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君はバラより美しく語れない

想いを伝えるのは考えを伝えるよりも難しい

まずそれを大前提として人は他者とのコミュニケーションをとる必要がある
たとえば赤いバラは美しいという考えを伝えようと思ったときに、バラといえば何色の花を想像するかであるとか、流通量やバラの名前のついた音楽や映画や小説などの例を挙げることで、ある程度普遍的な説明は可能だろう

つまり、みんな赤いバラが好きなのはそれが一番美しいからであり、私もそう考える一人であるとすることで、”考え”を伝えることが出来る

それで伝わらない場合は、聞き手に大きな偏向や偏見があるからだといっても過言はないだろう

しかし、赤いバラこそが美しいのだという想いを伝えようとした場合、先ほどのような説明ではまるで伝わらない

みんなが美しいと思うのだから私も赤いバラこそが美しいのだとしたところで、誰の心にも刺さらない
逆に言えば、考えを説明するときに列挙したような音楽や映画や小説を歌い上げたり、鑑賞したり、朗読するだけでは足りず、それらを自ら作り上げるくらいの想いを示さなければ、人の心には刺さらない

そのあたりを理解したうえで、それでもより効率的に想いを伝えようとした場合、あなたはバラの美しさをより深く理解し、考察し、言葉を選ばなければならないが、それ以上に大切なことをどうしても忘れがちになってしまっているのではないだろうか

すなわち、想いを伝える相手のことを、あなたは何も考えていないのではないだろうかという点である

想いを伝えるには伝える相手のことを考えなければならない

花とは本来身近なものである
春であれば桜やタンポポ、夏には紫陽花や向日葵、秋にはコスモスや梅
すべての季節がぱっと思い浮かばなくても、ソメイヨシノや夏の太陽と向日葵くらいは誰でも原風景は思い浮かぶだろう

小学校のときにアサガオを観察したことや、母の日にカーネーションを贈ったり、何かのイベントで誰かに花束を渡したり、貰い受けたりしたことはあるだろう

デートに誘うのにバラの花束を贈るとか、憧れのお嬢様の屋敷にはバラ園があるとか、そういうステレオタイプ的な文脈は誰でも思い浮かぶところだろうし、”君はバラより美しい”とか”綺麗なバラには棘がある”といった決まり文句や”バラ色の人生”と聞いて、どんな人生なのか想像できない人はいないだろう

逆に言えばバラは美しいとうのは使い古され、ありふれているために、あなたがどれだけバラに対して特別な想いを抱き、それを伝えようとしても100ある意見の一つとして、軽視されてしまうのはいかんともしがたい

さらに民族性でいえば、日本人には桜の一気に咲き乱れ、散り行くはかなさや、夏の太陽に向かってたくましく、そして大きく育った向日葵が夏が終わるとうなだれて、種を落とす風景に夏模様を見るのである

バラはどこか俗っぽく、社交辞令で、添え物、華麗にして尊大であり、わざとらしく、大仰なのである

映画で言えば、興行成績NO1の娯楽映画やヒット作を量産しているベストセラー作家や毎年紅白に出場するベテラン歌手をあなたがどんなに熱くその素晴らしさを熱弁下ところで、あなたの思いが人の心に刺さるのは簡単なことではない

では、どうすれば人の心に刺さるのであろうか

小手先のことであれば、こんな方法がある

あえてバラを酷評し、最後に一本のバラの花が人の人生を買えたというようなエピソードを紹介するといった下げてから上げるという方法があります

”バラって豪華だけど仰々しくて僕の殺風景な部屋にはわざとらしくて、こっちが恥ずかしくなっちゃう。だけど過敏に一厘だけバラの花を生けてみたら、どことなく淋しげでついつい話しかけちゃったんだけど、すぐに枯れるかなと思っていたけど結構長持ちして、そしたらどうにも気になっちゃってね。長持ちするようにあれこれ手をかけたら、まるで彼女のような気になっちゃって、バカみたいに名前なんか付けちゃったんだけど、つい先日、枯れてしまったんだ。だけどね、僕はその最後の花びらが散り落ちるところを観ることができて、なんだか命の素晴らしさを教わったような気がしたんだ。あのバラの赤っていうのは、僕らと同じ血潮なのかななんて、らしくないと思ったけど、赤いバラにはそういう情熱みたいなものは、花束で豪華だからあるんじゃなくて、一本一本の花が、ものすごい力を持っているからこそなのかもしれないって、そんなことを思って、僕はバラがとても好きになりました”

こんな感じでしょうかね
しかし、これはいろいろと難点があって、この話が通じるのは性別的に偏るかもしれないし、年代的にも別れるかもしれない

ようはどんな手法を取ろうとも、万人に想いを伝えるには、こうした回りくどいやり方から、ストレートに称える方法まで、いろんなことを試さなければ、他者に想いを伝えるのは難しいのです

逆に言えば、ターゲットが絞られているのなら、一般論など気にせずに、その人がどういうことに関心があり、どういうことに心が動かされるのかを知りさえすれば、あとはその条件を満たす方法を見つけ、尚且つよき役者、よき演者、よき語り部になれば、あなたの想いをかなりの精度で伝えることができるでしょう

大事なことは、それを為す前にはじっくりと考察すること
それを為す時には、大胆に迫ること

これに尽きるのではないのでしょうか

ではまた次回
虚実交えて問わず語り


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