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小説と散文

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短編小説と散文を集めています。
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記事一覧

【超短編小説】晩ごはん

【超短編小説】晩ごはん

 「今晩は珍味が届いた」と夫が言うので、箱を開けてみたらサソリだった。丸ごと1匹、大きいのが入っている。どう調理すればいいんだろう。とりあえず火にかけようか。

 スマホで調べたら、揚げ焼きにするとおいしいらしい。ならそうしよう。

 このあいだの珍味は熊だった。頭つきの死んだ熊が届いたから、風呂場で首を切り落とすのが大変だった。熊肉の味はどうだったか覚えていない。なんでもすごく精がつくようで、

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1000文字小説「人喰い」

1000文字小説「人喰い」

 人喰いをつれて歩く。首輪をつけてリードを手に持って散歩する。

 人喰いは背が高くて灰色で、ぶよぶよしている。食べるときには大きな口でひとのみする。人を食べるのって大変だと思うんだけど、人喰いは一回できれいに食べるからいい。血も流れないし一瞬ですむ。

 初めて会ったのは、小学校のころの校庭だった。私はいつものようにいじめられていた。ボールをぶつけられたあとでふらふらと立ち上がったら、いじめ

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AIと、ショートショートを書いてみた。

AIと、ショートショートを書いてみた。

 「AIと一緒にショートショートを書く」という試みをしてます。どちらかがBing AI、どちらかがメルシーベビー作。


「人手不足」 「どこも人手不足だからな」
 課長は言った。
「ひとりが長時間はたらく以外にないんだよ。今日どうせ終電まにあわないだろ?ホテル取っといたほうがいいぞ」

 高崎はそれを聞いて、そッスね、と気のない返事を返し、社用のパソコンに向かって近隣のホテルを検索する。今晩

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【超短編】蛇を殺しに

 蛇を殺しに行こうと思った。すごくいいアイデアに思えた。やったらきっと頭がすっとして、わたしは少し解放された気になる。世間はそれを悪いことだと言うだろうけど、他人に迷惑をかけないなら問題ないじゃないか。むしろ蛇と私のあいだで事足りるのを、世間は喜ぶべきなのだ。無差別に人を殺すんじゃないんだから。

 蛇は悪い。放っておけば私を吞もうとする。厄介だ。巻き付いてくるし、舌はシャーシャーうるさく動くし

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【詩】リヴィングヴァルドの処方箋

【詩】リヴィングヴァルドの処方箋

リヴィングヴァルドは薬屋だった
ただの水を魔法の水だと売りつけ
人に塩を舐めさせて病気が治ると謳った
そんな彼のお気に入りがドーナツだった

予定が狂った日には、砂糖のかかったドーナツ
それが一番いい
列車は遅れるし雨も降る
ドーナツの真ん中には穴が空いている
そういう時間だ
リヴィングヴァルドの処方箋

甘いものなんかじゃ幸せになれない
と君は思うけれど
腹が減っているなら何か
喰わなきゃいけな

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君はドリアン・グレイ

君はドリアン・グレイ

君はドリアン・グレイだ

肖像のないドリアン・グレイ



いつでも人気者だった

女の子の群れに囲まれて

どんなに意地の悪いことも

若く美しい君は許された



君はドリアン・グレイ

になれなかった



最初は小さな綻びだった

隠し通せる程度の小さな穴

俺はこんなのにやられる男じゃない

黙ってりゃもっと上まで行けるんだ



君はドリアン・グレイだ

肖像のない



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【超短編】モノ・マルチカルチュラリズム

【超短編】モノ・マルチカルチュラリズム

 むかし駄菓子屋さんが家の近所にあって、私はそこでブドウ味のキャンディを買うのが好きでした。ちょっと酸っぱくてそれから甘くって、フルーティーなにおいが鼻を抜けて行く。友だちのアキちゃんはオレンジ味、レンくんはイチゴ味が好きで、三人でよく買いに行きました。

 ある日、駄菓子屋のおばさんが「今日からこれしかないよ」と言って、全種類がパッケージされた箱を売るようになりました。

「ブドウだけ食べたがる

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【超短編】夢見る天気予報

【超短編】夢見る天気予報

「雪は夜明けすぎに、寿司へと変わるでしょう」
 NHKのアナウンサーの声で、部屋の片隅のラジオが喋る。布団の中でまどろみながら、回らない頭で考えた。そうか寿司か。なら外に出たときは道路がぐちゃぐちゃかもしれない。汚れていい服だな、今日は。

 玄関を開けてみると、久々に降った寿司のせいで人々が騒いでいる。
「醤油も降ってくれなきゃよう、これだから使えねえってんだ」「アンタしっかりしなよ、歩けるの?

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【小説】詐欺師の娘たち-終

【小説】詐欺師の娘たち-終

 私は部屋で地球儀を回す。初めて位置関係というものを知る。国と国の間の、あるいは地球上にいる誰かと、いまの自分の間の。
 ここがロシア、こっちがウクライナ。ウクライナはロシアより遠い。首都のキエフはここ。ルーマニアはこっちで、首都はブカレスト。島国の日本と違って、国境線が接している。中国はロシアの南。ここにも国境線がある。父の持っている本にはこう書いてあった。「ウクライナはかつてソビエト連邦に属し

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【小説】詐欺師の娘たち-5

【小説】詐欺師の娘たち-5

 嘘の何が悪いのか、少しもわからない。それは現実を消し去る華やかな夢、人を励まし慰める美しい社交辞令、マッチ売りの少女もそれがあるからわずかなあいだ生きていられたような、温かく優しい幻想。「真実こそがいいことだ道徳的だ」と言う人間は、底辺まで落ちたことのない、幸福で高慢な人間だ。必要な人間に必要なだけ、娯楽のように与えられる嘘しか私は知らなかった。かつての不完全な父親に、金しか愛されなかった女たち

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【小説】詐欺師の娘たち-4

【小説】詐欺師の娘たち-4

 その日から、私には母が1人、父が2人いる。
 引き取られた先の夫婦にどうして子どもがいないのか、誰も教えてはくれなかったけど、そんなことは気にならなかった。私は孤児院では手にできなかった個室を与えられ、美しい母と優しい父のもとで育つことになる。2人が私の生い立ちについて、何を聞かされていたかは知らない。聞いていたところで、その後の扱いを大きく変えるような両親でもなかった。彼らは子どもが欲しかった

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【小説】詐欺師の娘たち-3

【小説】詐欺師の娘たち-3

 正式には児童養護施設、こういう場所はどこも金がない。私は着くなり相部屋に叩き込まれた。ずっと前に見たアメリカの映画、刑務所のシーンを思い出す。主人公を独房に案内した看守が言う。
 来な新入り、ここがお前の寝床だ。
 父と一緒に暮らした部屋よりもさらに狭い、二段ベッドが置かれた殺風景な空間には、トーコという女の子が先に住んでいた。孤児院の職員が適当に切ったであろう雑なショートヘアをして、伏し目がち

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【小説】詐欺師の娘たち-2

【小説】詐欺師の娘たち-2

前回の記事はこちら。

 女たちの目をまっすぐに見るようになった。それ以来、体調が悪い。
 彼女たちの瞳の中にある、ベタベタして救いようのない黒くて重い何かが、父親に移り、それから繋いでいる手を伝って流れてくる。私に。美しく着飾り、自分にとって人生はなんてことないと明るく笑う表情の裏で、毎晩泣いているような何かが。それは一個の人格を持っていて、人の感情であるというよりは人に憑りつくような何か。
 

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