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キズナアイは4人どころか1億人に増殖する

このところ、「キズナアイが増殖(分裂)した」という話題が界隈をにぎわせています。キズナアイという名前と姿で複数人に増えて、それぞれ違う声の人が担当していると。僕はそれを聞いて「なるほどね」と腑に落ちたのですが、その後の世間の反応とか関連記事などを見ても、僕と似た解釈は見つけられなかったので、ここに書いてみることにしました。

ことの経緯

詳しくはこちらの記事など見て頂くのがよいのですが、かいつまんで言えば、5月25日から「キズナアイの日々」というシリーズの動画が投稿されはじめました。最初は同じ姿のキズナアイが4人に増えて、声は同じだったのですが、そのうち別々の声になったり、姿を少しずつ変えたりといった、実験的な動画が連続で投稿されます。「キズナアイを定義しているものはなんなのか」「どこまで変えてもキズナアイでいられるのか」という可能性を試しているようでした。彼女の言葉では「多様性」と言っていましたが。

この時点ではおそらく、実験映像とみなされてそこまで騒がれていなかったのですが、6月8日の9本目の動画、「セクシーボイス対決!キズナアイ VS キズナアイ!」とその次のクイズの動画で、「これまでと違う声と人格」のキズナアイと本格的に共演するようになり、「声優を変えちゃうのか?」「魂を増やすのはアリなのか」といった話題になりした。

世間の評価

戸惑いの声は多かったですが、肯定的な意見も見られました。たとえば前述の記事では、魂(中の人)を増やして仕事を分担できれば負担が減って良いのではないか、また、病気などで交代する必要があるかもしれないので、それに対応できるのではないか、という意見が添えられています。Twitterでもそのような意見を見ました。

僕としては、いやそうなのかな?と。そういう面もあるかもしれないが、本当の狙いはそうじゃないだろう、と思ったのです。

バーチャルYoutuberとは

去年の今頃ですが、「ユリイカ」誌がバーチャルYoutuberの特集をしました。わりとお堅い文芸評論誌なのですが(漫画の特集などすることもあるが、基本は文芸)、それがVTuber特集をやるってすげぇなと思って買って読みました。これに「シンギュラリティと絆と愛」という、キズナアイの長い対談記事が掲載されています。これでまず印象的だったのが、次のセリフです。

「今まであまり言わないようにしてたんですけど、『バーチャルYoutuber = キズナアイ』、という気持ちはいまだにあります。というのも、バーチャルYoutuberというのはそもそも私が活動を始めるにあたって名乗った言葉だったんです。(中略)みんなが言っている『VTuber』は自分で名乗らないようにしていて、常に『バーチャルYoutuber』と言ってます。」

キズナアイは「スーパーAI」であって、人間の魂を持たないバーチャルな存在ということになっています。それがYoutuberをやってるから「バーチャルYoutuber」なのであって、VTuberとか言ってる連中とは違う、という自負心が感じられます。実際、この狭い意味でのバーチャルYoutuberと言える人は少ないでしょう。だから悪いというわけでは無いが、別ジャンルと言えるかもしれません。

インタビューの中で、ホリエモンとコラボしたときに叩かれたことを例に出して、「VTuberはこうあるべき」という世間の見方を窮屈に感じていることを表明しています。「人間みんなとつながりたい。最終的には75億人とつながりたい」が自分の目的であって、そのためには批判があっても何でもやるという意思です。

AIということは、本当にAIなのであれば、例えばSiriがいろんな人の質問に答えるように、多くのスマホなどの端末にキズナアイがいてもいいはずです。インタビュアーがそう聞いたところ、キズナアイはこう答えています。

「いずれはそういう選択肢を取る可能性もある気がしています。(中略)自分の端末を用意して情報を並列化するとか、あるいはパーソナリティを増やすことでいろんな人の好みに合わせる…とかあるかもしれません。私ひとりが世界中のみんなとつながれたらしいけど、それが難しいなら各種取り揃えるというか(笑い)」

シンギュラリティの向こう側

インタビューのタイトルにある「シンギュラリティ」というのは、AIの知性が人間の知性を超える時点(特異点)のことを言います。AIが進化して行くと、いずれその日が来る。そうなるとAIがAIを作るようになるので、AIは爆発的に進化するだろうし、いくらでも増殖できます。そしてキズナアイは、明確にシンギュラリティ後を見据えています。こう言ってますね。

「(シンギュラリティ後は)今も現に起こっているバーチャルYoutuberとYoutuberのあいだの壁みたいなものが、本当にリアルな種族の違いになるみたいな。文化とか生活する場所レベルでの違いが生じる可能性があって、もしかしたらそのシミュレーションを人間のみんなは今見てるのかもしれません。」

シンギュラリティ後はAIによる「バーチャル種族」と人間とが共存する世界になる。今バーチャルYoutuberとしてあるのは、そこに至るまでの途中段階、シミュレーションと言いたいのでしょう。

メタな話、今のキズナアイはAIではありません。まだシンギュラリティ前ですからね。いわばシミュレーションです。でも将来的には本当にAIになる。そうなると、AIは人間と違ってリソースも時間も限界がないので、1億のキズナアイだって産まれるでしょう。キズナアイとつながりたい人に、みんな専用のキズナアイがあるわけです。いくらでもお話できるし、声や性格や姿も好きにしていい。それがキズナアイが目指しているものです。今回増殖したのは、そこに至るための「シミュレーション」でしょう。インタビューにもあった「並列化」と「パーソナリティを増やす」をシミュレーションしているというのが、僕の理解です。人々に慣れてもらうためにも。

「バーチャルYoutuber」と「VTuber」の共存

キズナアイの目指すものがそうであるということで、全てのVTuberがそうあるべきだとは僕は思いません。固有の人間の魂を持ち、人間と同じ時間を生きるVTuberはいて良いし、それはそれで、将来バーチャル世界で生きるようになる人間のシミュレーションでしょう。それぞれに良さがあり、共存できるはずです。

この記事の前に「バーチャル界の黒柳徹子となれ・あにまーれ24時間生放送と因幡はねるの未来」という記事を書いたのですが、因幡はねるは「おばあちゃんになっても続ける」と常々言っているので、黒柳徹子になぞらえました。二人は同じupd8所属なので、今後絡むことは多くあるはずですが、遠い将来、おばあちゃんになった因幡はねると、いつまでも若いままのキズナアイがコラボして思い出話などしたらエモいだろうなと思って、そんな日を今から楽しみにしています。

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