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メ酒'23所感 #3(阿部酒造の話)

-阿部酒造(新潟県柏崎市)



・あべ 楽風舞 純米吟醸 生(22BY)

阿部酒造との出会いは、福岡唯一の特約店、糸島の川久保酒店であった。
あべシリーズからスターシリーズ、圃場別まで取り揃えてあったが、定番の純米吟醸それも蔵のある地元のお米が良いと手に取ったのが今作である。
味わいについての前情報を一切絶った状態での、開栓直後の印象は、ひどく個性のないお酒だというもので、生の若干のガスとうすにごり、香りは穏やかを通り越してほぼない状態であった。味わいに関しても同様で、旨味も甘味も乏しく、すっきりとした後味があるだけであった。
開栓して2日目、まさに花のように味は開いた。生の状態で、これほどまでに閉じていたことにも驚きだが、その変わりようには目を見張った。
香りは薄い膜が広がるように華やぎ、それでいて上品。旨みと甘みは厚みが増し、余韻も長くリッチな感じを受ける。4日経っても衰えるどころか、濃醇さは増し、ガスも程よく存在した。大化けである。あべはその見た目のカジュアルさから、味わいも飲む時の心持ちも軽く考えられるが、その実ゆっくりゆっくり楽しめる、タフで素晴らしい酒だったのだ。


・圃場別シリーズ 上輪新田(22BY)

上輪新田とREGULUS

楽風舞の衝撃から半年後の10月。友人が川久保酒店を訪ねるというので、1も2もなく買ってきてもらった上輪新田とREGULUS。
楽風舞も飲んでから常々頭の隅にあったあべだが、ついに圃場別と★シリーズを飲む機会を得た。上輪新田は海に程近いエリア。ワイン同様、潮風に晒されそこから生まれるミネラル感があるのだろうと期待していた。
香りは穏やかでかすかに香る程度。そよ風のような奥ゆかしさである。ガスを少し含んだ酒質は奥にりんご様の香りと、期待通りのボリューム感を孕んだミネラル。そして後味にはかすかな苦味。楽風舞同様、開栓2日以降の変化を予感させる味わいであった。
2日目、予感は当たりりんご様の香りは強さと厚みを増し、蜜のような濃醇なニュアンスも出てきた。そして変わることのない芯の強さは頑健でいて優しく、少し解けたミネラル感も心地よい。これは酒造期が変わる前に他のも飲まなければ、と思ううちにもう新酒の時期である。

・★シリーズ REGULUS(21BY)

上輪新田とREGULUS

阿部酒造のチャレンジライン★(スター)シリーズ。しし座の一等星・REGULUS(レグルス)の名を冠した作品。
リンゴ酸高生産酵母(恐らく)を使用した乳酸甘酸っぱい系の作品ではあるが、そこにも阿部らしさは発揮されている。
度数は12%を低く、甘酸っぱくチャーミングな酸味。ギュッとなるピュアな甘みだ。甘いと酸っぱいの二軸ではなく一つの塊として作用している。以前飲んだ若波のFY2や三井の寿のチカーラなどには、微かな青臭さやえぐみなどが感じられたが、REGULUSは非常に綺麗でまとまっている。そして低アルにも関わらず、芯は依然とあり、2日目も期待できる酒質であった。
2日目にはもろみの感じが増し、酸味も棘を見せてきた。しかし全体としてはポジティブな変化であり、まとまっていた味わいが瓦解し、本当の味わいを見せてきたようだ。軽やかながら熟成耐性があるような味わいは大変好みであった。

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