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バーチャル界の黒柳徹子となれ・あにまーれ24時間生放送と因幡はねるの未来

「有閑喫茶あにまーれ」は、2018年6月にデビューしたVTuberグループですが、その1周年記念企画として「24時間生放送」が6月8日から9日にかけて行われました。

結果は大成功で、感動的でしたが、5月に開催が発表されたときは正直「大丈夫なのかな」とも思っていました。24時間放送をやったVTuberは他にもいますが、ほぼ全編3D(モーショントラッキング)で、ゲストは原則なし(例外1名)で4人のメンバーだけで回し、まとまった休憩時間も作らないという荒行をやった人はいないと思えます。毎日の配信もある中で、短期間で準備できるのかなとか、長時間やってグダらないかなとか、内輪なら許してくれるだろうという文化祭ノリだと辛いなとか、思わなくもなかったのです。

でもそれらはまったく杞憂で、メンバーもスタッフもプロフェッショナルで、高いクオリティのものを見せてくれました。その成功を受けて、この記事はあにまーれ24の感想というよりは、因幡はねるとあにまーれ、ひいてはVTuberの未来について語ります。

過去のことについては別に記事を書いていますので、そちらもどうぞ。

VTuberとファンとの奇妙な関係・因幡はねるの場合
VTuberはプリン犬の夢を見るか?・因幡はねると見る夢

テレビ番組的な構成

下の画像は「あにまーれ24」のプログラムですが、僕が印象的だったのは、テレビ番組的な企画が多いことです。「Vのから騒ぎ」「笑ってあにまーれ」「ごきげんあにまーれ」はテレビ番組に元ネタがあります。「ねるにゅー」はニュース番組、「愛と絆チェック」はクイズバラエティの体裁です。

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宇森ひなこや宗谷いちかは、歌やASMRなど女性VTuberらしいことに強みがあり、日ノ隈らんはVTuberの激辛ブームに火をつけたと言われているように、ユーチューバー的な企画が得意だと思えます。一方で因幡はねるはテレビのバラエティ番組的な企画を得意にしていて、時事問題をネタに語る「ねるにゅー」や、学力テストの「VakaTuberは誰だ」などを普段もやっています。

あにまーれは2DのVTuberとしてデビューしましたが、3D化が発表されたときに因幡はねるが、「私はタレントや司会者的なことがやりたいので、外の企画に参加するために3Dの体が欲しい」と言っていました。確かに彼女の強みを最も生かせる分野はそこでしょう。臨機応変で、時に毒舌で、時にかしこさを発揮するトーク力が強みなので。VakaTuberなど大人数のコラボでの司会ぶりにも定評があります。

あにまーれ24でも、因幡はねるは多くの番組でMCを担当し、最後まで疲れを見せずにしゃべりまくり、動きまくって、番組を仕切っていました。MCを他のメンバーに任せたときは、時に悪ふざけもして番組を盛り上げていました。「私たちはバーチャルコメディアンだから」と言っていましたが、これは「私たちはバーチャルタレントだ」という矜持でしょう。

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ラスト近くで今後の活動の抱負について聞かれた時、「今がかなり満足」と言っていましたが、まさにやりたいことをやって、持ち味が発揮できているからでしょうね。しかも3Dの体で。「これが私のやりたかったことだ、見たか!」という気持ちが入っているように見えました。

運営とupd8のバックアップ

これだけの内容を実現させたのは、演者(メンバー)だけでなく、運営スタッフの力も非常に大きいでしょう。テレビ番組的な企画をそれっぽく見せるためには、高いクオリティで作り込む必要があります。今回は番組に合わせて数種類のセットを作り込んでいたし、進行のための映像などもすごくしっかり作ってあり、まさにテレビ番組クオリティでした。運営側が主導の企画もあり、それも凝った作りでした。普段の、手作り感あふれる配信との差にびっくりです。

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というのも、あにまーれの運営はこれまで、日ごろの配信にあまりタッチせず、演者が個人で手作りでやっているように見えたからです。手作り感もそれはそれで良いもので、個性が出るという利点はもちろんありますが。

全員分の3Dモデルが作られたものの、3Dで配信されたのはお披露目の各1回だけで、3Dで配信するお金が無いかなと思ったりもしました。

でも今回、満を持して覚醒しましたよね。ほぼ全編3Dで、しかもハイクオリティです。4人で動いている番組の時は、OptiTrackかVICONあたりの本格的な(映画でも使われる)モーショントラッキングシステムのように見えます。VTuberがよく使うVIVE Trackerなど安価なシステムでは、あの精度は無理でしょう。カメラワークなども良かったですね。

あにまーれの運営は、あんまりガツガツした雰囲気が無いなと思っていました。VTuber運営はスタートアップ企業(いわゆるベンチャー企業)であることが多いので、出資者に説明するためには、メンバーを増やしたり、イベントを増やしたりで事業を拡大していく必要があります。スタートアップは成長し続けないと死ぬ生き物だから。でもあにまーれはあまりそんな雰囲気がないので、ガツガツやる余力も無いのか、あるいは企業として余裕があるからガツガツやる必要が無いのか、どっちかだなと思ってました。

