ECB包括的な追加金融緩和策の導入と米中貿易戦争の緊張緩和期待

米国株式市場は上昇し、S&P総合500 種は過去最高値に迫る水準で取引を終えた。
米中通商問題で進展が見られたことに加え、 欧州中央銀行(ECB)が緩和継続を確約したことが押し上げ要因となった。

ECB包括的な追加金融緩和策の導入を決定

欧州中央銀行(ECB)は12日の理事会で、利下げや量的緩和(QE)の再開など包括的な追加金融緩和策の導入を決定した。
ユーロ圏成長の下支えや物価の押し上げに向けあらゆる措置を講じる決意を示した。

市中銀行が余剰資金をECBに預け入れる際の適用金利である預金金利を現行のマイナス0.4%からマイナス0.5%に引き下げる。
また利下げに伴い金利階層化を導入し、マイナス金利の深掘りが銀行に及ぼす影響を軽減する。
さらに11月から月額200億ユーロの債券買い入れを行うほか、銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の条件を緩和する。
ECBは声明で、債券買い入れについて「金利政策の緩和効果が発揮されるよう、利上げを開始するまで必要なだけ継続する」と表明。
その上で「インフレ期待が2%弱の水準まで確実に近づくまで金利は現在の水準以下にとどまる見通し」と述べた。
ドラギ総裁は理事会後の会見で「前回の理事会以降に入手した情報によると、ユーロ圏経済の脆弱性は一段と長期化しているほか、顕著な下振れリスクの継続や物価圧力の抑制がうかがえる」と指摘。さらに「このペースでの債券買い入れなら上限引き上げを議論する必要もなく、かなりの長期間継続する余地がある」と認めた。
その上で「すべての手段を検討し、実施する用意があると私が述べてきたことを覚えているだろう。ECBは今日それを実行した」と述べた。
ECBが同日公表した最新のスタッフ予想によると、2019、20年の成長率見通しはともに下方修正された。今年は1.1%、来年は1.2%と予想され、ECBによる追加行動の必要性を示した。19─21各年のインフレ見通しもすべて引き下げられた。

ドラギ総裁は、英国の「合意なき」欧州連合(EU)離脱や米中貿易摩擦激化の可能性はスタッフ予想に勘案されていないとした。
こうした不透明要因が存在する中、ECBの一連の措置がユーロ圏経済支援でどの程度効果を発揮するかは不明だ。
関係筋によると、債券買い入れ再開を巡ってはワイトマン独連銀総裁、ビルロワドガロー仏中銀総裁、クーレECB専務理事の3人が反対し、ECB内でも効果に対する疑念が出ていることが浮き彫りになった。
ドラギ総裁も会見でこれまでに増して財政刺激策の重要性を訴えた。「財政政策が主導する時期に来ている」とし、「財政政策が主要な手段になる必要があると見解が一致した」と述べた。

TSロンバードのマネジングディレクター、シュウェタ・シングー氏は「マイナス金利の深掘りは貯蓄率を押し上げる可能性があり、こうした政策が裏目に出ることが主要なリスク」と指摘。「現時点ではユーロの下落余地もインフレ期待上昇余地も限られている恐れがある」と述べた。
ECBは昨年12月、金融危機以降続けてきた2兆6000億ユーロに及ぶ資産購入プログラムを終了したばかり。ただ、同プログラムの刺激効果は限定的なものにとどまった。
ベレンベルクのアナリスト、ホルガー・シュミーディング氏は「ECBがもっと積極的に金融緩和を行ったところで何かが大きく変わるとは思えない」と指摘。「米中貿易戦争や英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)といった外部ショックが域内経済の回復を阻害し、不確実性がこれほど根強い中では、いくら家計や企業の借り入れコストが低下しても個人消費や企業投資が大幅に持ち直すとは考えにくい」と述べた。
また、債券買い入れ策を「利上げを開始するまで必要なだけ継続する」とする方針は、近く就任するクリスティーヌ・ラガルド次期ECB総裁の任期の大半を通じ、債券買い入れが継続する可能性を示唆している。
INGのエコノミスト、カースティン・ブルゼスキ氏はこの日のECBの決定について、「ドラギ氏の遺産を将来のECBの政策決定に祭ったことになる」と指摘した。
ドラギ総裁は来月に8年の任期満了を迎える。

ECBが予想を上回る大型刺激策に動いたことで、政策決定を来週に控える米連邦準備理事会(FRB)や日銀への緩和圧力が高まる可能性がある。
トランプ米大統領はECBの動きに反発。ツイッターへの投稿で「ECBは非常に強いドルに対するユーロの価値を引き下げることに尽力そして成功し、米国の輸出に打撃を与える。FRBは手をこまねいているだけだ。FRBが金を貸りて報酬を得る一方、われわれは金利を払っている!」と述べた。

中国は追加関税除外、米国は追加関税延期

トランプ米大統領は11日、ホワイトハウスで記者団に対し、中国が一部の米国製品を追加関税対象から除外すると発表したことについて「大きな動き」であり、米中通商協議を前にした「良いしぐさ」として歓迎する意向を示した。

トランプ氏はその後、米政府が10月1日に予定していた一部中国製品への関税引き上げを10月15日に延期したと、ツイッターで明らかにした。
両国は貿易摩擦解消に向け、9月半ばにワシントンで次官級協議を行い、10月に閣僚級協議を行う予定だが、日時は公表されていない。

トランプ氏はイベントの席で「中国がいくつかの動きを見せた。それはとても良いものだった」とした上で「大きな動き」だと評価。「私は中国と取引しているし、彼らのことを知ってる。私は彼らのことが好きだ。われわれは何かやれると希望している」と語り、合意実現に期待を込めた。

中国財政省は11日、米国からの輸入品に対する追加報復関税について、16品目を免除の対象とすると発表。これには乳清(ホエイ)やフィッシュミールなどの飼料や一部の抗がん剤、潤滑油などが含まれる。免除は9月17日から来年9月16日までの1年間適用される。
トランプ氏は11日、米政府が2500億ドル相当の中国製品に対する関税の引き上げ時期を10月1日から10月15日に延期することで合意したとツイート。延期は「友好の意思表示」とした。
トランプ氏は延期について、中国の劉鶴副首相の要請に基づくものだとし、中国が建国70周年を迎えることも理由に挙げた。

対象の中国製品への関税は25%から30%に引き上げられる予定だった。
双方の譲歩で、通商協議の前に緊張が和らぐ可能性はある。だが、専門家の間で米中の早期合意に懐疑的な見方は根強い。

総括

ECBの予想を上回る金融緩和を受け、FRBと日銀がどのような反応を見せるか注目だ。

日銀に関しては打てる手が限定的であるため、ドル円が9/13の6時時点で108円に達している現状では追加緩和は発動しないと予想する。

米中貿易もポジティブな動きになってきているが、ポジティブ→ネガティブを繰り返してきているので予断を許さない。

引き続き、9月はFRBと日銀の政策会合に注目だ。

出展

ロイター 9/13 米国株式市場=上昇、米中進展とECB緩和が押し上げ

ロイター 9/13 ECBがQE再開、マイナス金利0.5%に深掘り 金利階層化も

ロイター 9/13 米中、通商協議を前に譲歩 中国は追加関税を一部免除・米は延期