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「はあちゅうが岸勇希を刺した問題について、いくつかの雑感から、電通とは何か論」から更に相撲協会の話になり、日本型業界形成論へ進む。


1.承前

はあちゅうが岸勇希を刺した問題について、いくつかの雑感から、電通とは何か論。

(1)の論考で、マスメディアを動かす人間の数を書いた。テレビの世界で活躍しているタレントは、300人ぐらい、テレビCMを作っているCMディレクターは200人ぐらい、と言われている。テレビCMは、電通が受託する場合が多いので、電通のクリエティブ室の人間は、それだけ場数を踏むことになり、若いうちから鍛えれれば、大半は職人的なCMディレクターに達する。

 テレビタレントが300人前後で、新しく人気が出てくるタレントと、消えていくタレントが同程度いて、常に、同一数を保っている。これには、電通の思惑もある。同じタレントを日常的に茶の間に流すことにより、知名度を高めておくことによって、CMタレントとして効果的に使えるのである。いくら才能や輝きがあっても、見慣れないタレントではクライアントを納得させられない。テレビで同一のタレントを登場させることにより、一般人にも、クライアントにも、タレントの知名度を高めておいて、高額なギャラを設定する。

 テレビ局も、タレント(芸能事務所)も、広告代理店も、お互いのメリットを理解しつつ、共存共栄の世界を生きる。これが業界というものであり、業界の掟を守らないものは、すべてから放逐される。

2.大相撲協会の構図と関取の数

 大相撲は、古からある伝統的なスポーツである。近代スポーツとは違うのだと思うが、今は、近代スポーツ的な観点から縛られていることが多いと思う。日本という国は、もともと、地域の共同体の合衆国で、「オラがクニ」と言えば、生まれ育った故郷のことを指していた。江戸時代においても、徳川幕府も、江戸を中心とした領主の一人であり、日本各地にさまざまな国があり、言葉は違えば、風習も違う。そのうちの一番大きくて頂点にいたのが徳川幕府である。いわば、東の正横綱みたいなものだろう。だから、欧米が黒船で威嚇した時に、徳川幕府の命ではなく、勝手に大砲をぶっぱなした国もあり、このままでは、日本は西欧にやられてしまうというので、各地の国を統合して、一つの近代国家として欧米の対抗しようとしたのが明治維新である。(これは、故・林雄二郎に学んだことである)

 相撲は、明治以前からあったから、その時代の空気を残している。日本各地の国(地域)の代表として、力士が江戸に送り込まれ、故郷の声援を受けて土俵に上る。高校野球も、故郷の学校を応援するが、甲子園で活躍する高校はだいたい、地域外からの特待生である。前に、青森県の八戸に行った時に、たまたま八戸の高校が甲子園に出場するというので地元では喜んでいたが、地元の新聞を見て驚いた。出場する高校野球部の大半は、関西出身者で、地元八戸からの出身はみんな二軍であった。地域に根付いた活動をしていると言われているサッカーだって、選手がみんな地元からの出身者かと言えば、そんなことはありえない。

 しかし、大相撲だけは、関取の出身地が明確に表示される。NHKが大金を払って全国放送を中継しているのは、各地の地元の人が、政治家を使って、地元出身の関取の活躍を見せてくれと圧力をかけているからだという説もある。大相撲は、近代によって再編集される以前の、日本の「国」の原像が映し出されているのである。

 そもそも、相撲取りとは、各地の体格の良い力自慢の競い合いである。昔は、地元では有名なゴンタクレ者や、乱暴者が多かったのだろう。だから、部屋の伝統として、一般社会より厳しい掟が根付いたのだろう。それは、やくざ者の組組織と同じだろう。

 貴乃花親方は、おそらく背負うべき国がないのだと思う。関取には、それぞれ背負うべき国があり、モンゴルの相撲取りをスカウトした時から、相撲協会には、かつて、越後とか信州とかを背負って江戸に来た関取衆の面影を、モンゴル力士に見たのではないか。相撲においては、野球やサッカーのように、「助っ人外人」ではない。国の期待を背負って江戸にやってきた力自慢なのである。だから、モンゴル出身の貴ノ岩は、一番苦しんでいるはずである。

 僕は、日本相撲協会の態度を擁護しようとしているのではない。むしろ、貴乃花親方の真摯な態度に好感を持ち、組織改革に頑張って欲しいと思う。僕もまた、帰るべき故郷を持たない近代都市人である。問題は、テレビ業界や相撲業界のように、古い体質の特別な構造が、日本を世界から取り残して、自発的ではない鎖国状態にもっていかれることを恐れている。

 才能や能力は誰にもあるが、競争を勝ち抜いてくる才能や能力には、定数がある。現在、力士の数は、692人。十両以上は70人、前頭以上の幕内力士は42人である。最上位は横綱であり、横綱の年収は4500万円である。十両でも1600万円である。これは日本相撲協会から支払われる正規の給料であり、横綱なれば、懸賞金や谷町からの祝儀なども相当なものになるのだろう。ちなみに、タニマチというと、支援者のことを言うが、これは、昔、大阪の谷町あたりに、呉服屋さんや医者の金持ちが住んでいて、関取衆のスポンサーになっていたからだと言われている。(これは、子ども調査研究所の高山英夫所長から教えてもらった)

大相撲の力士の人数と給料【2017年最新版】

3.インターネットは何をしたか?

 要するに、全国民の中からも地域での力自慢が登りつめたのが、相撲という世界である。芸能界も、スポーツ界も、あるいは選挙で選ばれる国会議員(衆議院は465人、参議院は242人)も、定数というものがある。定数の中に入りこめば、あとはその世界の伝統的な「掟」を守っていけば、社会的な評価となっていた。

 しかし、インターネットによって、それまで、特別な世界で起きていたことが、公になり、あるいは、マスメディアだけであれば、揉み消したり、誤魔化していたことが、誰も情報制御できなくなった。マスメディアも、また、定数のある封建的な業界組織であったから。

 はあちゅう氏の告発も、インターネットという環境がなければ、岸氏が代表を降りることもなかっただろう。はあちゅう氏がネットの世界では特別に有名であったことも影響しているだろう。

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