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メ酒'23所感 #ベスト酒

今年、特にしびれたお酒たち 順不同
BYは西暦




日本酒

・プラタナス 貴醸酒にごり生(22BY)
-笑四季酒造(滋賀県甲賀市)

2023.2.07

一回きりの劇場シリーズや、メッセージ性の強いネーミングでお馴染みの''笑四季酒造''。何か面白い酒を探しているとき、ファーファにておすすめされたのが''プラタナス''である。
口当たりの柔らかさととろみ、心地よいテクスチャ。そして味わいは、およそ日本酒とはかけ離れた構成要素であった。蜂蜜を彷彿とさせるしっとりとしたナチュラルで深い甘みに、レモンのような鋭い酸味。チーズとの相性を自然と思い浮かべてしまう。ソーテルヌなどの貴腐ワインと類似する、上品な味わい。2日目以降も変化は楽しく、レモン様の酸味は拡大し、甘みは抑えられる。凝縮されたうま味が顔を出し、余韻は非常に長い。この奇抜な味わいは非常にまとまりがあり、確かな日本酒然とした表情を魅せるのが驚きだ。来年は燗酒にしてまた違った表情を楽しんでみたい。


・あべ 純米吟醸 楽風舞(22BY)
-阿部酒造(新潟県柏崎市)

2023.4.20

今や全国一の気鋭の蔵である''阿部酒造''。阿部の思い出は非常に多く、福岡の特約店が川久保酒店の一店だけというだけでなく、その所在地が糸島市であるということだ(福岡県民なら辛さがわかるはずだ)。
初めて手にしたあべは22年の新酒であった。五百万石の血を引く楽風舞で醸される定番の一本だ。第一印象は本当に水みたいな酒であった。香りは感じ取れないほどに微かで、わずかなガス感とすっきりとした味わい。2日目になるとそれらは開き、味わいは本当の姿を見せる。うま味の厚みは増し、芳醇な甘みと酸味。それだけでも驚きだが、3・4日目と右肩上がりにポテンシャルは発揮され、味わいはより濃淳に、酸味は太く鋭く、長い余韻に甘みを感じる。ここまで豹変する酒があっただろうか。
その後、☆シリーズや圃場別も飲んだが、定番のあべが一番おいしい。


・産土 穂増 五農醸(22BY)
-花の香酒造(熊本県玉名郡和水町)

2023.05.20

産土としては3期目の22BY。
今季''産土ブランド''は一つ極まったとも言えるかもしれない。天下の肥後米の復活、無肥料・無施肥・菊池川流域のテロワール、筆舌に尽くしがたい確固たる信念と哲学。しかし、そういったこだわりはあくまで付け合わせ。どこまで行っても主役は味わいだ。
生酛由来の酸が穏やかに香り、若いメロンなどのウリっぽいニュアンス。
きめ細やかな泡が清冽に舌を刺激する。
13度原酒の軽快かつ濃醇な味わい。厚みのある果実味。若干とろりとしたテクスチャーも感じる。
そして特筆すべきは''苦味''だろう。味わいを纏うように一貫して存在する苦味は、喉を通る時に一層際立つ。すべてのバランスが素晴らしく調和している。タンクやロットごとに味のばらつきはまだまだあるが、如実に美味しくなっている。
23BYは高温障害で米の溶解が悪く、甘みはほとんどなく苦みがかなり出ている。凹凸の少ないフラットな味わいとなっている。これをどう乗り越えるか。年明けには「香子(かばしこ)」のリリースも迫っている。来年も産土から目が離せない。



・旭興 貴醸酒 十五回仕込み 千(20BY)
-渡邊酒造(栃木県大田原市)

2023.10.08

貴醸酒は日本酒離れした驚きを常々みせてくれる。それは「笑四季 プラタナス」や「旭興 貴醸酒 百 にごり生」が教えてくれた。
通常の日本酒とは異なるファクター、余韻、その後の変化。液体としてのクオリティが非常に高く、何より面白い。
「旭興 百」を用い、15回の再仕込みを行った「千」なるものが存在すると知ったのはその後だ。貴醸酒界の王のような存在、行きつけの酒屋に放置された3年前の「千」を手に入れられたのは運が良かった。

タルで寝かせた白ワインのような外観、若干不透明な黄金色
生酛の由来のくさいほどの酸味、熟成のせいもあるかもしれない。
口当たりは柔らかく、舌の上にのっかる感覚。しばらくは落ちて来ず、舌の上で転がすように味わう。だんだんと液体が瓦解し、甘味がとろけるように出てくる。凝縮された糖蜜、濃淳。口に含めば含むほど甘みは増す、無限のように思える。時間が経つと、生酛の酸味や米のうま味、
古く熟成させた枯れたような深みと、カスタード・バニラのニュアンス。米と自らこれほどまでの液体が生まれるとは。技術と時間のすばらしさを知る。これを超える貴醸酒が現れるだろうか。


・白隠正宗 純米 誉富士
-高嶋酒造(静岡県沼津市)

2023.10.21.

