおうとしている様子がかわいい。冷静に餌をあげているのは母親? 右側で周りをうかがっているのは父親? などと想像が膨らむ、ほのぼのとした作品です。

明治工芸では、濤川惣助(七宝)や安藤碌山(木彫)といった有名な方々の作品も出品されており、思いがけず観られてラッキーでした。

3.わたしのお気に入り

私の一番印象に残った作品を2つ、ご紹介します。

 3-1【木彫】松本 亮(1969-)

涅槃/2021

大菊の枯れる姿を、涅槃仏に見立てた作品です。

茶室に無造作に置かれた一本の大輪の菊--なんというドラマチックな展示!
カールした花弁や葉の一枚一枚のしおれた様子。このまま放置していたら、どんどん枯れていってしまうのではないかと心配になるほどリアルです。わびさび、もののあはれといった言葉が浮かびました。

アップにすると木目が…

 3-2【金工】吉田 奏一郎(1989-)

 三毛猫/2021  と 粗/2021

撮影不可のため写真がありません。公式サイトでご確認ください↓
 (「三毛猫」は2作ありますが、私が観たのは振り向いている方)

会場では「三毛猫」と「粗(あら)」が一緒に展示されていました。

振り向いた三毛猫は、険しい顔つきをしていて身体も痩せて骨張っているから、きっと野良猫。そばにころがっている粗(たぶん鯛の頭)は、三毛猫の久しぶりのごちそう。食べ終わり、帰ろうとして不意に振り返った瞬間、私と目が合った…そんなシーンを想像しました。
三毛猫は、険しく、そして哀しい表情をしていました。

4.まとめ

記事でご紹介できたのは、撮影可のほんの一部の作品です。他にもたくさん、素晴らしい作品がありました。優れた工芸品は、作品を囲む風景や背景、時間までも映し出す力があるんだなぁと、あらためて感心しました。

本展覧会は明治以降の工芸の展示でしたが、もとはもっと古い時代から日本の工芸品は作られてきたはず。そして、長い時を経て伝えられきた技術が現代の作家さんたちに継承され、進化していっている

「重要文化財の秘密」(国立近代美術館)を観に行った時に、工芸品が少ないなぁと思ったのを思い出しました。日本の工芸はもっと注目され、評価され、守られていってほしい。

現代作家さんの多くは公式サイトやSNSをやっていらっしゃいます。どのサイトも美しいので、ぜひ見てほしい。

そして、この展覧会もたくさん巡回して、たくさんの人に観てほしい。特に、小中高生などの若い世代の人に。「何でできているんだろう」とか「どうやって作るんだろう」とか、興味を持ってほしい。

5.展覧会情報

●三井記念美術館 2023/9/12(火)〜11/26(日) ※会期終了

●以降の巡回先
富山県水墨美術館 2023年12月8日(金)〜2024年2月4日(日)

山口県立美術館(予定) 2024年9月12日(木)~11月10日(日)
山梨県立美術館(予定) 2024年11月20日(水)~2025年1月30日(木)

6.おまけの展覧会情報

2023年の「ポケモン×工芸展」(国立工芸館:金沢)もいい企画でしたよね。(←えらそう)前出の池田さんや吉田さんも出品されていたかと。観たかったなぁ…
…と思っていたら! なんと! 2024年に全国巡回の情報をゲットだぜ!



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