2016年『新聞歌壇』掲載短歌

【東京歌壇】

東直子選


小さな子ツィゴーツィゴーとブランコを揺らす無人の公園、僕だ

《特選一席・四月度月間賞》4/10


重力に逆らう涙もあるだろう葛根湯は舌下に苦い

6/12


散りますと言って紫陽花は散りません錆びた己を黙っています

《特選一席》7/31


西日差す西6病棟の細い道を歩き尽くせど亡母(はは)顔出さず

8/7

紀伊國屋書店新宿店二階短歌コーナーに巡礼する僕

9/11


号泣の記憶すらない透明な空が計上する我が帽子

9/18


別々のからだのようで一体のぱぴぷぺ葡萄をほっぺにあてる

《特選一席》10/16



佐佐木幸綱選


制服の少女の白き背に映るやわらかき陽を懐かしく見る

5/1


感謝する死者に幸い賜りて母の黄金比の墓石照る

5/22


胡麻豆腐いないあなたに差し向ける窓の外には永平寺門

5/29


壁に消された小石のように愛は消え壁から犬の鳴き声がする

6/19


一杯のかけそばを押し戴きて生態系の循環すする

6/26


選ばれた少女たちだけ伸ばす首サワディー・チャーオ今日もお元気?

7/24


篆書体の秋という文字見つめればかそけき鳥の啼き声聞こえる

9/25


埋められたねじの写真を撮る日々よこころを壁が囲み出す夏よ

10/2


差し伸べる手を探してるひとたちの手を集め花束として持つ

10/23


言葉より熱き荒野を未だ見ず母の位牌に灯影が騒ぐ

12/11



【毎日歌壇】

加藤治郎選


もうすでに僕のリアルに戦争がこっそり片足突っ込んでいる

2/17


公園の滑り台ってこんなにも光が囁き合う場所なのか

3/14


マリア様労働と親切をありがとう搾取と同情も時にありがとう

5/16


しぐじった人生だろうと食べてやるずれたもなかのはみでたあんこ

5/23


母親の肩に涙と鼻水を垂らした記憶を捏造したい

7/25


亡き母よあんぱんあげるこしあんとつぶあんどっちが好きだったっけ

8/1


米川千嘉子選


まーくんと呼んだ人々が消えていくここにいますよまーくんはまだ

《特選一席》6/27


誰からも認められない人だけの想い集めた新聞読みたい

7/25


残飯よ汝のこころ見せてくれ愛などいらぬと強がる僕に

《特選一席》8/22


少しずつ淡くひらいてゆく口の寂しさ埋める言葉がほしい

10/3



【日経歌壇】

穂村弘選


向かい来る車のすべて秒速30万キロ以上のまばたきで消したい

4/3


花を見て酒酌み交わす人々の視線に入らず我ルパンなり

5/29


三枝昂之選 


地球儀がこわれていきます地球儀は小さい頃の妄想の友

《一席》7/14



【読売歌壇】

俵万智選


オンリーとロンリーで韻を踏むよりはメモリーをメロディーで飾りたい

10/3


親愛の再発行には所定の手数料等要する、とメモ

11/16



【読売新聞・よみうり文芸(神奈川県版)】

梅内美華子選


墓石を担いで生きて何になる線香の先に死者はいるのか

9/17


日々触れる客の躰に減り込ます親指に剛の力(りき)籠められず

10/8


戦争は死を覚悟した病床の母のようには美しくない

10/15


硬いことはそりゃいいモノに決まってる心のツボをググと圧すなら

12/3



【神奈川歌壇】

谷岡亜紀選


耳穴に羽虫が入る黒蝶が枯れ葉に紛れて雨雲を呼ぶ

9/18


今野寿美選


電柱は見つめる 砂塵の道端で忍耐のポーズ決める僕らを

10/16


人生はレット・イット・ビーと顔に書いた人々が街で落葉になる

10/23


戦いは絶えることなしスマホでも地でも空でも銀河の果てで

11/13



鍬持ちて白老人(しらおいびと)の耕すは天に通ずる穴にしあるかな

12/17



計四十一首

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短歌

三十一文字という可能性。 現代短歌という地平。 ポエジーの奔流。
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