英検1級を受けた話 2

 10月9日、とうとう本番を迎えた。

 試験会場はまさかの早稲田大学戸山キャンパス。よく知った場所だ。

参考画像

 集合時間は13時だったのでそのくらいの時間についたが、試験開始はもっと遅くて14時からだった。指定の教室で一番後ろの席につき、単語帳を見返しながらあたりをキョロキョロ見回して可愛い子がいないか探したりしていると、ある大変なことに気づく。

 この教室、時計がない。

 よく見たらみんな腕時計を机に置いてる。腕時計必須だったのか…!受験票の裏を見てみると、確かに腕時計を持参してくださいと書いてある。英検は時間制限がめちゃめちゃ厳しいわけではないけどさすがに時間が分からないのはマズいか…と焦っていると、脳内の悪魔がこんな提案をもちかける。

 「前の人の時計、見ればいいじゃん」

 何という悪魔的所業…!何たる天才的閃き…!

 たしかに腕時計はメーカーや製造年代などによって各々が全く異なる外見をしており、さらにはアナログ(Analog)やデジタル(Digital)という表示の違い、所有者が持つ思い入れの強さの違いもある。したがって自分のではなく他人の腕時計をのぞき見などして何になるのかと思う者がいるかもしれないが、重要なのは教室の時計が示している時間はどれも同じということだ。例外として、"壊れた時計"は他とは異なる時間を示す場合があるが、前提として"壊れた時計"を試験会場に持ってくる人はあまりいない。また、地域による時間基準の変動(いわゆる時差)もあるが、日本にある時計は大体日本標準時(Japan Standard Time)に従って動いている。つまり、前の人が持参した腕時計を覗き見ることで相手の時間情報を奪い取り、その結果として日本の時間情勢が把握できるということだ。このカンニングともいえる悪魔的行為はできれば避けたいので、終盤に1回か2回実行するくらいにとどめておこう。

 そうこう考えている内に開始が宣告される。はがしづらいテープをはがして受験者が一斉にページをめくる。

 まずはボキャブラリー。運のいいことに分かる単語が多い。単語帳の前半をやるだけでも随分違うんだな、としみじみと感じた。読解問題も答えがなかなか確定できなかった問題がいくつかあったが、ある程度の自信で全ての設問に答えて切り抜けることができた。

 最後のライティングまでたどりついた。残すはあと40分。お題は…

Agree or disagree: Human societies will always have a negative effect on the environment
(人間社会は永久に環境へ悪影響をおよぼし続けるか否か)

 文章自体の意味が分からないような難しいお題ではない。ここで俺は安心し、再生可能エネルギーとか適当なことを書き連ねて時間内に書ききることができた。

 一旦試験終了の合図が入る。続いてはリスニングだ。

 リスニングは少しでも集中力が切れるとその途端に一問を失ってしまう。しかもそこで答えを勘で探ろうと色々探ったりしてるとそのうちに次の問題も逃して負の連鎖が止まらなくなるので、そいつはもう見捨てるしかなくなる。「俺はいいからあとの問題に集中しろ」と彼は俺に言う。俺はそんな状況に何度も遭い、辛酸をなめてきた。

 例のごとく、今回もそのようなことが決して起きないよう気を引き締めて挑んだ。しかし、一番後ろの席に座ってしまったせいで音がちっせえ。集団で自習室にいる人たちの会話をこっそり聴くときくらいの声量。何だこの試験は、盗み見のあとは盗み聞きか?

 気をちらしていると脳がうっかりノイズとして処理してしまいそうな音量で、より一層集中力が試された。手ごたえもあまりなく、さすがに今度は真ん中くらいに座ろうと反省した。

 こうして英検の一次試験への旅は終わりを告げた。外に出ると雨がポツポツ降っていて、空は雲で覆われていたがまだ暗くなってはいなかった。傘の代わりにフードを被って、一人で黙々と家まで帰った。


 2週間後。

 合否がウェブサイトにより掲載された。果たして俺の2022年度第2回実用英語技能検定1級1次試験の結果は…






 

 受かってた。しかもギリギリK点越えだった前回より点数が高くなったのでよかった。

 しかし二次試験が待ち構えている。英語を読んだり聴いたりすることはあっても喋る機会はほぼなくなってしまった今、二次試験こそがほんとうの鬼門だと言える。渋谷とかにいる変な外国人に絡まれにいくなどしてしっかり対策してから挑もうと思う。


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