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どついたるねん。

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きっと仕事のためにはならないでしょうが、暇つぶしにはなるかと思います。そんな、エッセイです。(2019/10/1〜2021/5/23)
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ドモアリガトインターネット

小学生の頃、空気を読むということがどういうことなのか分からなかった。 「空気読めよ」と言われても、そんなものどうすれば「読める」のか見当もつかなかった。 だから私はいつもシーンに合わせた適切な言葉を選べず、会話を白けさせていた。 きっと周囲から見れば相当扱いづらい人物であったことだろう。 そして実際、私は集団のなかで孤立していた。 私がインターネットと出会ったのは、そんな小学校六年生の頃だ。 父が新しいデスクトップPCを購入したことで、使わなくなったWindows

もったいない、という気持ちが憎い

去年の今頃は、こんなことになっているだなんて想像もしていなかった。 もっと早く事態は終息し、また元と似たような生活になっているのだろうと思っていた。 しかし現実には、3度目の緊急事態宣言は延長され、適用される都道府県が拡大され、そして私はいまだに在宅勤務を続けている。 在宅勤務であることを人に言うと羨ましがられることも多い。 やっている当人からすれば「そんな良いことばかりではないよ」と反駁したくもなるけれど、羨望が向けられる理由も分かる。 いつだって、隣の芝は青く見

嫌な夢を見ずに眠りたい

夢を見た。 ろくでもない夢だ。 ただ私が、金髪の男にいじめられるという夢。 私たちは団体の船旅に出ていて、シャワーを使うためには個人ごとに割り当てられた何らかのキーロックの解除が必要なのに、私のキーだけをその男に変更され、シャワーが浴びれなくなるという夢。 いわゆる――小規模な――悪夢というやつだった。 夢というのは厄介だ。 そこではなんでも起こりうる。 シャワーを浴びるのにキーロックの解除なんて馬鹿げている。 しかしそんな荒唐無稽なことが起こるのが夢の特徴で

カフェで迷えない

スターバックスなどの喫茶店チェーンにて、サイズ指定の独自のあの用語が言えないという話はよく聞く。 スモールじゃなくてショートなの? トール、グランデってなに? オードリーの若林は、著書『社会人大学人見知り学部卒業見込』にて、自意識過剰ゆえに「「トール」と言うのがなんか恥ずかしい。「グランデ」なんて絶対言えないから頼んだことがない」と書いている。 私も、当初はショートやトールが言えなかった。 それらが言えるようになった今も、グランデには大きな壁を感じる。 しかしそれ以

うんこを漏らした

完全に油断をしていた。 これは屁だろう。そう確信しきっていた。 自宅のベッドの上にいたことも、油断には一役買っていたかもしれない。 兎角、私は完全に放屁のモードだった。 そして肛門から出してみたらば、うんこだった。 うんこであることにはすぐに気づいた。 「いま出てきたのは、感覚的に、ガスじゃない」。 私は急いでトイレに駆け込んだ。 ケツからは、軟便が絶えず出た。 パンツを見ると、「ああ、漏らしたな」という痕跡があった。 便が止まったところで、ケツを拭き、ト

万引き犯を捕まえたときのこと

実を言うと、私は万引き犯を捕まえたことがある。 あれは大学生の時分。 秋口――最寄り駅前の本屋に向かおうと歩いている最中のことだった。 駅から私の家までの道にある、私が頻繁に使っていたコンビニの前を通りがかったとき、店舗から一人の男が駆け出してきた。 何をそんなに急ぐことがあるのだろう? と訝しんでいると、次いで、いつもレジに立っているやや年配の女性店員も駆け出してきた。 これはただ事ではない、と思っているとその女性店員は私に向けて「万引き犯よ! 捕まえて!」と叫ん

「オフィスでセックスしたい?」

「ねーねー」と、夜中にいきなりLINEが来た。 通知の送信者欄を見ると、そこには大学時代からの女友達の名があった。 こんな時間になんだろう? と思いつつ、その晩、私も眠れずにいたため、何気なく「なに?」と返した。 すると彼女は、脈絡もなく「オフィスでセックスしたい?」と訊ねてきた。 わけがわからず、一気に目が覚めてしまった。 少し時間を置いて、彼女は弁明するかのようにメッセージを送ってきた。 それの伝えるところによると、こういうことらしかった。 「自分は、内定こ

