いくみん

VTuberがアイドルから貰ったもの・元AKB中野郁海と因幡はねる

7月1日に、VTuberの因幡はねるが、元AKB48 team8のアイドル、中野郁海をゲストに招いた生配信(YouTube LIVE)が行われました。

因幡はねるはTwitterのプロフィールにも「中野郁海ちゃんがだいすき」とずっと書いている大ファンで、普段の配信でも度々話題にして、因幡はねるリスナーとしては「AKBは良く知らなくても中野郁海ちゃんは知ってる」という状態だったので、このコラボは感慨深いものがありました。

リスナー視点ではなく客観的に見ても、AKB48でセンターだったというトップアイドルとVTuberが、二人だけでがっつり語り合うというということは、なかなか無い貴重な機会だと思えます。中野郁海は1ヵ月ほど前にAKBから卒業してフリーになったので、フランクに本音で語ってる様子で、ファンとの関係性などについて興味深い話が聞けました。VTuberやそのファンにとっても参考になる話だなと思って、そのあたりを切り口に書こうと思います。

アイドルオタクの生態

アイドルにはまる人の気持ちというのが、以前はあまりわかりませんでした。知り合いに重度なアイドルオタクのおっさんがいて、バリバリのコンサルタントで、元々オタクでは無かったと思うのですが、病気で入院していた時に何気なく見た動画をキッカケに、アイドルにはまったと聞きました。ハロプロ系のあるグループの、一途なファンをやっているようです。ライブやイベントを追いかけて日本中飛び回っていて、何がそんなにいいのかなと思ってました。

話を聞いてるといろいろ面白いんですが、例えば、地方のコンサートなどに行くと、飛行機の便数が限られているため、アイドルたちと同じ便になることはよくあるそうです。空港のお土産物屋などで鉢合わせすることもあり、そんなときファンは、決して声をかけたりはせず、「お邪魔してすみません」という気持ちで、さりげなく、なるべく視界にも入らないようにして立ち去るのだとか。そういうものなのか、とその時は奇妙に思っていました。

私のこと知ってますか?

因幡はねる(以下ねるちゃん)もまた、VTuberデビューする前は、中野郁海(以下いくみん)の公演や握手会に熱心に通うファンだったので、対談の冒頭で恐る恐る、「いくみんは私のこと知ってますか?」と聞きました。するといくみんは「もちろん知ってるし、覚えています」と答えました。

へー、覚えてるものなんだ、と思いましたが、その後の話を聞くと、覚えてる覚えてないどころではなかったですね。動画の5分56秒あたりのやりとりを引用します。

はねる 「いくみん、ちょっと覚えてるかわかんないんだけど、ちょうど今から1年前くらいの時に、名古屋の選挙の後の握手会で、バーチャルYoutuberとしてデビューすることになったという話をしたんだよね」
郁海 「おぼえてますよ、めっちゃおぼえてる。私はなんかすごい、気分的にめっちゃ落ち込んでて、わーってなってたんだけど、そうやって(ねるちゃんが)夢に向かってがんばるよ、みたいな。だからいくみんもがんばろう、って言ってくれて、だから応援しようって思ってました」
はねる 「あー、泣きそう」

今回のこのコラボが実現したのは、いくみんがねるちゃんのTwitterをフォロー(返し)したことがきっかけでした。ねるちゃんは最初それだけで大喜びしていましたが、さらに勇気を振り絞って配信に出て貰えないかと誘ったところ、快諾してくれたというものです。卒業してフリーになったので、AKBにいるときはやりにくかったであろう個人的な「応援」を、さっそく実行してくれたわけですね。学業に専念しているいくみんにとって、コラボをやるメリットはさほど無いので、純粋に応援したいという気持ちからではないでしょうか。

「そのときめっちゃ落ち込んでて」というのは、総選挙直後だったからでしょうか。そんなときに、ねるちゃんの言葉で救われたから、その恩返しという意味もあるのではと想像できて、だとするとさらにエモいです。

いくみんがいかにファン想いであるかについて、ねるちゃんは熱く語っていました。動画の11分44秒あたりを引用します。

はねる「いくみんのいつもすごいところが、ファンの人のことをすごいよく考えてくれていて、大きいドームのコンサートとか、SSA(埼玉スーパーアリーナ)の時とかでも、私3階席の端っこにいても、いくみん気づいてこう、手振ってくれたりとかするんだよね。(郁海:そう!)
そんくらいみんなのことをよく見てくれてて。私長年アイドルオタクしてるけど、こんなにしっかり見てくれる子、本当にいないって思って、そこでまた更に惚れてしまうわけなんですが」

はねる「だから私もね、自分がこの活動(VTuber)をするときに、やっぱいくみんみたいに、真剣にちゃんとファンの人のことを考えて、対応していかなきゃいけないと思って、神対応を参考にさせてもらってます」

郁海「えーそんな、初めて言われた」

ねるちゃんも、ファン一人一人をよく見て覚えていて、神対応することで知られているのですが、それはいくみんを見習ってる部分が多々あるわけですね。いくみんをリスペクトして、自分がやってもらって嬉しかったから、自分もそうしたいと。