「あにまーれ24」の本気度を見て、後者だと確信しましたね。その気になればこれだけできるんだなと。今回関わっているななしーず(運営)は30人くらいいると、因幡はねるが言ってましたが(同時に見たのがその人数というう意味で、総数はもっといるはずと後日談で言っていました)、スタジオ側など外部スタッフも含むとしても、あにまーれ1周年イベントにそれだけお金とマンパワーをかけるということに驚きました。

一人だけゲストが出演して、それがActiv8のたけし社長でした。Activ8はキズナアイの運営ですが、VTuberを束ねてプロデュースする、マルチチャンネルネットワーク的な「upd8」もやっています。あにまーれもupd8に参加していますが、これまでupd8主導のコラボが数回あったくらいで、ファンの目に見える御利益は多くはなかったと思えます。見えないところではいろいろあるのかもしれませんが。今回、たけし社長があにまーれメンバーのお願いを聞くという企画で、「upd8のVTuberを集めてリアルイベントを開催する」や、「サンリオピューロランドでイベントをする」といったお願いに、生放送で「やりましょう」と力強く答えていました。

「本人たちのがんばりやファンの応援が必要」と釘を刺すことはしていたけれど、upd8がバックアップすると約束してくれたことは、すごく大きいと思えます。たけし社長がこういうことをするのは始めてのようなので、upd8側も期待しているんだなと感じました。たけし社長の言う「想像を超える未来」を、僕も見てみたい!

バーチャル界の黒柳徹子となれ

ところで、「戦後最大のベストセラー本」が何かご存知でしょうか。黒柳徹子による自伝的物語、「窓ぎわのトットちゃん」です。日本で800万部を売り上げ、海外でもベストセラーになりました。今は本が売れないので、この記録は永久に破られないかもしれません。

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若い人にとって、黒柳徹子といえば「徹子の部屋」の人でしょうけど、以前は歌番組などいろんな番組でMCをする人気タレントでした。自伝本が最強に売れたということからも、どれだけ人気だったかわかります。何よりすごいところは、テレビ放送が始まった時、つまりテレビタレントの黎明期から活動して、以後60年以上、第一線にいることです。他にはいないでしょう。

黎明期といえば、今はバーチャルタレントの黎明期です。まだ物珍しさで使われている段階だと思われますが、いずれもっと一般的になるでしょう。なぜなら低コストだから。

その昔、CGを作るのに1秒あたり100万円と言われていた時代もありました。今は特撮の多くがCGに置き換わってるし、アニメも手書きより低コストなので置き換わりつつあります。バーチャルタレントも、今はスタジオと合成したりなど面倒ですが、みんながバーチャルになれば、同じスタジオに集まったりセットを用意することが不要になって、一気に低コストになります。モーショントラッキングなどバーチャル側の設備もどんどん低コストになるでしょう。

最初のうちは「やっぱり実写がいい」と言う人もいるだろうけど、多少質が落ちても低コストなものが勝ち残るのは、いわゆる「イノベーションのジレンマ」の法則で、そのうち技術が追いついてクオリティが上がり、誰も文句を言わなくなります。フィルムカメラがデジカメに置き替わったように。まぁ実写がなくなりはしないでしょうが。

場所に縛られないのもバーチャルの利点で、アップランドのばぁちゃるさんの講演を聴いたことがありますが、バーチャルタレントの利点は世界中どこでも距離に関係なく行けることだと言っていました。シロちゃんがロスのE3に出演したりしてましたね。

言いたかったことは、今はバーチャルタレントの黎明期で、因幡はねるはそこに踏み出しています。タレントとして、MCでも何でもできるという資質はこれまで見せているし、あにまーれ24でも証明しました。今後は運営やupd8のバックアップが得られそうなので、大きな舞台で活躍するチャンスがあるだろうし、時代が追いついてくればさらに活躍できるでしょう。upd8も公式サイトに「バーチャルタレントをプロデュースする」とあるので、目指すところは同じはずです。

因幡はねると黒柳徹子を重ねたのは、ともに黎明期から活動を始めたことと、トークの感じも似てるように思うからです。毒はあるけど品もあり、かしこいけどふざけたりもする。話を聞いて返すのがうまい、といったところ。そして何より、「おばあちゃんになっても続ける」と常々言っています。

そういえば、彼女はデビュー放送で将来の夢を語っていて、一つは「ポムポムプリンくんと共演する」ですが、もう一つは「自伝を出版する」でした。「窓ぎわのトットちゃん」が頭にあったかもしれません。

あにまーれ24の中で、初のオリジナル曲「ふぁんふぁーれ!」が発表・発売されました。明るくていい曲ですよね。この曲調のルーツは、1960年代のモータウンサウンドです。例えばスプリームスの You Can't Hurry Love (恋はあせらず) とかのリズム。

あにまーれは、「有閑喫茶」という名前や、赤羽にあるという設定、制服のデザインなどからして、昭和レトロな雰囲気を狙っていると思えます。オリジナル曲は、それに合うようにプロデュースされたのでしょう。

黒柳徹子にたとえるのは古い、と思われるかもしれませんが、時代的にはちょうど合ってあってるわけで、いいじゃないですか。あんな人は他にいません、今のところ。因幡はねるよ、バーチャル界の黒柳徹子となれ!


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