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【日本酒】メ酒core上半期ベスト【2023】

23年の1月から6月末までに飲んだ、172本(日本酒・焼酎・ワイン・ビール含む)から、特によかった日本酒について書きました。是非。


1.産土 穂増 五農醸(花の香酒造・熊本)

産土としては3期目の22BY。
今季''産土ブランド''は一つ極まったとも言えるかもしれない。天下の肥後米の復活、無肥料・無施肥・菊池川流域のテロワール、筆舌に尽くしがたい確固たる信念と哲学。しかし、そういったこだわりはあくまで付け合わせ。どこまで行っても主役は味わいだ。
生酛由来である酸の香りが穏やかに起こり、若いメロンなどのウリっぽいニュアンス。きめ細やかな泡が清冽に舌を刺激する。
13度原酒の軽快かつ濃醇な味わい。厚みのある果実味。若干とろりとしたテクスチャーも感じる。
そして特筆すべきは''苦味''だろう。味わいを纏うように一貫して存在する苦味は、喉を通る時に一層際立つ。それが心地いい。
産土は‘’苦味''がキーワードだというのは去年の造りから特に感じていたことだが、今回はそれが極まっている。

2.旭興 ROSSO (渡邊酒造・栃木)

生酛仕込み・9割9分磨き・赤米・樫樽熟成という、ものすごいスペックの作品。
貴醸酒''千''や醴酛七年熟成など、実験的なスペックとそれに劣らない完成度が魅力の旭興・渡邊酒造だが、今作が最たるものであろう。
褐色がかった赤色の外観に、とろりとしたテクスチャー。樽由来の木香と直接的なバラの香り。
いざ口に含むと、丸い舌触りに野菜や柿を連想させる甘み。感じるのは圧倒的な上品さ。時間を経るごとにそれ増すばかりであった。日本酒度は-30ながら、上にのぼる酸味がその高さを感じさせない。
上燗(45°)~熱燗(50°)までは余裕で耐えるタフな酒質であり、温度を上げると
固さが解け、テクスチャーはとろみを増し香りは開く。マスカット・ベーリーAやピノで作られたロゼワインのようなチャーミングな酸ではなく、上品で色気を感じる濃醇な香りと酸味だ。この作品のキーワードは''色気''だと思う。酸いも甘いも噛み分ける、成熟した大人の雰囲気。こちらの人間性・酒への愛が試されるほどの、強度の高い一本だ。

3.プラタナス 貴醸酒 にごり生(笑四季酒造・滋賀)

自社での酒米栽培や、酵母や酒母の実験。甘口吟醸という独自の進化と独創性を追求する、笑四季酒造。今作プラタナスが私の初の笑四季であり、そして忘れることのできない一本である。貴醸酒そしてにごり酒は、通常の日本酒に比べ味わい・香りの幅が広い。より多様な世界観を魅せる。個人的にそれを確信したのが今作だ。
微かなガス感と柔らかく丸い口当たり。蜂蜜を彷彿とさせるとろりとして深い甘みに、レモンの清冽で心地よい酸味。甘口白ワイン・貴腐ワインを浮かばせ、チーズや白身魚のマリネなどとの相性の良さを容易に想像させる。
そして日本酒という芯からは外れていない。米の旨みや吟醸香は確かに感じられ、これは日本酒である、という思考に戻してくれる。それほどまでに日本酒離れした酒質だ。まさにプラタナスという名に相応しい作品である。


4.あべ 純米吟醸 楽風舞 生(阿部酒造・新潟)

'15年から始まった''あべシリーズ''。純米原酒を基調とし、磨き・米違いでリリースされる。阿部の名声は至る所で聞いていたが福岡の特約店が1店舗、しかも遠方にあるということで手に入れるのには苦心した。'14年に新たな新潟県産米として誕生し、五百万石の血を引く楽風舞。農研機構HPによると味わいは淡麗。口当たりのソフトな軽快で華やかな酒質とのこと。
酒屋で前ロットのものを買わせて頂いたからか、開栓直後は無臭に近い穏やかな香り。微かなガス感と、水のようにサラサラとすっきりとした酒質。特筆すべき点が何もない、主張の少ない味わいであった。
しかし、真の飲み頃は2日目であった。フルーティーで華やかな香りは開き、米の旨みと果実味が厚みを生み出していた。生酒ながら2日目に化けるとは恐ろしいお酒だが、あべの芯を味わうに至った。米の旨みと甘味のバランスは素晴らしく、透明感のある後味は若波(若波酒造・福岡)を彷彿とさせる。食事との相性はもちろん、単体でのポテンシャルもある。驚くべきは、4日目になると酒質は濃醇さを獲得し、ガス感を変わらずに保ち続けていたことである。余韻の長さも増し、リッチになっている。これが東北のお酒の強靭さかと、膝を打った。他の酒米・シリーズも気になる酒造である。

5.肥前蔵心 純米大吟醸 権右衛門(矢野酒造・佐賀)

矢野酒造公式HPより

九州の銘酒所佐賀県で、肥前蔵心を醸す矢野酒造。
米の旨みと鋭い酸味、古き良き日本酒の味わいを守り抜く酒造だ。''肥前蔵心 特別純米 超辛口''や''生酛純米''など、晩酌にぴったりの味わいとコストパフォーマンスを誇る。そして、矢野酒造の三代目 蔵の礎を築いた矢野権右衛門氏の名を冠した今作。
純米大吟醸酒など滅多に飲まない私だが、これには感動した。
穏やかに香る吟醸香。ウリのニュアンスの味わいに、米の旨みと苦味。それは上方向の軽快な酸味と、染み入る旨みとそれを締める苦味が渾然一体となっている。''産土 穂増 五農醸''にも通ずる味わいだ。余韻は力強く長く続き、食事に寄り添う。連綿と鹿島の地で紡がれる歴史の長さを、技術を感じる。38%の高精米ながら''綺麗すぎない''、まさに気取っていない純米大吟醸酒だ。
化粧箱の桐箱は今でも大事にとってある。また飲みたい、と思わせる一本だ。









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