さらにこんなエピソードも。動画の12分50秒あたりです。

はねる 「(収録の観覧で)カメラがまわっていない時って、他のメンバーの子はいろいろ確認したりしている中、いくみんだけすごいなんか、客席に向かって、気を遣って話しかけてくれてるんだよ。なんていい子なんだと思って、そのときも。だから、そういうとこもちゃんと見習わなきゃなと思ってる」

いくみんも凄いが、しっかり観察して見習っているねるちゃんも凄いんじゃないでしょうか。

推し変を許すな

いくみんに対して質問をぶつけるというコーナーがあり、その中で「推し変」(あるアイドルのファンが他のアイドルに鞍替えすること)について聞いていました。動画の25分48秒あたりから。

はねる 「推し変はどう思う?」
郁海 「推し変は、バレないようにやれば問題ないけど、結局でもバレちゃうから」
はねる 「気づくよねー」
郁海 「そう、気づく! 気づいちゃうから、悲しい、推し変は」
はねる 「握手会とかで、自分のファンの人が別のレーンに並んでるとかわかる?」
郁海 「わかる、めっちゃわかる」
はねる 「わかるんだー」
郁海 「めっちゃわかる。めっちゃ目に入る」
(中略)
はねる 「推し変はやめましょう」
郁海 「やめましょう!」
はねる 「推し変を許すな!」
郁海 「許すなー!」

これはずいぶん意外でしたね。握手会って大勢並ぶのだろうし、流れ作業的にやってるだけだろうという偏見があったけど、しっかり誰が来てるか気にしていて、そんなところまで見ているのかと。

ねるちゃんも推し変にいつも心を痛めていて、配信に誰が来ているとかチェックしているし、Twitterで他のVTuberにスキとか言ってないかなどもチェックしています。だから「推し変を許すな!」と意気投合していてましたね。

この他にも、ファンに対して「けっこう嫉妬深い」というエピソードを披露していましたが、ファン一人一人をよく見て大事にするというスタイルでやっていると、これは仕方ないことかもしれない。感情移入するし、愛情を注いでいるのだから裏切られたくないと思ってしまうでしょう。愛情と執着は裏表一体のもので、それだけ愛が深いということであり、ファンとしてはむしろありがたいことです。

ねるちゃんのリスナーへの執着については、以前にnoteの記事にしました。

アイドルとファンの理想の関係

全体を通して印象的だったのは、ねるちゃんがしきりに、卒業後の今の生活について、楽しんでいるか、幸せかと気にしていたことです。例えば動画の19分29秒あたりから。

はねる 「大学は、すごい楽しんでる?」
郁海 「楽しいです」
はねる 「あーうれしー。いくみんが幸せなのが私の幸せだから」
郁海 「親だ(笑)」

さらに恋愛の話に絡んで、動画の27分51秒あたりから。

はねる 「やっぱり私も厄介オタクだから、いくみんは誰のものにもならないで欲しいという気持ちと、でも、ほんとにいい人だったら、めっちゃ幸せにしてくれる人だったら、まぁいくみんをあげてもいいぞという」
郁海 「えー、結婚するの私?(笑) 結婚相手は探してない」
はねる 「お金持ちで顔もカッコよくて、すごい優しくて、いくみんのご両親とかも大切にしてくれて、そういう人だったら許さんでもないなと思ってる」
郁海 「なんかすごい、、先祖の方?」

親から先祖にクラスアップですよ。守護霊的なものになったのでしょうか。

配信の締めでも、いくみんに感謝の言葉を言いつつ、感極まって「幸せになって欲しい」と何度も言っていました。AKBを卒業して、あまり会える機会が無くなってしまうけれど、いくみんが幸せであればそれでいいと。

いい関係だな、と思いますね。今回の共演は別としても、いくみんはねるちゃんの応援で元気をもらって、気にかけて応援したいと思っているし、ねるちゃんはいくみんを一途に応援して、その幸せを願っている。アイドルとファンとの関係は様々だろうけど、これは一つの理想形でしょう。

最初に書いたアイドルオタクの知り合いのことも、以前はあまり理解できなかったけど、今は分かります。彼はきっと、その好きなアイドルから多くのものを貰ったのでしょう。だから応援して、幸せを心から願っている。そうだから、あのような振る舞いになるのだなと。アイドルとファンがお互いに与えて、お互いの幸せを願っている。優しい世界です。

VTuberは歴史が浅いので、VTuberとファンとの関係性がまだ未成熟なところはあるかもしれません。より歴史がある、アイドルとファンとの良い関係性は、VTuberやVTuberファンに参考になる部分があるんじゃないかなと思いました。実際、ねるちゃんは参考にして取り入れていますしね。もちろん、こういう関係だけが正解という意味ではないですが。

また、ねるちゃんはいくみんのことを一途に応援してきて、それでも自分が覚えられているという確信は無かったのだけれど、確かに想いが伝わっていたことが今回分かったわけで、これはねるちゃんだけでなく、世の中のファンたちにとっても勇気づけられる話ではないでしょうか。一途に応援していれば伝わるんだなと。そんな、優しい気持ちになれる出来事でした。

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