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すでにここにある未来・VRカップルにいろいろ聞いてみた

ある日の朝、寝ぼけながらTwitterをチェックしていたら、「お付き合いすることになりました」という文字が目に飛び込んできました。知り合いのWKさんが、やはり知り合いのまいとねさんと付き合うことになったという報告です。どちらも男性ですが。

お二人とはたまにVRCHATでご一緒するのですが、そのVRCHATを背景に、二人が女の子のアバターでイチャイチャしている写真がアップされています。寝ぼけていたこともあって、「どういうこと?」としばらく混乱していました。

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でも考えてみたら、何も不思議なことじゃないなと思い至りました。今回はそれについて書きます。お二人のインタビューも取れたのでお楽しみに。

VRCHATとは

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VRCHATについて軽く説明すると、ネット上で共有された仮想空間に、自身の分身であるアバターで入ってコミュニケーションできるソーシャルVRサービスです。普通のPCでも遊べますが、HTC VIVEなどのVR機材を使えば、仮想空間の中でよりリアルに生きている感覚が得られます。

アバターは自由に作ることができ、また足や腰などにセンサーを追加すれば、自分の動きをかなり正確にトレースしてアバターに反映させることができます。

アバターの自由度は高いので、動物だったり、家電製品のようなネタキャラだったりいろいろですが、やはり女の子の姿にしている人が多いですね。普通のゲームで女性キャラを使うのとはかなり違う体験であり、自分の姿が本当にそうなったような感覚、身体が再構成されたような感覚は新鮮です。

ネトゲ恋愛との違い

MMORPGなどのゲーム、いわゆるネトゲ上で付き合ったり結婚したりという話は以前からあります。結婚やパートナーがシステムとして実装されているものもありますし。でもVRCHATでのカップルは、それとはまた違う気がしますね。ネトゲは画面上の自分や相手のキャラを客観的に見ていて、主にテキストチャットで会話するので、LINEなどでチャットしているのと本質的にそう違うとは思えません。

一方でVRCHATは、バーチャル世界に全身で入り込んで、普通に声でしゃべり、身振りもそのまま反映されるので、現実世界で会うのとほとんど変わりません。システム上の結婚といったものも無いので、データや設定ではなく、現実と同様のコミュニケーションから生まれる恋愛です。

ネトゲ恋愛の場合、それがガチに発展すれば、お互いにリアルで会おうという話になるのではないでしょうか。でもVR恋愛ではそのモチベーションは低い気がします。バーチャル空間で、アバターで会うことに意味があるんじゃないかと。

異性を意識させる要素

グレッグ・イーガンの『ディアスポラ』というSF小説があります。22年前に書かれたものですが、人間が現実世界を捨て、記憶や人格などの情報をコンピュータにアップロードし、仮想世界の中で生きるようになった未来を舞台にしています。VRの究極形ですね。そうなった時に、社会や人間性はどうなってしまうのかということがテーマです。

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この小説の主人公は「ヤチマ」という名前で、性別は無いことになっているのですが、言葉遣いなどから男性のようにイメージしていました。でも読み終えたあと、誰かの感想で「ヤチマが長門有希みたいな無口系女子だと想像すると萌える」と書いてあるのを見て、「確かにめっちゃ萌える!」と目からウロコでした。ヤチマの人格はその前後で何も変わっていないのに、姿のイメージが変わるだけで恋愛感情を抱くことができてしまう。そのことを思い出しました。

性的にノーマルだとすれば、男にとっては女性らしい外見というものが恋愛には重要なのでしょう。動物でも、色が派手とか角が大きいとかで異性が寄ってくるわけで、異性を意識する決め手になるのはやはり異性らしさを感じる「見た目」だと思えます。であれば、中身が何であれ、外見が可愛い女の子ならば恋愛対象になって不思議はないなと思い至ったのでした。VRであれば、可愛い女の子が本当にそこにいるように見えるのだし。

VRカップルにインタビュー

と地固めをしたところで、インタビューです。用意した質問文に答えてもらったので、どちらかといえばアンケートかもしれませんが。

WKさんとまいとねさんがカップルで、それとまた別に、「お砂糖暦半年」というベテランの方にも回答を頂けました。お砂糖とはVRカップルの総称だそうです。

左がまいとねさん、右がWKさんです。もちろん、顔出しOKの許可をもらっています。

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今回の質問を通して知りたかったことは、主に2つです。

1. バーチャルの交際はリアルの交際と違いがあるのか

2. バーチャルとリアルを自分の中で分離できるのか。あるいはどちらかに引っ張られることがあるのか

それでは始めます。

質問1:おつき合いすることになったきっかけはなんですか

WK:大元を辿ればVRC (VRCHAT) の楽しさを教えてくれたってことからなのかなぁ? それから土日に一緒にいるようになったって感じ?

まいとね:私がVRCに誘って面倒みていたら告白されて一緒になった

ベテラン砂糖さん:悩みをお互いで相談しあっている内に気がついたら、いわゆるお砂糖になった (ここに関しては、どちらかが告白してとか無くて、回り見てるとちょっとだけ特殊な所はあるかも)

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なるほど、すごい普通ですね!

交際のきっかけについては、リアルのカップルと違うところはあまり無いように見えます。

質問2:相手のどういうところが好きですか

WK:自分に尽くしてくれてる。一緒にいると楽しい。とりあえず優しい

まいとね:私はwkちゃんの何でも挑戦出来る姿勢とか、真剣になってくれるところ好きよ~~あと、心配してくれるとことか!

