前髪と少年

また髪を切りたくなってきた。
ピンタレストで見る女の子のショートカットは自分でやってみると大抵前髪が邪魔である。ただでさえ短いのにさらに髪を梳いてさっぱりとしたい。

今回は前髪が伸びてきたパターン。
おろしてた前髪をかきあげて七三に分けると童顔が女性の顔になる。

少年のシャツが似合わなくなる。
いつもはしないメイクが映える。年相応に見える、かもしれない。
女装もしたいときがある。シルバーのイヤリングをつけ朱色のアイシャドウをつけたい。爪も塗ってみたい。伸びた髪を耳にかけてみようか。優しい色を身につけて周りの少しの驚きを観察するのを楽しみにしている。

しかし女装を楽しみたいときは一瞬である。
装いも気持ちもいつも女の子ではいられないのだ。

そして動きづらくなる。
女性の髪型が私を女の子に固定するのだ。
昨日は楽しく女の装いも彩られる過程も楽しんでいたのに。

少年から女の子に変化したことを周りの人がどう感じるのか気になる。普段から女の子の振る舞いに慣れてないから声が小さくなる。おそらく自分がこっそりと女の子への理想が高く、こうあって欲しい、になれない自分は女の子の格好をすべきではないがよぎるのである。

そして思考が女の子に寄って、気になる人への視線が、言葉使いが、まるで恋する乙女だ。これは思い違いだ。でも少し相手が優しくなっている気がする。

朝さっぱりと洗った髪と顔にオイルやパウダーをつけたくなくなって
階段を飛ばして歩けないこと
かぶりつけないこと
慣れないメイクにリップが浮いて見える。

恥ずかしい。煩わしい。
身軽が恋しくなって少年に戻りたい。

そして髪を切る。
前に伸ばすって言ったのに。前言撤回。
梳いて、刈って切ってもらう。
少年のシャツを着よう。
外見を気にしないでおこう。

相手の優しさが増さないならば私は変に勘違いすることもない。平らな気持ちで相手に笑顔を見せることができる。少年の装いならば隣に並び立つのに不自然ではない。恥ずかしくはない。

いびつだ、と思う。
女の子の格好して好きバレをした方が、望みはなくとも何か化学変化が起きるだろうに。

しかし
少年の前髪は軽く、視界がよい。
さっぱりとした自分は心地よい。

前髪が伸びてきて分け目を変える。
そして1週間女の子を楽しんだのち嫌いが芽生える前に髪を切る。
これを何度も繰り返している。

結局女装をしたいのは一瞬だけなのである。