私は現在69歳。19歳の頃、こんなに長く生きるとは思わなかったので、なんか得した気分（笑）

　10代の時、とりあえず30歳までは懸命に生きようと思った。逆に、30歳以後はないと思っていた。若者だったその頃、30歳以上は、大人であり、信じるに価しないものだと思っていた。しかし、自分が30歳になれば、その時の若者たちが、同じように、自分のことを「信用出来ない大人」として見られるものだと覚悟していた。若者は、大人を乗り越え、また新しい若者が次の大人を乗り越えていくものだと思っていた。

　30歳を過ぎたら、アフリカの砂漠に向かったランボーのようになるのだ、と漠然と思っていた。

　そして、20代でロッキング・オンとポンプという、僕が10代の時にイメージした参加型社会の方向性をメディアの上で実現し、30歳になった。ところが僕の思惑とは違い、若い連中が僕を否定して乗り越えようとするのではなく、「尊敬します」とか言われてしまったのだ。おいおい、それは違うだろう。僕は、ロッキング・オンを31歳で引退するのだけど、最後の原稿は、遠くから僕を慕ってくれる若い読者に対する絶縁状であった。おまえなんか嫌いだ、と。そして、一緒に次のステージに向かってくれる少数の若者たちと、砂漠に向かった。

　30歳まで生きてしまった僕は、その先の目標を50歳に置いた。50歳になるまで、世の中に押し売りをしようと思った。それは、僕の人生のテーマである参加型社会の意味を、あらゆるカタチで追求し、社会に押し付けていこうと思ったのである。インターネットは、残念ながら、参加型メディアではなく、参加させられるメディアである。しかし、インターネットは参加型社会のインフラとしては使えるので、これを使って、小さなコミュニティと関係性をたくさん作ってきた。

　そして、50歳になったら、押し売りはやめよう、と思った。こちらから売りに行くのではなく、ひとつのところにとどまり、来てくれた人にサービスする仕事をしようと思った。31歳の時に漠然としたイメージは、焼き鳥屋の親父である。焼き鳥屋を開業し、食べにきてくれた客に、それまでの人生のノウハウをすべて提供するというイメージ。焼き鳥屋の親父が、僕の理想の隠居生活。

　そして、50歳になった時、僕は生前葬を開いた。自分はもう新しいことは発見できないから、若い連中に全てを伝えておく。それで、僕は終わりだ、という意味のもので、数回かかったが、集まってくれた人に伝えた。久米くんや岩崎くんが来てくれた。

　ところが50歳で、終わったはずの人生が、そこから、再び、ものすごい勢いで展開することになるのだ。久米くんには「橘川さん、終わったと言ったではないですか」と言われた（笑）。これが何なのか、なんでこんなに動きまわるのか、自分でも分からなかったが、69歳になってようやく分かった。

　自分が19歳の頃、人生50年というのは、自分にとっても社会にとっても当たり前のことだったのである。50歳以上は、余生であり、そういう視点で僕は、漠然した人生設計をしたのである。しかし、その間に、急激な技術開発と社会発展があり、すでに人生100歳時代になっている。

　50年前の人生設計に対応しないのだ。それを50歳の僕は体感的に時代の新しいフレームを感じ、再構築していった。

　50歳が第二の人生のスタートだとしたら、今は19歳である。2019年は、僕にとって、第二の1969年である。いやあ、暴れるぞ（笑）。そういえば、自分が19歳の頃、ものすごい勢いであちこちに出没して、いろんな人と出会っていた。

　こないだの自分史フェスで、人生は起承転結で出来てるという話をした。10代で起こして、20代で承る、30代で展開して、40代で結び、次につなげる。

　そして、この「結」を、これまでの人類史だったら、次の世代につなげるものだった思うが、どうやら人生100年時代においては、50歳からはじまる「第二の人生の自分」につなげるものなのかもしれない。それを意識しないと人生50歳時代のフレームのままで、どこにもない、どこへも向かわない空白の時間を生きなければならない。

　僕は69歳。それが人生でもっとも美しいときだなんて誰にも言わせない。