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シャープ人よ、復活せよ・情報小料理屋 2016/06/17


「シャープ崩壊--名門企業を壊したのは誰か」(日本経済新聞社)を読んでいたら、シャープの下請けいじめがものすごくて、値引きはもとより強圧的に怒鳴られたりしていて、シャープが崩壊して「ざまあみろ」という声が多いということが書かれていた。苦笑してしまった。

 僕らが付き合ってきたシャープの担当者は、とても面白い人たちで、ケチはケチだが、怒鳴られたりはしなかった。それは、コンテンツや企画の領域だからだろう。製造部門は、コストの削減が会社の至上命題だから、下請けに相当キツイあたり方をしていたのだろう。僕が聞いた話では、あるシャープの下請けの部品メーカーが、頑張って上場することになった。そのことをシャープの役員に報告しに行ったら「何? 上場? おまえんとこはそんなに儲かってるのか。値引きだ」と言われた、と(笑)。

 とくにバブル崩壊以後、日本の多くの大企業は金融系コンサル会社を入れてきた。彼らの手口はどの業界でも同じだ。「支出を減らして売上を伸ばせば利益が最大化する」。笑ってしまうが、こんな単純な方程式だけで、どこの企業にも乗り込んでいったのだ。外注コストと内部人件費を削減して、製造ラインに投資する。M&Aで、組織の規模を大きくし更に「集中と選択」で、企業の方向性を絞る。

 新規事業も3年で黒字化しなければ撤退する。そうやって、企業の未来への種子をつぶしていった。ベネッセでも、一時、未来のために新規事業をたくさん仕込んだが、外部から来た経営者に、3年ルールを持ち込まれ、潰されてしまった。しかし、ベネッセの本業である進研ゼミだって、軌道に乗るのに10年以上かかっているのだ。

 どんな大企業だって、最初は小さな企業だった。そこでの長い努力の末にコアになる商品やサービスを開発し、それを拡大してきたのだ。にもかかわらず、大きくなってから入社したサラリーマンには、ゼロからモノを創る感覚が分からない。企業活動というのは、数学のパズルの組み合わせではないのだ。子ども産み育てるような、親の感覚がなければ時代の商品など作れっこない。

 金融系コンサル会社が入る前は、企業にとって外部のコンサル会社といえば、商品開発のマーケティグ会社であった。僕もその仕事をしていたが、ユーザーの意識調査を行い、ユーザーの心のひだを探るようなアナログな調査であった。企業の商品開発の部隊と一緒に議論を重ねたのである。それは、ABテストのような、単純なデータ処理では決してなかった。そうしたやり方で、日本の企業は、独創的で時代感覚にあった新商品を開発してきた。もちろん失敗も多くあっただろう。しかし、その失敗も、無駄な失敗ではなく、その中から次の次の時代の商品の予感を感じさせるものであった。

 2000年ぐらいに、電通からマーケティング局が消えた。新しい商品を生み出すよりも、商品をより効率的に流通し、利益幅を拡大していくことに企業体制が変換したため、クリエイティブな商品開発が企業の中心活動ではなくなったのだ。

 金融系コンサル会社は、ブラックバスのように、日本的な湖沼に生息していた、ユニークな商品開発人材を駆逐した。ただ量を求め、ただ利益を求めるだけの、心のないモンスターになっていった。

 シャープは、「目のつけどころがシャープ」というキャッチフレーズが納得出来るように、シャープペンシルを発明した、早川徳次さんの創業の心が伝えられている企業だった。商品開発の現場の人たちは、ユニークで仕事の出来る人たちが多かった。シャープには、不思議なルールがあって、ある部署でヒット商品を開発すると、その担当者は別の部署に移動させられるらしい。それは、一度ヒットを出した担当者が同じ部署で新しいヒットを出す確率よりも、他の部署で、新しいヒットを出す確率の方が高いからだそうだ。こういう企業風土が、本来のシャープの持ち味ではなかっただろうか。

 シャープは、ザウルスという電子手帳の元祖を創りだした。本来であれば、これが世界標準のタブレットに進化してもおかしくなかったのだ。家電メーカーは、どこでもそうだが、企業が大きくなった時、エンドユーザー向けの個別商品開発よりも、他のメーカーに部品を供給するB2Bビジネスへシフトした。これも金融系コンサルのアドバイスであろう。そちらの方が規模が拡大するし、アナログな人気商売のような商品開発よりも、管理がしやすいからだ。

 古い街で、地元に人気の洋食屋をやっているより、再開発して高層ビルにして、家賃収入を得た方が確実に儲かりますよ、という口説き文句だろう。顧客との信頼関係で儲けさせてもらって大きくなったのに、儲けたのは自分の実力とばかり勘違いして、大家になりたがる。何もしないで、税金を徴収するような、権力者になりたがるのだ。

 シャープが、ザウルスの延長線上に投入してきた「ガラパゴス」というネーミングは、多くの人の嘲笑を浴びたが、僕には、何か物悲しさと、シャープの商品開発者たちの悲痛な叫びが聞こえた。シャープは、シャープペンシル以来、ガラバゴス商品を開発し、それを世界に認めさせてきたのだ。世界の方法を日本に持ち込むブラックバス産業ではないのだ、と。

 あと5年、あと5年のうちが、日本にとって最大の踏ん張りどころだと思う。世界商品につながるガラパゴス商品を、再び開発出来るかどうかだ。噂によると、シャープの研究開発部には、まだ表に出ていない可能性に満ちたアイデアが埋もれていると。狙われたのは、そこの部分かも知れない。リストラされたシャープの人たちから、復活の炎が上がるのを待つ。

 

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シャープ人よ、復活せよ・情報小料理屋 2016/06/17

橘川幸夫

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橘川幸夫

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