秋島

毎週日曜日一話更新します。

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最近の記事

それではみなさん良いお年を

今日が過ぎれば当たり前に明日がくる世界で。何も変わらないでいるように見えて、少しづつ致命的に変わっていく、だけれども本質的には何も変わっていなくて、ぐるぐる続くらせん状の毎日。泣いたり笑ったり失望したり絶望したり幸せをかみしめたり全てを憎んでみたり恋したり、その全ての終わりを具体的に思い描ける人間はどれぐらいいるのだろうか? もーうーいくつねるとお・しょ・う・が・つー♪ でもそれって本当に? 私達は夢を見た。私たちは夢を見たのだ。それは一日後の未来の夢。 2020年1

    • とーる君。と アキコさん。

      【サイド:とーる君】 窓から吹く風に オーロラみたくカーテンがはためいて 白いカーテンに写し出された アキコさんの影法師が 黒く 小さく 揺れる アキコさんは 騒がしい俗世のよしな事とは無縁と言った風情で いつも一人 窓の外から遠くを見ている 大声で騒ぐクラスの女子たちとはまるで違うクールで大人びた、どこか神秘的な雰囲気の女の人だった 僕はずっと前から そんなアキコさんに興味を持っていて 彼女と一緒に日直当番をする前日などは 遠足に行くのが待ちきれない子供のように ソ

      • 「お題」オルゴール

        帰ってドアを開けたら、父のでもない私のでもない、いかにも仕事のできる女の人って感じの黒いパンプスを見つけてしまって、私はしばしその場に立ち尽くす。「香織さん」が家に来てるのだという事実が私の胸の内に黒く硬質な重しとなってのしかかる。このまま回れ右をして、玄関から逃げ出してしまいたいけど、それをしてしまうと、父も香織さんも私の行動を不審に思い訝しがってしまうだろう。そもそも、ここは私の家で、なんで私がこそこそ逃げ出さないといけないというのだろうか。馬鹿馬鹿しい。私はその場でしば

        • チキントルティーヤの恋人「お題:チキントルティーヤ」

          いつものカフェのいつもの場所でいつものように彼は私を待っている。彼が私を待つ間に暇つぶしに読む本はいつもばらばらでバラエティにあふれている、新書の時もあれば、仕事関係の専門書、料理や健康の実用書、流行の恋愛小説、ミステリー、SF、ホラー、ピカレクス、ジュブナイル、図鑑の時もあれば漫画の時もある。 「今日は何読んでるの?」 向かいの席に腰を掛けながら彼に尋ねる。 「ん」 彼は答えるのがおっくだという風に読んでる本の背表紙をこちらに向けて見せてくる。金色のやたら派手な背表

        それではみなさん良いお年を

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        • 1本

        記事

          ④おしまいの後で4/3

          彼女はもう長いことまくしたてるように話し続けている。 赤い唇はまるで意志を持った別の生きものみたいに忙しなく動き続ける。 僕は彼女の唇を眺めながら曖昧な相づちを繰り返す。 「ねぇ、どう思う?」 彼女は僕に尋ねるけど、殊更僕の答えを期待してるわけではない。ただ自分の抱える不満を肯定し認めてほしいだけだ。 彼女の話を聞くのが僕である必要はまるでない。 僕はただ彼女の必要とする肯定を与え続ける。 虚ろな関係。 だけど僕はこの空っぽの繋がりを心地よく感じている。 近づきすぎず離れす

          ④おしまいの後で4/3

          ③彼女の事3/3

          彼女のことを思う。 あの子はいつも哀しげで泣いている時のほうが多かったけれども、調子のいいときはおひさまみたいに明るくって、アイスクリームみたいにキュートな声でピチカートをくちづさむバイオリンみたいな女の子だった。 彼女の事を思う時僕の胸は張り裂けるように痛む、それは生きていることが不思議になるくらいの致命的な痛みだ それでもボクはすがるような思いで何度も何度も思い出が擦り切れるまで、在りし日の彼女の事を思い出し続ける 普段。彼女はとてもよく泣く女の子で突然僕のわから

          ③彼女の事3/3

          ②逃避行2/3

          大分空きましたが下の記事の続きになります ②逃避行2/3私は何もできない人間なのです。勉強が出来ない。運動が出来ない。音楽が出来ない。絵が描けない。文章だって無理。学校に行けない。友達を作れない。電車に乗れない。銀行でお金が下せない。コンビニで買い物することだってままならない。そもそも、外に出る事すらおぼつかない引きこもり。私は何一つまともに出来ない欠陥品 だからまともに人を愛することだって出来ない バイトを辞めた後も私はあの人の事を『店長』と呼ぶことを辞めなかった。そ

          ②逃避行2/3

          馬鹿オムニバス

          馬鹿その① なんでだろーねー ねぇなんでだと思う? 「何が?」 なんで君はそんなかわいいんだろう? 「は?可愛くねーすけど」 や。かわいーすよ。可憐すわ。 「君はきっと目がおかしいんじゃない?」 花はさ自分の種子をはこぶ鳥や虫達を引きつけるために美しいわけじゃん 「ん?何の話?」 ものごとには理由があるって話し 「ふーん?で?」 僕が思うにね 君がそんなに可愛らしいのはきっと僕に愛されるためなんじゃないかって。 「………」 ね? 「おかしいのは目じ

