眼科が苦手だ。

眼科が苦手だ、と言うと不思議な顔をされる。

痛い・苦しいというイメージがある歯科や耳鼻科に比べて、眼を診てもらうことに痛みは伴わないからだろう。

歯を削る時の振動や音に不安になることもない。
粘膜を採るという名目(?)で、
鼻に綿棒を突っ込まれることもない。

そもそも、眼科では直接体に触れられることが少ない。
コンタクトを手に入れるために眼科に行った際も、だいたいの場合人に一切触れられることなく帰ることになる。

視力検査の場面では相手は数メートル先にいるのでこちらに干渉できないし、

眼球の状態をチェックされる時でさえ医師の指示に従って上を見たり下を見たり、眼球の任意の部位を露出することで事足りる。

このように眼科は身体的な苦しさとは縁遠い。

けれど常に〝判断〟を求められる。

「今、ここで自分がどう感じているか」を問われるのだ。

例えば「どちらがはっきり見えるか」問題。

「みどりの面に描かれた丸と赤の面に描かれた丸、どちらがはっきりと映っているか」

という質問だが、

あれに自信を持って答えられている人はいるのだろうか。

同じ色を背景にした2つの円ならまだしも、「赤とみどり」という差をつけられてしまうと困る。

明るい赤に描いた方がはっきり見えるはず、という先入観があるので自分が見ているものが本当にそう見えているのかなんて自信が持てない。

僕はあれに毎回ノリで答えている。

さらに矢継ぎ早に判断を求められるのが視力検査だ。

コンタクトを作りに行った場合
裸眼を調べた後、度数を決めるために様々な厚さのレンズをかけて見える範囲を調べていく。

前者については、もう目が悪いことを承知済みなので
「分からないでーす」と元気に答えていけば問題ない。

ところが後者はそうもいかない。

まず、視力に補正をかけるためにレンズをはめているはずなので、「分からない」と言いづらい。

助手の方が「おかしいな、見えるはずなのに」という顔をしていると、見えている気がしてくる。
自分の視界なのに。

かといって、「上か右だな...」という確かさの状態で「上!」と答えるのはもっと恐ろしい。

いい大人のくせに、当てずっぽうで視力をよく見せようとしていると思われたら恥ずかしい。

見えないとも言えず、見えるとも言えず、進退極まってついには

「上...か右ですかね」というなんの意味もない答えを搾り出すことになってしまう。

50:50じゃないんだから。

そういうわけで僕は眼科が苦手だ。

感じるままただ答えていけばいいはずの場所で、あれこれ気にして勝手に
疲れている自分にがっかりするから苦手だ。

眼科で自分に悲しくなっているより、
歯医者でボケーっと口を開けている方がずいぶん楽だと思う。



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