2017年『新聞歌壇』掲載短歌

【読売歌壇】

俵万智選


対義語を探すのはもうやめたのだ優しい嘘と哀しい雨の
1/9

細長い葉になり雨の重圧をしゃらんと流すふたりになろう
《特選三席》
2/14

仰向けの白馬のような雲があるきみの空にもぼくの空にも
《特選一席》
2/27

プレミアムフライデーには働いていますお店に来てくださいね
3/27

日曜日新宿御苑を歩きましょう入口のある恋をしましょう
《特選二席》
4/3

ごめん、うそ、さびしい、もう寝た? こっぴどく夜は長くてあなたにLINE
4/17

ドーナツの穴の中には何も無いそんなんわけないあなたが見える
5/1

世界って起承転結・序破急じゃないねあなたの髪に埋もれる
5/9

五月の風と十月の風が好きだったあなたをつなぐ夏になりたい
6/5

二時間も待ってジョニーが来ないという歌を聴きつつあなたを待つよ
《特選二席》
6/12

大好きな君を解約することは想い出により禁じられてる 
《特選一席》
9/18

岸辺より川面へ伸びる僕の影あなたが投げた小石に割れる
11/14

恋するとふたりのドラマ止まらない一旦CMいくこともなし
12/12

カードキー挿したらすぐに抜きましょう恋をしたならドアを開けよう
12/24



【東京歌壇】

東直子選


空の青さに負けてしまうときみがいうシュレッダーから紙片がこぼれる
《特選一席》
1/15

袋綴じ開けたら冬の種だったあなたの声は春が似合うね
1/22

ひとつまみの塩が静かだ指先にあたる光に慰められて
2/19

繰り返す後悔集めをやめました月のひかりがひらいてるから
4/2

縄跳びをしましょう地球の拍動を消さないための心臓マッサージ
5/28

面影をくっきり描くはずでした心の画布は泥濘んでます
《特選一席》
6/18

土草の匂いがしみる雨上がり坂のぼりつつ風を濃く吸う
7/16

君を待ち待ち続けてるコンビニで雨粒よりも透明になる
8/20

憂鬱がわたしの顔を殴るとき手紙のようにとんぼが通る
9・10

ミルク皿にほんの少しのミルクでいい濁らぬ内に這い舐め取らせよ
11/18

棺には海が溢れる母はもう人間やめる顔してたもの
12/10

トイレットペーパーの芯覗いたら絶好調の宇宙が見える
12/16



佐佐木幸綱選


鈴を付けた猫が舗道で死んでいるタイヤの幅の窪みに西陽
1/15

誰の背にも喰い込んだことのない頃の貴女の爪だ元旦の月
1/29

夢の中で母は生きてたずいぶんと活き活きしてて肉体だった
3/26

頻脈の春の青さに膝を折りまた立ち上がる四十路の恋に
《特選一席・四月度月間賞》
4/16

媚びを売る人の顔にはほころびがあり裏側に本当の顔
4/23

定位置を移動させてのご使用を禁じる椅子に孤独が座る
5/6

メモ帳の代わりにスマホに書きとめる三十一文字は逮捕できない
《特選一席》
5/27

折り鶴はもう戻れないまっさらな水平線のような紙には
《三席》
6/18

雲が筋肉をつけ出す初夏は三島由紀夫の『潮騒』を読む
6/25

人々は颱風を避け帰路に就くICBM着弾した日 
《三席》
8/6
老いてゆく顔を鏡に映すとき水脈速き我がこころの鼓動
8/20

優しさを扉付近に置かないでください孤独が逃げられません
9/3

入り口をそっと覗けば富という文字金色の宗教法人
9/10

水道の傍でしゃがんだ猫に寄り手を窪ませて真水を溜める
11/12

人間を監視するのは人間だ人口密度の低いWEBでも
《三席》
12/10

堤防の抉れた傷に詰め込まれ土嚢は虫歯の詰め物に似る
12/17



【毎日歌壇】

加藤治郎選


こんな小説書きたいねって宣言をしてから何も書けないふたり
《二席》
1/23

AIが愛を知る日は来るだろう本物だろうと偽物だろうと
6/13


伊藤一彦選


鯉の目になって今宵の満月を見てるわたしをきみに見せたい
1/30

眼から声が出るものならば寂しさを酒瓶に注ぎ込みたい今宵  
7/10

銀河には無数の星が遊んでるこんなに広い部屋がほしいな 
《三席》
8/7

誰も彼も同じ顔した群衆の中に入れば居心地よろし
《三席》
8/21

本当に言いたいことは隠してた目を見るだけで雪崩れゆく嘘 
《二席》
8/28

『歌よみに与ふる書』読むこの野郎言いたい放題いとうらやまし
9/18

