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古くて新しいプラットフォーム問題

好きな音楽の、琴線に触れるポイントがよく似ていて、でも普段聴いている音楽にはそれなりに開きがある、という友人がいます。

彼はカナダ人で、カナダに住んでいます。
十数年前に彼が留学で京都に来ていた時に知り合い、カナダに戻ってから十年以上経ちますが、SNSのコメント欄やDMでたまにやりとりしたり、毎年クリスマスカードと年賀状の交換をしたりという交流が続いています。
昨年の夏、彼が家族とともに5年ぶりに京都に訪れるというので、会って酒を飲み交わしました。
彼の日本語は今や断片的だし、僕の英語力も中3レベルなのですが、共有するポップカルチャーを話題にする限りにおいて、言語の不自由さはさほど問題になりません。
彼は日本人女性と結婚してバイリンガルの息子がいるので、月20ドルくらいで日本のテレビチャンネルが見られるサービスに加入しているらしく、数年前に息子が見ていた平成仮面ライダーの面白さに衝撃を受けて、最近は熱心に観ているという話になり、意外なところで共通の趣味が増えたと喜びあいました。曰く、アメコミヒーローはリブートはすれど何十年も姿かたちを変えないのに、たった一年でデザインもコンセプトも完全にゼロからやり直すということを続けてる日本のヒーロー番組は完全にクレイジーだ、と。なるほど。

そんな話でひとしきり盛り上がった後、最近どんな音楽聴いてるの?という話題で、CDは買わなくなったけどサブスクの音楽配信でむしろ音楽聴く量は増えてるよねという話で共感し、「最近はこんなのとか…」とお互いに差し出したスマートフォン。
彼の画面はApple Music、僕の画面はSpotify。
そう、使っているサービスが別々だったのです。

サブスクリプション型の音楽配信サービスを複数併用するようなヘビーなリスナーではないので、Spotify以外のサービスの設計がどうなっているのかは全く存じませんが、ここで彼もSpotifyを使ってるということであったならかなり話は早くて、じゃあお互いのアカウントをフォローし合いましょう。専用のプレイリストを作ってそこでおすすめの音楽を紹介し合いましょう。ということで、以後も気軽に音楽を介してコミュニケーションが取れるのです。…が、悲しいかな彼はApple Musicユーザー。とにかくその場では、おすすめを言い合ってそれぞれ検索して…みたいなやりとりで情報を交換しました。

数ヶ月後、彼から連絡がありました。
「Mixcloudでmy mixを作ったから聴いてみてくれ!で、出来れば君のも聴かせてくれ」と。
MixcloudはDJミックスに特化したイギリス発の音楽共有サービスです。それまで使ったことがなかったのですが、類似のサービスで主に自作音源をアップするSoundcloudとは異なり、既発曲の著作権料をサービス側がまとめて著作権管理団体に支払うことでDJミックスをアップする法的な正当性が担保されているとか。ということで、ミックスを作ってアップしました。
しかし、これがそこそこ骨の折れる作業で、DAWソフトで編集するので、曲のつなぎとかにこだわりだすとキリがなくて、結局彼を2ヶ月待たせてしまいました。
その後も彼の方はせこせこと新しいミックスを作ってはアップしており、僕の方はひとつ作ったきり。
あー、これがSpotifyのプレイリストなら楽ちんだし、もっと頻繁に新しいのを作れるのになぁ…。と、どうしても思ってしまいます。

▲僕が唯一アップしたミックス

Facebook辺りに端を発して「シェア」という言葉が日常的に使われるようになる以前から、多分世の中で一番気軽にシェアされてたのが音楽ソフトだと思うんです。ミックステープやCDの貸し借りで。そういえば彼が日本を離れた当時もミックスCD-Rを交換し合いました。
それが、物理的に音楽ソフトを所有しなくなり、更にはデータとしても手元にストックしないようになると、それが許されたプラットフォームの上でだけシェア可能なものになる。その中では、音声データそのものの受渡しはないので即座に、通信量さえ気にしなければ大量に、体験が得られます。
便利…?あくまでそのプラットフォームの内側では。
実際どのサービスも参加の障壁は低く設計されているので(Spotifyは無料会員も一定の制約付で利用できるフリーミアムモデル)、簡単に壁は越えられるといえば越えられるけど、やっぱり類似の複数のサービスを同時に使うというのは煩わしいし、多分結局どっちかしか使わなくなるだろうし。

なんだか便利になったのか不自由になったのか…
やっぱり異なるプラットフォームのユーザー間の溝は深いなぁ…

などと、このnoteを書き始める時点では思っていました。
そういう主旨の文章を書くつもりでした。

が!

不精な性格なので、Mixcloud用の音声データを編集することの面倒臭さが先に来て、「プラットフォーム一個にまとまれば楽なのに」と暗黒面に落ちかけていた私。
でもよくよく考えてみると、一方にMixcloudみたいなウェブサービスがあるってめちゃくちゃ恵まれた環境じゃないか!
データを作ってアップする環境さえあれば、どこに転がってる音楽もプレイリストに入れられるんだから!

結論!
MixcloudはApple MusicやSpotifyのような帝国の外にあるアジールだ!!
(って、お世話になってるサービスに対して「帝国」呼ばわりとは失礼な話ですが)

数少ないプラットフォーマーが覇権を握る状況を憂慮してGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)なんて言葉も最近は目にするようになりましたが、音楽配信サービスに関してはそういう状況にはなく、件のApple MusicとSpotifyの他にも、Google Play Music, AWA, LINE MUSICなど、複数のサービスが並んでいる状況で、実はこれはなかなか好ましい状況なんだなと思えてきました。

自分の聴取履歴から最適化されたSpotifyのトップ画面は、所謂ひとつのフィルターバブルですが、Spotifyというサービスだけを使っているという状況そのものももうひとつ外側のフィルターバブルなのであって、人によって使っているサービスがまちまちという今の状況は、そのことをちゃんと気付かせてくれる契機を与えてくれます。
そして、配信データ化も、ましてCD化もされてない音源も手間さえ掛ければプレイリストに入れられるMixcloudは、更にインターネットという巨大なフィルターバブルの存在を気付かせてくれます。(←ここまでくると言葉の誤用)

ここまで書いていて思ったのは、こんな話は昔からあったなぁということ。
例えばPCエンジンしか持っていない僕が、自分の持っているPCエンジンHuCARDを持って友達の家に行ったところでスーファミにHuCARDは差せないよねっていう話です。いくらそのソフトがスーファミ版と全く同じ内容のストⅡでも。
なまじ互換性がありそうなものがままならないからストレスに感じるだけで、PCエンジンでもバーチャルボーイでもワンダースワンでもドリームキャストでも、持ってるソフトをそこに持って来れば全部一緒に遊べる場所だと思えば、やっぱりパラダイスじゃないですかMixcloud!!

最後に、彼の最新のミックスを載せておきます。

どうもありがとうございます。 また寄ってってください。 ごきげんよう。