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頰にキッスはくちづけの始まり

「今日はあなたの唇を奪います。」
怪盗の予告状のようなメッセージが届いている。

なのに、デートに応じるのは、
それはもう犯行の実行を許可しているようなもの。
愚かな私はそれでもまだ逃げ切れるつもりでいた。

彼とのキスが嫌だと言うわけではない。
嫌な相手とデートしない。
居心地の良い二人の距離感が変わってしまいそうで、ぼんやりとした怖さを感じていた。
そして、根気強く何度も私を求めてくれる彼の愛の言葉を、もっともっと浴びていたかった。
与えてしまえば、今ほどの情熱をぶつけてはこなくなるだろう。
それはつまらない。
そのために私はあなたの手の届かないところに居続けなければならないの。
キッスはイヤと言っても反対の…意味よ♪
ピュアピュアリ。
女のコというものは、そういうものよ。

手を繋いでデートしても、往来を歩いて、店に入っている限りはキスのチャンスなど訪れない。
そう高をくくっていたのは、やはり世間知らずの子どもの証拠。
店に入って通された2階席には他に客はおらず、貸切状態だった。
それでも、店員や他の客が来る可能性は当然ある。
ここはセーフだと判断した私に油断が生まれた。

「こっちの窓の向こうはどうなってるのかな?」と小さな窓を覗き込んで眺めようとしたら、彼が背後にやって来た。
気配を感じても、一緒に見ようとしているのだろうと思った。
その瞬間、後ろから抱きすくめられた。
驚き、声も出ない。
背中に彼の熱い体温を感じる。
彼がわたしの名前を囁く。耳元で。
どうしたらいいのかわからないまま、混乱する思考を巡らせた。

…大丈夫。彼は後ろにいるわけだから、この姿勢からキスはできない。
この期に及んで、まだそう考えていた。

「こっち向いて?」
甘い声で彼が耳打ちをする。
考えを読み取られたようで急に恥ずかしくなり首を振った。
もがく私を彼の長い腕が抱きしめる。
「もぉっ!」
自由を奪われ、抗議の眼差しを向けると彼が微笑んだ。
見つめ合い、しまったと気づいた時には彼の顔が近づいてきた。

キスされちゃう!
体を硬くしたが、触れたのは頬への軽い感触だった。
…え?
あ。頰?ほっぺにチュー?
なーーんだ!

そのまま互いの頬と頬を強く押し付けたまま、抱きしめられる。
私をなだめるように彼が私の頭を撫でる。

あらら?思っていたより私って子どもっぽく思われていたのかしら。
緊張した体が一気に緩む。なんだかちょっと期待はずれ。
そんなふうに思った時、私の頰にくっつけていた彼の頰が滑り、
あっという間に唇は奪われてしまった。

急な展開に頭がついて行かない。
逃げようにも、後頭部を大きな手のひらで支えられていて身動きできない。
あれ?キスしてる?してるの?
あーあ、しちゃったよ、どうするの?
あーあ、ついにしちゃった。
などと妙に客観的に思考する。
しちゃったなら、もう悩んでも仕方ない!
楽しんじゃえ!と開き直り、彼の腕の中で身を任せてみた。
それを察知した彼は理性を飛ばし…
ファーストキスはものの1〜2分でとりとめのない何十回ものキスとなってしまったのだった。


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2018年8月の日記再掲

私のブログ 夢で逢えたら… に同じ記事があります


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