「ぼくたちを捨てないで」という標示あり陽の暮れなずむ犬猫慰霊碑
10/2

富士山は仏の顔に似ています目を合わすたび心が痛い  
10/29

割引のおでんベンチで食べおれば昼に深夜の気分味わう 
11/19

ティーラウンジが似合う男になりたいな天涯孤独な小鳥のような
12/3



篠弘選


納豆を箸を立てつつ掻き混ぜる粘土遊びをしたる思い出
4/3

返答は的を射ることないままに父と息子は作り笑いす
12/24



【日経歌壇】

穂村弘選


絶望から得るものがある 来年の干支を知らない四十三歳
1/15

キリストに自転車の乗り方教え駆け出したいな狭い路地裏
4/8

銀河にも迷子がいます目を凝らし多肉植物の葉を撫ぜていく
6/3

シャツ汗がミッキーマウスのような人見つけたからには俺も汗かけ
7/8

子羊がひしめき合って夏の雲WI‐FIなんか探しちゃいない
8/26



三枝昴之選


世界には空席はない世界には教師はいない君に会いたい
5/6



【産経新聞】

伊藤一彦選


灌木の枝に黄葉が突き刺さり風に供する馳走であるか
10/25

地を這う虫の視点を僕は手に入れる透き通る空遥けき秋よ
11/28

歩道橋深夜の月に朧なり夢の浮橋我を載せたり
12/6



【読売新聞・よみうり文芸(神奈川県版)】

梅内美華子選


痛み知り大人になれば見えてくるそれを忘れるための吹雪が
《三席》
1/21


松平盟子選

しくじった生き方の人だけが乗るクリスマス包装の路面電車
《秀逸・一席》
1/28

地に吐いた唾さえオレンジに染まるのだ汚いこの手を夕陽にかざそう
《秀逸・一席》
2/11

整体の仕事しようと決めたのは君の心の裏もほぐすため
2/25

父親はいかなるときもわたくしの壁という壁に貼り付いておる
《三席》
3/4

想い出が多く飛び交う横浜で鼻水を拭く紙が足りない
《佳作・二席》
3/11

愛と神声に出すとき思い切り開けさせてくれからっぽの口
《三席》
3/25

きみの背を追いかけるだけの手が今は支えるための手になりたがる
4/8

神様が指をパッチン弾くとき悪意のすべてに付箋が貼られる
《秀逸一席》
4/15

放屁とは遊離してゆく魂ぞ此処は鎌倉大仏の背(せな)
《三席》
4/22

存在の微妙に薄い俺のこと煙草の煙で隠さないでよ
《三席》
4/29

恋は春そわそわと神が俺のために掻き集めてきた菜の花の種
《三席》
5/27

キリストの最期の声を知っている空を切り取り御守りにしたい
《三席》
6/3

指先に乗る雨粒の中にある詩集に栞を挟めば消える
《佳作二席》
6/10

憎しみは愛とは別の十字架よ背負わせるものさえ傷つける
《三席》
6/17

栞とは萎れぬ記憶 君の声が綴り折られたアルバムめくる
6/24

干からびたミミズが僕の栄光の少年時代を抱え込んでる 
《佳作二席》
7/1

はたいてもコロコロしても黒黴の残党白きタオルに残る 
《三席》
7/8

後悔がジャコメッティの彫刻に似て想い出に屹立してる 
《三席》
8/26

良き日本を実現しますとスピーカー四基備えし軽自動車過ぐ 
《秀逸一席》
9/2

蟻を踏む母を返せと踏む俺を綿毛がやさしく通り過ぎゆく 
《三席》
9/9

俺の顔は汚いだろう生きるため首を水面に突き出す銭亀 
《秀逸一席》
9/16

キスの色はくり貫くように忘れない色相環を駆け回る僕 
《三席》
9/23

頬紅という虚構差す微笑みを忘れた君が鏡に映る
《三席》
10/28

名も知らぬ若草色の虫掴みティッシュの中で弱く殺める
11/18

シルレルの詩を読みながらエレヴェーター下りれば夕暮の観覧車
11/24

読むほどに星の王子とつなぎたいこの手は花です水をください
12/9

スチールの扉が閉まる強い音 青虫のにおい、朝の胸焼け
《佳作二席》
12/16



【神奈川歌壇】

武田弘之選

とりあえず無になることはできないよ今もかつてもこれからも誰も
1/15

鳩サブレーの袋を千切り間違えて鳩を外界へ解き放てない
2/26


年間合計95首掲載

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短歌

三十一文字という可能性。 現代短歌という地平。 ポエジーの奔流。
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