白隠正宗との出会いは、イベントに出店していた''ノミヤマ酒販''でのことだった。元々ノミヤマ酒販で行われる、koti breweryのイベントに行く予定だった私は、ノミヤマ酒販が天神に来てるなら行こうと、軽い気持ちで寄ったのだ。ノミヤマ酒販黎明期から今の信頼ある素晴らしい酒屋になるまでの話や、ノミヤマさんの芯の強さなど大変貴重なお話が聞けた。
ラインナップは冷酒から熱燗向けの日本酒とスピリッツ。
そしてなにより目を引いたのは、白隠正宗 速醸純米 誉富士。10月の寒空の下、ひやで飲んだ白隠正宗は身体のすべてにいきわたり、弛緩させた。柔らかさと芯の強さ、やさしさの中に強かさを感じる酒質だ。速醸であったのも非常に良かったと思う。生酛ほどの強さはないが、その分等身大のような印象を受けた。身体に心地よいアルコールが回り、外の空気と皮膚の境が曖昧になる感覚と、それに反して美味しすぎて頭は冴えるばかりであった。
その後生酛や秋上がりなども飲んだが、速醸純米を超えることはない。


クラフトサケ

・LIBROM バナナスムージーサワーサケ(UNITED ARROWS BOTTLE SHOP×浜田屋酒店)
-LIBROM(福岡県福岡市中央区高砂)

2023.08.12.

福岡市の街中醸造所「LIBROM」
トリプルコラボとなるスムージーサワーサケは、もっぱらスムージーサワーばかり飲んでいる私にとって吉報であった。
テクスチャの粘性ではどぶろくに近いのだが、粒感はなく舌触りは非常にマットだ。とろとろの滑らかな飲み口に微かなガス感。バナナの厚みのある甘みが非常に心地よい。とにかくめちゃめちゃに美味しい。甘やかさが先行する味わいに麹と米の香りも駆け抜ける。味わいも素晴らしいが、なによりこのどぶろくと澄み酒の良い所どりをしたようなテクスチャが素晴らしい。再発・続編を待ちたい。


・ぷくぷく醸造の菩提ホップサケ
-ぷくぷく醸造(福島県南相馬市)

2023.11.24

今年一番のクラフトサケブルワリー「ぷくぷく醸造」
日本酒にクラフトビールの態度を持ち込んだスタイルが非常に魅力的である。クラフトビールは何よりもその自由さで人気を博しているが、無限な自由は時に方向性や表現を狭める。ぷくぷく醸造の魅力はその自由さと対をなすように強固に保持される明確な方向性であろう。ファントムブルワリーという造りによって不確定要素が生まれる環境で、リリースする作品ごとにあそこまでの明確な方向性を提示できる酒造は、クラフトサケはおろか日本酒蔵でも中々いないであろう。
菩提酛を得意とする寺田本家との共同醸造のこちらはとんでもない完成度だ。菩提元の濃淳な酸味と、ホップの華やかな香り。酵母無添加由来の荒々しさ・野性味。ナチュラルワインに通ずるネイキッドな味わい。態度や造り、立川氏の人間性など点在する内外の要素が高濃度まとまっている素晴らしい作品だ。白隠正宗や旭興などを飲むとわかることだが、素晴らしい酒は蔵人の人間性すらも感じさせる。



クラフトビール

・寄 Italian Pilsner
-Hobo Beer Store (福岡県福岡市中央区警固)

2023.09.26.

今年は日本酒のほかにクラフトビールに幾度となく挑戦した年であった。
いまだに自分の好みを把握するに至ってはいないが、Hobo Beerの寄は非常に身体になじんだ。北海道出身である川村氏がファントムブルワリーとして展開するHobo Beerのボトルショップが福岡市の食の中心地警固にできたのは23年の8月。デザイン性の自由さにまず惹かれ、幾度となく作品を飲んだのであるが、この「寄」はドンピシャであった。
東京・代々木の角打ちのお店「寄」のオープンに際して作られたこちらは、黄金色に香り高いホップにライトながら芯のあるボディ。とにかく綺麗で上品で時に茶目っ気のあるような好みの仕上がりであった。
ビールをスタイルで選ぶようになったのはここからかもしれない


・ひでじビール Specialty COFFEE LAGER(×ROSA COFFEE)
-宮崎ひでじビール(宮崎県延岡市)

2023.11.08.

九州屈指の実力ブルワリー「ひでじビール」
定番品のクオリティもさることながら、月に一回の蔵出しビールも面白い。
宮崎のロースター&スペシャリティコーヒーショップ ROSA COFFEEとの子ロボレーションビール。コーヒーを題材としたビールは、スタウトなど重ためのものを使いがちだが、こちらはラガービール仕立て。赤みがかった美しい黄金色に、焙煎されたての香ばしく華やかな豆の香り。さすがスペシャリティである。喉越しは軽やかで、わずかに遅れてコーヒーの酸味、コクが押し寄せる。総じてすっきりとした飲み口。素晴らしい完成度だ。コーヒー系のクラフトビールの正解あかもしれない。



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