ベテラン砂糖さん:正面から互いの事を包み隠さずに居られるところ

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めっちゃ甘々じゃないですか! お砂糖と言われるだけあるわ。

「お砂糖の語源は何ですか?」とまいとねさんに聞いたところ、「二人を見てると甘いから砂糖って言われ始めた気がしますけど、私自身もこれってものを知らないんですよね」とのことでした。

バーチャル世界では、リアルよりもわずらわしさが少ないし、アバターによってお互いの可愛いところだけ見られるので、より優しくなれるのかもしれないですね。

質問3:どれくらいの頻度でVRで会ってますか、あるいは会いたいですか

WK:会っているのは土日のみ。毎日でも会いたい

まいとね:私が仕事でVRCできないので、土日のみ。会えるなら毎日会いたいです。

ベテラン砂糖さん:リアル側で問題なければ毎日会っているし会いたい

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マジか、と思いましたね。付き合い始めの二人はともかく、ベテランの方も毎日会いたいと。

僕は相手がいても毎日会いたいとまで思わないけれど、バーチャルではリアルのようなわずらわしさが少ないだろうし(どこでご飯食べようかとか)、現実の体は自宅でリラックスしてるわけなので、障壁が少なく、恋愛だけを気軽に楽しめるのかもしれません。

質問4:リアルでの恋愛対象は女性ですか

WK:ふむふむ…これは今のところ女性なのかなーって感じだけどな…今凄い揺れ動いてる感じがする()

まいとね:リアルの恋愛対象は好きになれば関係ないです。私はね

ベテラン砂糖さん:いえす(女性が恋愛対象)

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バーチャルとリアルは分離できるか、に関わる質問です。

リアルでの恋愛対象は女性なのに対して、バーチャルでは(中身が)男性と交際できるのだから、そこは分離できているのでしょう。でも逆方向で、バーチャルでのふるまいによってリアルが浸食されることは無くもないような? WKさんの回答が興味深いです。

まいとねさんも、Twitterなど見る限りでは女好きにしか見えないので、この回答はちょっと意外でした。

質問5:バーチャルで交際しつつ、リアルで別の相手と交際することは可能だと思いますか

WK:まあ、リアルまで縛る意味も無いから可能かな

まいとね:私としてはVRCで付き合っている以上、リアルで恋愛するつもりは無いです。ただ、個人的な見解としては両立はいいと思います。しかしながら、リアルで既婚者なのでVRCでも付き合えないという方や、既婚者なのにVRCで付き合うのはどういうことか?という意見の方も存在しているのが事実ですね。

ベテラン砂糖さん:意識的には可能だと思う。けど、時間といった物理的な意味で両立する難易度が高いとも思ってる

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可能だと思うが自分はやらない、というニュアンスの回答に見えますね。リアルはリアル、バーチャルはバーチャルと完全には切り離せないものが、心情としてあるかもしれない。

Q&Aは以上です。御三方とも、ご協力ありがとうございました!

すでにここにある未来

さて、知りたかったことについてですが、

1. バーチャルの交際はリアルの交際と違いがあるのか

これは基本的には違いはないが、リアル交際よりもさらに甘々になり得る、ということが分かりました。お砂糖だけに。

自分も相手も女の子の姿なので、百合カップルの感覚だと言う方もいました。アニメやVTuberの百合には馴染みがあるので、分かる気がします。そういえばVTuberにも「おじ百合」ってジャンル?がありますね。

2. バーチャルとリアルを自分の中で分離できるのか。あるいはどちらかに引っ張られることがあるのか

これは、引っ張られることもあるように見えます。リアル→バーチャル はまだ割り切れるけど、バーチャル→リアル方向は浸食されやすいのではないか。アバターで女の子らしいしぐさを追及していると、現実でもそれに引っ張られるということはありますし、精神のほうも引っ張られて不思議はないかと。これはバーチャルの弊害なのか、それとも進化したということなのか。

現状のVRCHATには、触覚をフィードバックする機能は無いのですが、アバターに触られるとリアルの体が触られた感覚を伴う「VR感覚」がある人がいると、まいとねさんから聞きました。「VR感覚が生える」と言うそうですが、これはバーチャルに適応した新しい人類なのではないか。宇宙世紀に適応してニュータイプが生まれたように。

多くの人々がバーチャル世界で普通に暮らすようになる、バーチャル世紀は来ると僕は思っています。それについてはここに書きましたが、リアルの外見、性別、年齢などは関係なく、好きにアバターを設定し、バーチャル世界で生きて恋愛もすることになるでしょう。VRCHATの「お砂糖」の方々は、将来多くの人が体験するであろうことを、いま先取りしているわけです。

未来のことと思っていたのに、身近で起こるとは思っていなくて、心の準備が不覚にも間に合っていませんでした。サイバーパンクの開祖のウイリアム・ギブスンが言った、「未来はすでにここにある」とは、まさにこのことですね。

VRカップルを表す「お砂糖」という言葉は、今は特定の界隈でしか使われていないようで、ググってもその意味ではなかなか見つけられませんでした。でもそのうちVRカップルが当たり前になると、広く使われるようになり、数十年後に「お砂糖って語源は何なんだろうね」と言われてるかもしれません。

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