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一発屋芸人としての企業のこれから。


1.平成の一発屋芸人

 一発屋芸人というジャンルがある。ある時期、日本中の誰もが知っているようなネタで人気者になったが、それ以後、鳴かず飛ばずになり、単発の「一発芸人特集」に出ていじられるくらいで、あとは地方公演などでかつての栄光にすがって活動を続けていたり、YouTuberに転身したりしている。「ゲッツ!」のダンディ坂野、「ちょっと!ちょっとちょっと!」のザ・たっち、「ラッスンゴレライ」の8.6秒バズーカ、「そんなの関係ねー!」の小島よしお、「なんでだろう、なんでだろう」のテツandトモ、「ヒロシです」のヒロシ、「残念!」のギター侍・波田陽区、などキリがない。

 昭和の芸人は、長い下積みを経て芸を磨き独特の味わいを身につけて一人前になった。しかし平成になってから、無数の「一発屋芸人」が現れ、一時的に大量消費され、あっという間に没落した。アナログな昭和とデジタルな平成を対象化して見ると感慨深いものがある。

 一発屋芸人でも、長い下積みを経ている芸人も多かったが、その蓄積が花開く前に「一発屋」として脚光を浴びてしまい、それが逆に成熟した芸に結びつかなかったような気がする。

 唯一、猿岩石の有吉弘行は、「電波少年」のブレイクとその後の低迷期を越えて、毒舌芸人として復活し、独自のポジションを確保した。本人は「二発屋」と言っているが、「一発屋」の「二発目」は強固な存在になるのかも知れない。

2.一発屋企業の斜陽

 さて、経済界の動きを見回して、以下のような見出しが目についた。
気になる方は検索してみてください。

◇ぐるなび「最終利益8割減」決算の衝撃
◇ライザップ、純損失193億円に転落
◇ミクシィ、大幅な減収減益に“危機感”
◇スルガ銀前期、971億円の赤字

 令和の時代になって、一気に吹き出してきた、平成の時代を謳歌した企業の現状を示すニュースである。

 いずれも、一時代の注目を集めた企業ではないか。まるで「一発屋」芸人のように。

 「ぐるなび」はインターネットの開始とともに、飲食店の情報をアーカイブし圧倒的な情報量で構築し、ポータルサイトとして最大のポジションを確保した。2000年の前半、企業などに誘われた会食などは、いつも同じような店に呼ばれることが多くて謎だったが、企業の担当者が「接待、恵比寿、個室あり」とかで検索し選ぶと同じ店になるんだな、と納得。しかし、飲食店のポータルサイトも、やがてCGM(読者投稿による飲食店情報)の流れが出来て「食べログ」「Retty」などの情報量が増えてくると、力技で構築したポータルサイトは力を失っていった。

 「ライザップ」は健康食品販売からはじまり、「結果にコミットする」というコピーとともに、短期間で肉体をシェイプアップするという事業で成功を収めた。時代の寵児となったライザップは集まった資金で、さまざまな業態の企業(大半は終わった企業)を買収して再構築しようとしたが、苦戦を強いられている。フィットネス事業で一発当てたが、その事業だけの成長では満足がいかず、もっと大きな事業体にしようと思ったのだろう。

 「ミクシィ」は、ニフティサーブの次の時代のネットコミュニティとして時代の寵児になったが、FacebookやTwitterなどのSNSの時代についていけず、一度低迷して経営陣も変わったが、たまたまガンホーのスマホゲーム「パズル&ドラゴンズ」の大ヒットにのって「モンスターストライク」(モンスト)を出したら大ヒットしたが、そのブームが終わるにつれて、業績は悪化している。ミクシィのライバルだったGREE(グリー)も、コンプガチャで一世を風靡したが、一発屋で終わってしまったようだ。

 スルガ銀行は、インターネット時代の、先の見えない金融業界にあって、好業績を続けて注目を浴びていた。しかし、その実態は、「かぼちゃの馬車」と結託して、シェアハウス事業に投資したい個人に無茶な貸出をしていたことが発覚して社会的非難を浴びた。

3.持続的な成長

「ポータルサイト」も「フィットネス事業」も「スマホゲーム」も「シェアハウス」も、時代の必然性の中で生まれた事業テーマである。そのテーマを真剣に凝視め、本気で取り組めば、持続的な事業構造を築けたであろう。しかし、外から見る限り、そうした時代のテーマに本気で取り組んだというより、世の中の流れにのって飛びついたために、「一発屋」として成功を収めたが、持続的な事業構造にはならなかったのだと思う。

 一発屋企業が、また夢見て、新しい「一発」を求めている限り、その企業は駄目である。

 これからも、さまざまな時代の流行によるテーマが現れ、一発屋芸人のように注目を集める企業や経営者が現れるであろう。しかし、そのテーマが外から見て選んだものでは、持続性は望めないと思う。「ロハス」から「SDGs」といった社会テーマでも「ブロックチェーン」や「AI」や「ドローン」といったテクノロジーテーマでも、これからの社会にとって重要なテーマではあるが、それは今、「流行だから」「トレンドだから」「みんなが騒いでいるか」という、一過性の一発屋芸人として取り組むべきものではなく、自らの内部に、それに取り組む本気と本質を育む必要がある。

 YouTubeで有吉弘行の毒舌トークを聞きながら、そう思うのである。「二発企業」になるのは、どういうことなのか、考えた方がよい。

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