岩谷宏のnoteマガジン開設について。

 ロッキング・オンの創刊は、僕が22歳の大学生の時である。渋谷と出会った時は彼はまだ10代の浪人生だった。岩谷宏は8歳ぐらい上のサラリーマンだった。

 新宿の喫茶店ではじめて会った岩谷宏は、白い半ズボンで丸い眼鏡をかけていて、なにやらボソボソと話していた。渋谷も僕も松村も、20歳そこそこのガキであり、賑やかに話すタイプなので、岩谷さんだけ、メンバーの中では大人な感じがした。

 岩谷さんが新宿の坂町の方のアパートに住んでいて、僕も四谷に住んでいたから歩いていける場所にあり、交流がはじまった。いろんなエピソードを覚えている。

 僕は日暮里の写植屋さんに弟子入りをして、写植を覚え、「たちばな写植」を東中野で開業した。ロッキング・オンの編集部も兼ねることになる。

 編集者なんかいないから、メンバーの書いた原稿は、最初に僕のところに集まる。それを写植でタイプする。だから、岩谷宏の原稿を最初に読んだ読者は僕ということになる。

 20代の僕は、岩谷宏と真崎・守という否定と肯定の両極端の人の間で生きていたような気がする。岩谷宏には、ナイフのような否定の意思と、関係性の視座という概念を教えてもらった。それは、僕の方向性に大きく関わる出会いであった。実際に付き合ったのは、20代の10年間だけだが。

 岩谷さんは、他のメンバーが原稿を書くのに苦労しているのを横目に、ものすごいスピードで原稿を書いてきた。ほとんど推敲なしで、完璧な文章ばかりであった。写植を打ちながら、「なるほど」「そういうことか」と発見の喜びを感じていた。

 あれから40年。松村雄策が亡くなり、岩谷さんが作詞プロデュースをし、松村が歌ったイターナウのアルバムが復刻された。復刻版に書かれた岩谷さんのライナーは、懐かしいソリッドなナイフのようなフレーズがありながら、どこか、大きなゆりかごのような温和なところも感じさせた。僕の知らない岩谷宏である。

 1980年前後に岩谷さんがロッキング・オン掲載用に書いた原稿で、掲載しきれなかった原稿の袋が、僕の事務所に残っていた。今、読んでも、みずみずしい、あの文章だ。これを公開したいと、岩谷さんに連絡した。

 岩谷さんの了解を得て、こちらのマガジンで、すこしずつ公開することにした。未発表のテキストもあるし、過去にロッキング・オンや単行本で発表した文章も、掲載したいと思う。

 岩谷さんには、また怒られるかも知れないが、「写植屋時代の橘川」に戻って、岩谷さんの文章をテキスト化していく。

岩谷宏xor(月額1000円)


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