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嘘から出た魔物

10 月も終わりが近づき、もういくつ寝るとハロウィンです。魑魅魍魎が街に繰り出す夜に先立ち…というわけでもないですが、魑魅魍魎に関して雑談。

幻の牧師

1970 年頃のイギリスはプレストン、ラトクリフ埠頭。そこには生前、美人局行為と強盗殺人を繰り返した牧師の霊が現れる、という噂がありました。

しかしこの噂は、当時オカルト雑誌の副編集長でもあったフランク・スマイスによる、創作の都市伝説です。アイデアを纏め、その土地に似たような噂が元々存在していないかまで確認したうえで、雑誌 "Man, Myth and Magic" に自らの体験談として、この牧師の霊の目撃談を掲載したそう。ナイスプラクティカルジョーク。

この幻の牧師に関する噂はほどなくして、別の雑誌やテレビ番組などにも取り上げられるようになり、現地への取材も行われたそうです。

しかし、地元住民への聞き込みを行っていると "実際に牧師の霊を目撃した" という証言が上がってきたのだそう。そればかりか、その噂は紙面上ででっち上げられた嘘であると伝えた後も、いや、これは子供の頃に祖父から聞いた話だ、と言う人までいたのだとか。

人間の想像力は、一体何を生み出してしまったのでしょうね。

全知の悪魔

さて今度は、嘘というより仮定の魔物。世の中では、蝶が舞ったら遠くの土地がハリケーンに襲われたり、風が吹いたら桶屋が繁盛したりすると聞きますが、そのような物事にもキチンと因果があるとかないとか。

同じように、この世のすべての物事が、原因と結果で出来ているならば、原因となる存在の今を正確に把握することで、未来が計算できるかもしれません。この世のすべては原子の集まりですから、それらが今どこにどのように分布して、どのような動きをしようとしているかを把握できれば、それが実現しそうですね。

もちろん、人類にはそんなことは出来ませんので、代わりに "ラプラスの悪魔" というものが作られました。いわゆる思考実験というやつ。

さてこの悪魔、正確な未来を予測できるのかどうか?
この話題は長らく議論されてきたようですが、現在ではラプラスの悪魔をもってしても、計算によって未来を予知することはできない、という話で落ち着いているそうです。シュレディンガーの猫も然りですが、ミクロの世界においては人間の感覚的なものは、軒並み通用しない様子。

けれど未来が不定というのは、捉え方次第ではグッドなニュースかもしれませんね!

悪魔の酒蔵

ウイスキーやブランデー、ワインをはじめとする、樽での熟成工程のある酒は、時と共に木材が液体を吸うため、内容物が目減りしていきます。この減った分の酒を指して "悪魔の取り分" などと呼ぶそうですが、チリのワイナリー "コンチャ・イ・トロ" のワイン蔵には、実際に悪魔が棲んでいるという噂があるそうです。

この噂を聞いた当時の人々は、安易に蔵には近寄らないようにしていたことでしょう。それは盗み飲みをしようとする不届き者も含めて。

そうこの噂、貯蔵されているワインのあまりの美味しさに相次ぐ、盗み飲み被害に頭を抱えていたワイナリーが作った、ワインのような真っ赤なウソ

この噂のおかげで蔵のワインは守られ、今でも最高のワインがそこで貯蔵されている、というお話。

しかし、それだけ効果てきめんだったなら、さぞや多くの人が心から信じた嘘だったのでしょう。もしかしたらラトクリフ埠頭の牧師のように、コンチャ・イ・トロには本当に悪魔が棲むようになって、蔵の番の報酬にと、悪魔の取り分を呑んで回っていたかもしれませんね。

おわりに

ワインの話をするとワインが飲みたくなるのは、ラプラスの悪魔に聞かずとも分かる因果。そして、悪魔の蔵の伝説を、その名に冠したワインがこちら。

宣伝文句で悪魔の蔵の話を知って、面白いなと思っていたのですが、実際に飲んだ事はなかったり。

いい機会なので、さっそく買い出しです。



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Illust by GDJ (adapted)
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