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語学のもろもろ

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語学に関する雑談やつぶやきを集めています。
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記事一覧

言葉の重い軽い

言葉の重い軽い

言葉には重さがある。「アイデア」は軽いけど、「着想」と書くと重い。意味が同じだったり似ていたりしても、書き方ひとつで重量が違ってくる。

「重い」は、数字で表せる重みの意味もあるけど、根幹で示しているのは「負担が大きい」。だから例えば、聞く側の心理的負担が大きいのを「重い話」、責任がのしかかるのを「重い任務」と言う。

その逆が「軽い」、つまり負担が小さい。胃に負荷をかけないから「軽い食事」「軽食

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世界の分類

世界の分類

分け方には人柄が出る。見るものをどう分類するか。気が合う人と合わない人で分けるのか、女性と男性で分けるのか、無機物と有機物なのか、あるいは私とそれ以外なのか。多和田葉子の『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』を読んでそんなことを思う。

フロリダ大学でレクチャーをした時、「日本では、日本文学と世界文学という区分けをするそうですね。そういう分け方をどう思いますか?」という質問が出た。(…)確かに言われ

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不安になる前に

不安になる前に

フランス語で「イストワール(histoire)」は「歴史」「物語」の意味を持つ。英語の「ヒストリー(history)」も「ストーリー(story)」を含んでいる。物語はたいてい、話の筋に関係あることを繋いで全体を作り上げる。

例えばヘンゼルとグレーテルは、お菓子の家に向かう途中でどうでもいい会話──「木の葉ならいっぱい落ちてるわ」「食べられたらいいのにね」とか──をしたかもしれない。白雪姫の小人

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それ以前のあなた

それ以前のあなた

「命あっての物種」という諺、昔は漢字変換ができなくて
「命あってのものだね~」「そうだね~」
という、同意を求める言葉なのかな……と思っていた。「ものだね」が「物種」であると理解したのはいつだったか。

そういう記憶はすべての人にあるらしくて
「童謡『赤い靴』の『い~じんさん♪』て言うのは、異人さんじゃなくて『いい爺さん』だと思ってたんだ」とか
「小さい頃は『汚職事件』を『お食事券』だと信じていた

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「生活者」のゆくえ

「生活者」のゆくえ

「『消費者』は止めて『生活者』と言おう!」みたいな話を聞いたのは、もう何年も前だった。私たちは消費するだけの存在じゃない、日々を営み、暮らしを大切にしている「生活者」なんだ──。そういう主張を掲げている人たちを見た、遠い記憶がある。だけどあれ以来、「生活者」という言葉が浸透したという話は聞かない。

そもそも、この単語は辞典に載っているのだろうか。疑問に思ったので、いくつか引いてみる。

いま手元

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少量の毒はきっとおいしい

少量の毒はきっとおいしい

シナモンを買って、ミルクティーに入れるようになった。温かいものが恋しい季節だ。普段、砂糖は摂らないけれど、こういうときはちょっと多めに入れる。味が引き立っておいしくなる。

砂糖も塩も摂り過ぎれば毒だけれど、料理に少量使うくらいなら罪にならない。時と場合に応じて、同じものでも毒にもなれば贈り物にもなる。今日はそんな話。

Gift「ギフト」という単語を見れば、大抵の人が「はいはい」と言う。プレゼン

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言葉の違いから

「おかげさま」という言葉は、もともと「ご先祖さまの手助けによって」という意味らしい。今日はじめて知った。よく「亡くなった人たちが、草葉の陰から私たちを見守っている」という言い方をするが、そのときの「かげ」が「おかげさま」の「かげ」なのだそうで……。全然知らなかったよ、と思った次第。

「おかげさまで」という言い回しを英語に訳す際、thanks to you(あなたのおかげで)になると習った気がする

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翻訳は虚構装置

翻訳で読むのと、原文で読むの。それぞれが全く別の体験であることを、またもや実感している。今日はアメリカ現代文学の旗手、ポール・オースターの小説を原文で読んでいた。題名は『オラクル・ナイト』、舞台は現代のニューヨークだ。

翻訳で読むと、それはいつもわずかに不自然な日本語であるせいで、「これは虚構の話なんだ」という実感が強くなる。だから、どんな手痛い出来事が書かれていても「所詮フィクション」という思

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なんて言ったらいいんだろう?

「未病」とか「未解決」とかいう言葉には「そうなる可能性がある、でもまだなっていない」ニュアンスがある。病気になるかもしれない、解決されるかもしれない、でもまだそうはなっていない。だとしたら「非常事態になる可能性があるけど、まだなっていないとき」をなんて言うんだろう?

平時でありながら、有事に備えている言葉。それがあれば、いつもの気構えだって少し違うかもしれないのに。健康なんじゃなくて、これから病

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新しい日本語?顔文字の話

「顔文字や絵文字が果たして文字なのか?」は議論の余地があるだろうが、インターネットの発達と同時に台頭した、新しい言語(?)表現であることは周知の通りである。庶民文化の分析をするなんて野暮なことだと言われるかもしれないけれど、暇なのでやる。今日のテーマは顔文字だ。

顔文字というのは、丸括弧()を顔の輪郭に見立てて、その他さまざまな記号を用いて表情を表すものである。

まず、基本形から。

()←顔

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「愛」の字と「いとおしい」

「好き」とも「愛してる」とも違う「いとおしい」という感情について考えている。一応「愛おしい」と漢字を当てはめることもできるけれど、この「愛」という字は、一筋縄ではいかない文字で。

もともと仏教で「愛」と言えば「執着」とか「捕らわれる」という意味を持つ言葉で、肯定的に使われることはあまりない。「偏愛」という言葉なんかにはとりわけ、愛の持つ執着心が漂う。

漢語において愛は「あいする」「いつくしむ」

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誤解があります

あらゆる言葉は誤解される可能性を含んでいる。言葉は事象を正確に書き写すことができないから。そして「誤解」が悪いものだという前提も、それはそれでなんだか違うような気がする。森絵都の小説にもあったけれど──「誤解は人生を彩る」。

誰かが表現したことと、それを聞いた人の理解が完璧に一致することはない。人はコミュニケーションを取るとき、いつもわずかなズレの中にいる。相手が見ている世界と、自分が見ている世

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言葉のパラレルワールド

上下左右。ただ空間的な方向という意味ではなく、それは言葉によって、よいものと結びついたり、間違ったものと結びついたりする。

「幾何学的な空間においては、上も下も同じくらい価値があって、同じくらい価値がない。でもどうですか。これらの言葉は、身体感覚と思いきり結びついていますよね」と先生は言った。

「人の上に立つ」というときの「上」。あるいは「下手に出る」というときの「下」。上司とか部下なんていう

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フランス覚え書き①

出発前の成田空港。

中国語で「境外旅行」という単語を目にする。大陸に住む人々が「海外旅行」をなんと言うのか疑問だったけど、ようやく理解。陸続きに隣り合って住む彼らにしてみれば、外国=境界線の外なわけだ……。

海による境目=国境という国、実はレアなのだよな