バット振らなきゃ話にならない

働きたくない。 できることなら、自分の頭上にだけお金が降ってきてほしいと思う。 贅沢は言わないから、今の手取り分ぐらいだけ降ってくればいい。 しかし、そんなことは起こり得ないから、仕方なしに労働に精を出す。 まったく難儀なものだと思う。 今の仕事には、まったく満足していない。 私が課せられたミッションを果たしたとして、それで誰かが幸せになるというビジョンがまったく思い描けないからだ。 また、そのミッションの達成を通じて身につけられる職能も、私の欲するものとは全く

出世は男の本懐か

「出世は男の本懐だ」 これは、映画『シン・ゴジラ』において、松尾諭演じる保守第一党政調副会長・泉修一台詞である。 映画の主人公である、長谷川博己演じる矢口蘭堂に対し、彼はこうも言う。 「そこに萌えんとは、君、なんで政治家になった?」 彼が内に抱える出世欲がよく表れた台詞である。 私の父も同様に「出世は男の本懐だ」と考えているのかどうかは定かでないものの、私が帰省するたび、出世について訊ねてくる。 「お前、ちゃんと上司には媚びを売れているのか?」 その内容、そして

選曲がヤバかった結婚式の思い出

結婚式には、今までに3度出たことがある。 結婚式は言うまでもなく大変めでたいイベントだが、私は毎度、どんな曲がかかるのかが気になる。 きっとこれには、私が人生で初めて参加した結婚式が大きく影響している。 曲のチョイスのみについて言えば、最もセンスが良かったと感じたのは、私が最後に参加した、大学の同級生の結婚式である。 ブーケトスのタイミングでケラケラの「スターラブレイション」がかかり、披露宴の最中も嵐の「Love so sweet」などがかかっていた。 カップル向け

同じであることばかりを志向することについて

恋愛において――恋愛に限らず人間関係というのは常にそういうものなのだが――同じであることを最大価値として志向することは破滅への道のりである。 人は誰しも、ずっと同じままではありえない。 だから、同じだったものも、いずれ同じではなくなってしまう。 また同じことを志向すればこそ、違いもまた目につくようになる。 そのことを、私も頭では理解しているつもりである。 なのに私は、いつもその人と自分の間にある類似性を確認しようとする。 読書の趣味とか。 音楽の趣味とか。 両

グレープジュースは甘すぎる

グレープジュースは甘すぎていけない。 甘すぎることに後悔すると思っているのに、リンゴジュースのほうが良かったなと思うと分かっているのに、それでも時々飲みたくなるから不思議だ。 炭酸でもあればまだ飲めるのだが、ファンタグレープを1本丸々飲めるような季節でも年齢でもない。 あれは、小学生から、スラックスからシャツの裾を出しても様になる中学生までの、蝉しぐれ響く夏休みにこそ似合う飲み物だ。 まだ肌寒い日の続く3月に、社会人男性が飲むようなものじゃないのだ。 思えば遠くに来

酒飲みでなくなった私は、私たちは

このあいだ、久方ぶりに外で酒を飲む機会があった。 仕事終わりに、「じゃあ一杯これ、行くか」と先輩がお猪口を呷るジェスチャーをし、なし崩し的に飲みに行くことになった。 都内は、なお緊急事態宣言が発令中だったが、まあ20時までと言って、そのまま私たちは居酒屋に入った。 飲み会自体は、無事に終わった――とは言い切れないところがあった。 私以外の参加者はみな酩酊状態で、私自身も足がふらついていた。 とりあえず、みな帰る電車も覚束ない中を、あなたは何番線です、あなたは何番線で

頼もくなさと情報の非対称性について

私は、私自身のことを頼もしくないと思っている。 私はその実、仕事で――一つ一つは小さいけれど――ミスばかりしているし、さまざまな人のサポートがあってなんとかそれらをこなせているというのが現実だと認識しているからだ。 多くの人がそうなんじゃない? という慰めもまたあろうが、少なくとも私の自己認識はそうであり、そして私を除く多くの人は、私の目からは頼もしく見えてしまうのだ。 しかしプロジェクトマネージャーは、そんな私を「お客様からも信頼されていますし」と表現する。 そんな