          馬鹿オムニバス

          雪ウサギ

          一面の白銀の上を少女が無邪気にぴょんぴょんと跳ね回る様子を眺めながら私は白く凍える息を吐き出す、黒い雪雲の切れ間から強く差し込む光の帯の中を跳ねまわる少女は、荘厳な教会に飾られた宗教画に描かれた天使のように厳かで、私の胸をぎゅうぎゅうと締め付ける。私のすべて、私のかけがえのない宝物、目の中に入れても構わないような私の愛しい娘。夢中になって雪と戯れる少女は、ときおり想い出したようにこちらを振り返り、はち切れんばかりの笑顔で大きく手を振って見せてくる。私を信頼し、依存し、信じきっ

          雪ウサギ

          のののの

          今週と来週はちょっとお休みしますですます。9月からまた頑張ります。関係ないけど日曜日天気の子みにってきました。うーん。最の高。

          のののの

          希望のヒカリ

          ぐったりとしたまま彼女は動かなくなって、どうにもならないやりきれない思いに打ちのめされる。いったいどうして彼女がこんな目に合わなければいけないって言うんだろうか。いつもニコニコと笑っていた明るく可愛らしい女の子だった。素直で優しい誰からも好かれるそんな女の子だったのだ。今僕の目の前にいる彼女には、以前の面影は欠片も残っていない。白く美しかった肌は無数のあざと傷跡で紫色に変色し、その可愛らしい顔はホラー映画に出てくるクリーチャーのようにあかく腫れ上がってしまった。僕は世界に絶望

          希望のヒカリ

          思い出時速60キロ

          失恋してしまったから、免許を取った。とかなんとか言ったら、なにがしかの踏ん切りがついたみたいで、かっこいいのかもしれないけれど 本当は別に失恋したからってわけではなくて、前々から免許は取ろうと思ってて、たまたまあいつと別れた時期と免許を取った時期が偶然重なったに過ぎない。運転をしてると車好きだったあいつのことばかり思い出してしまってどうにもよろしくないのである。 免許を取って気づいたこと。 あいつの横、いつもの助手席で見ていた景色と、自分で運転しながら見る景色はまるで別も

          思い出時速60キロ

          パラダイス3/3

          街でそれをみかけても、まるでテレビでも見てるみたいに現実感を感じなかった。僕とゆか姉の間に存在する半透明の薄い膜が、感情を遮断し、麻痺させ、まるで自分が心という物を持たない人形かロボットになったかのような錯覚を植え付ける 知らない大人の男と歩くゆか姉。 恋人ではない事は一目見ていやおうもなく理解できてしまう。男の腕を取り、しだれかかり僕の知らない女の顔をするゆか姉。僕の知らない世界。僕の知らない女。僕の中にあった思い出は、無邪気に笑う天使みたいに屈託ない笑顔は、色あせ、陰り

          パラダイス3/3

          パラダイス2/3

          黒く焼けた肌、ゆか姉が動く度に小さな頭の上でみじかく整えられた黒い髪が風に揺れた。 「公園まで競争、負けた方がアイスおごりね」 ガリガリにやせた細い手足が描く美しいスライド、小さく華奢なからだが生温い夏の空気を切り裂いていく。 どんどん遠く離れて行くゆか姉の背中を僕はおいかける。置いてけぼりにされたくなくて、追いつきたくて、必至になっておいかける。 おいかける。 おいかける。 公園で待っていたゆか姉に追いついて整わない呼吸で足下に座り込む僕の頭をゆか姉の細くて黒い枯れ枝みたい

          パラダイス2/3

          パラダイス1/3

          「あれー。アキじゃん?」 懐かしい声にいきなり後ろから呼ばれて胸の鼓動が跳ね上がった。 アナウンサーみたいにかつぜつの良い、山深い源流から湧き出す湧水みたいに涼しげで清涼感のある話し方。 茶色く染めた髪も、似合わない派手な化粧も、頭の悪さを露呈するみたいに短いスカートも、昔のおもかげはどこにもなくなってしまったけど声だけはあの頃と変わらない。 なるべく感情がわからないよう、なんでもないみたいにゆっくりと振り替える。 ゆか姉だ。 こうして正面からゆか姉をみるのはいったいどれ

          パラダイス1/3

          七夕

          黒々と広がる空、満面にちりばめられた星たち 「ロマンチックないなぁ」 僕の隣。彼女は空を見上げてため息をひとつ。 「ないですか?ロマンチック」 「もぉ。全然。からっきし。ないね。ロマンチック不足ですよ。このままじゃ南極の氷も溶けだして日本は全部海面下に沈んじゃいますよ」 「ロマンチックが足りないから?」 「そう。ロマンチックが足りないから」 そういって彼女はまた大きくため息をつくとごろんと屋根の上で寝転んでしまう。 屋根裏は二人だけの秘密の集会場。 僕たちは昔