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ミャンマーとそのまわり、幸せをくれる暮らしのモノとコト_Vol.14_日本・横浜、旅するコンフィチュールのレモンカード

ヤンゴン在住4年目、4歳男子の母のイワサマキコです。

ともすれば、バタバタと過ぎて行ってしまうミャンマー・ヤンゴンでの日常ですが、日々の暮らしに幸せをくれるモノやコトを見つけるのがささやかな楽しみです。手仕事やアンティーク、伝統工芸品が大好き。

旅先で見つけたものを日常で使うのが至上の喜び。そんな日々に幸せをくれるモノやコトをご紹介します。

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ぐりとぐらの大きなカステラ。

ラピュタの目玉焼きパン。

物語のストーリーはうろ覚えでも、その中に出てきた食べ物が、鮮烈に印象に残っている事があります。

あるいは、物語に出てきた物を想像し、それがずっと心に残っている、ということもあります。

"赤毛のアン"で、マシューがアンにプレゼントしたパフスリーブのドレス。リンドのおばさんが、同じ生地でヘアリボンも作ってくれたのよね。茶色のグロリア絹地とはどんなものなのか、ピンタックはどんな風にしてあったのか、わくわくしながら思い浮かべました。

向田邦子の"父の詫び状"で、お母さんが鉛筆を削ってくれる時に使っていた、父のおさがりの銀色の紙切りナイフ。ナイフの姿形や削る様子を想像し、文章を反芻しました。

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素敵な方に、小川洋子さんの「ことり」という本を貸して頂きました。素敵な人が「いちばん好きな本」と言っていたので、とても楽しみにしながらページを開きました。

出てくる全ての言葉が、静かで、丁寧で優しく、もう初めの数ページで、私はノックアウトされてしまったのですが、手元に置いて読み返したくなる本でした。

そして、その中にひときわ印象に残るアイテムがあったのです。

ポーポーの包み紙で作った、レモンイエローのことりのブローチ。

ポーポーの包み紙で作った、レモンイエローのことりのブローチ!

もう、字面と響きだけで可愛らしく、想像するのも楽しくなるブローチです。

ポーポーとは、「ことり」に出てくる棒付きキャンディの事で、その響きもまた可愛らしいのですが、息子がポーポーの包み紙を重ねて作ったブローチをプレゼントされたお母さんが、それをずっと胸元につけていた描写が、とても暖かく心に残っています。

ことりのブローチを作ってくれた息子は、人間が使う言葉ではなく、ことりの言葉しか話せないのですが、その子に向ける母のまなざしが、作ってくれたブローチをずっと胸元につけていた、というエピソードに象徴されているように感じました。

さて、ポーポーの包み紙で作った、レモンイエローのことりのブローチは、想像の世界の中で、私の心に刻まれました。

こういったものは、想像しているのが一番楽しく、実際にそのものを見たら、もしかしたら思っていたのと違っていてがっかりするのかもしれません。

それでも、私もいつか、自分の中のレモンイエローのことりのブローチを体現したものを手に入れて身に付けたいものだ、と妄想していた時、「ことり」のキーワードで、あるものを思い出しました。

それは、横浜・関内の「旅するコンフィチュール」というコンフィチュール屋さんです。

コンフィチュールとはフランス語でジャムのこと。

生産者が見えるこだわりの原材料で、フランスの伝統的な技術を使い手作業で作られる宝石のようなコンフィチュール屋さんのイメージとして、「ことり」が使われているのです。

旅するコンフィチュールでは、旬の果物を使ったコンフィチュールがあって楽しみにしているのですが、その中に、これは!というものを見つけてしまいました。

それは、レモンカード!レモンカードは、イギリス生まれの卵とレモン、砂糖、バターで作るスプレッド…だそうです。そんなおしゃれな食べ物があったんですね。初めて聞きましたよ!

この綺麗な黄色は、レモンの色ではなく卵黄の色なのだそうですが、
レモンカードという食べ物の名前、そして瓶に描かれた小鳥から透ける色は、私の想像の中の「ポーポーの包み紙で作った、レモンイエローのことりのブローチ」にぴったりで、WEBサイトの写真をみつめ、この色のことりのブローチを想像して、幸せな気持ちになっていました。

ミャンマーから日本への一時帰国の時には、絶対に注文して食べてみよう、と心に決め、ジャム作りが好きな実家の母の分も一緒に注文し、レモンカードを手に入れられる日がようやくやってきました。

先にレモンカードを試食した母によると、「これはまずい、これはまずいよ!」との証言。

「美味しすぎて、ひと瓶すぐに食べきってしまいそう!!!食べたことのない味だよ!!たしかにレモンなんだけど、レモンじゃないの!!」

スプーンで一口掬って食べてみると、レモンの爽やかな酸味の後に、まあるい優しい甘さが広がります。

「ことり」に出てきたポーポーも、こんな優しい味だったのかな、と想像しつつ、食べるレモンカードの美味しさ。色の可愛らしさ。多幸感…

ポーポーは薬局に売っている棒キャンディなので、旅するコンフィチュールのレモンカードよりも、もっと単純な味のような気もしますが、物語に出てくる食べ物の味を想像するのは自由です。

「ことり」はの物語は、優しく静かに進んでいきますが、その途中では、不穏な事態となり、不安で、悲しくて、胸が痛くなりました。

それは、物語の中だけでなく、現実の世界で、異質な人を邪悪なものと決めつけたり、見ないようにしていたことが自分にはなかったか、それがその人に悲しみをもたらす事になったことがないと言えるか…と、物語を読み進めながら、自問自答して苦しくなったのです。

そんな私の小さな胸の痛みを受け止めてくれるかのように、物語の最後には大きな静かなカタルシスが訪れます。

初めはほんの少し酸っぱくて、最後は優しくふわっと甘いレモンカードのような物語を読みながら、小さな瓶の美味しいレモンカードはすぐになくなってしまいました。

煩悩にまみれた私は、次はレモンイエローのことりのブローチに出会えますように、と祈りながら本のページを閉じるのです。

2014年〜ミャンマー在住。IT企業を現地でやっている夫、現地のローカル幼稚園に通う3歳の息子と一緒に、日々アレコレドタバタやってます。サポート頂いたら、新しいモノコト探しに使わせて頂きたいです!