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君はココアにソフトクリームを落としてもらったことがあるか。

ココアにソフトクリームを入れるとミルキーの味になる。

ということに気がついたのは、春先の喫茶店だった。

その日僕は学生時代に付き合っていた友人とサンマルクカフェに来ていた。

晩御飯を食べてから、キャンパスをふらふらしたり、かつての下宿先まで散歩したりした後のことだった。

散歩の途中、微かないい匂いを感じて見回すと道端の家屋の柵から花が飛び出していたので、知っている花の名前を並べ上げて当てようとしてみる。

進行方向に大きな家が見えると、友人は僕の手を掴んで門扉の横のインターフォンを押させようとしてくる。

その晩は日中雨が降った後の風が強い晩で、春先とは言っても肌寒かった。僕はうかれて短パンを穿いていたので、そんな風に屋外で遊びまわっている内に体が冷えてしまい、温かい飲み物を求めてサンマルクに入店したのだった。

ホットココアを持って席に座っていると、友人は皿とスプーンを持ちニコニコしながら歩いてきた。皿にはデニッシュとその上に盛られたソフトクリームが見える。

寒い中を散々歩いた後なのによくもアイスなんか食べるなぁ、と思った。
おのおのの注文をしたものを腹に収めながら喋っている最中、友人はソフトクリームをすくったスプーンを自分の口ではなく僕のカップに運び、ココアの中にクリームを落とした。

クリームは温かい液体に浮かび、少しずつ溶けている。
僕に目を向けられた友人は、お裾分けと言って笑っている。

一体どれほど甘くなったのだろう、と思いながら口に流し込んだココアはミルキーの味がした。

ただ甘いのではなく、まろやかなミルクの風味がプラスされた、まごう事なきミルキーの味だった。

その感動を伝えたくて友人にも飲ませてみたのだけれど首をひねるばかりで芳しい答えはなかった。

食べ物を分け合うというのはどうしても甘やかな空気を生むように思う。

君はココアにソフトクリームを落としてもらった事があるか。


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