業務命令で親孝行を命ずる滑稽さ。家族・地域・社会●情報小料理屋 2016/06/30

こんな会社で働きたい!

聞いたことがない! 両親への「ありがとう」が業務命令

「日経ウーマンオンライン」

(1)なんじゃらほい

 東京江戸川の会計事務所では、「親孝行制度」というのがあって、新人は両親に初任給でプレゼントし、その写真を提出することが業務命令としているのだそうだ。親子の問題を会社がここまで干渉するのには呆れたが、それに素直に従う若者にも驚いた。そして、そういう事態を取材して、「業務命令だから、親に感謝の気持ちを伝えられた」という社員の言葉を、そのまま記事にしている記者の鈍感さにもがっかりする。

 親子間に何か問題があったとして、それは、親子間で解決すべきものであって、他人や会社が何かを強制するべきものではない。強制で解決したものは、本質的な解決になっていないからだ。余計なお節介というものである。

 これは、自民党の憲法改正のキモである「家族条項」につながるものだろう。

 戦後社会の中で、日本の大家族制度が崩壊し、核家族が進み、家意識の価値観から、個人意識の価値観へのシフトが行われた。その結果が「子育て」から「介護」まで、多くの現実的問題となっていることは確かだろう。しかし、そうだからといって、企業や国家がかつての「家」制度を押し付けて、うまくいくとは思えない。

 家から離れて個人になったのは、それなりの歴史的な必然性があり、戦後の産業は、家の崩壊で登場した個人を対象にした商品生産で発展してきたからである。

 子どもが親を尊ぶというのは、当たり前のように見える。しかし、それは、かつては、尊ぶに価するだけの内容と力が親にあったからであり、尊敬されなくなったとしたら、親の方にも責任があるはずだ。親子関係の断絶を、単に子どもたちのわがままと片付けてしまうのは、人間関係というのをなめた発想だと思う。

 家の内部にあった機能を家の外部でビジネス化することが盛んになり、その結果、子どもの親への意識の依存が減ったということもあるだろう。毎日、親が手造りのご飯を食べさせてくれていたら、親に自然と感謝の気持ちが育つだろうが、インスタント食品やレトルトばかりでは、そういう意識も希薄になるだろう。

(2)よはとつ図形

 僕は35年前に、最初の単行本「企画書」を出したが、そこで書きたかった僕の発見は「よはとつ図形」というものだけだ。70年代にコミュニティとしての雑誌を作っていて、コミュニティの形態をずっと考えていた。それで発見したのは、コミュニティには成長の段階があるということだ。最初は、バラバラの人が集まって原始的な共同体が出来る。これを「よりそう時代」とした。どんどん集まってくるので、その原始共同体から、はじけたり、はみだしたりする人間が出てくる。これが「はじける時代」。はじけた人間は孤独になる。さみしいからといって、再びよりそったとしても、それは、再び原始共同体を作るだけで、そこから、またはじける人間が出てくる。次の段階は、はじけた場所で、一人で「とどまる」ことが必要なのだと思う。これが辛く寂しい「とどまる時代」。そして、とどまった個人同士がつながって、新しいネットワーク型の共同体が出来る。これが「つながる時代」。

 僕らは、「とどまる時代」を生きている。旧来型の共同体から、出て、自分の場所で、とどまることが歴史的な役割なのだと思う。それが、日本に「個人」という存在が生まれるかどうかという分水嶺になる。古い共同体への回帰は、失われていくものへのノスタルジーであり、未来はそこにはない。

 「よはとつ図形」については、「企画書」を読んでください。復刻版がAmazonにあります。

(3)最近の若者

  最近の若者について、いいなと思うことは、大人が命令をして、それが論理的で自分が納得すれば、それを目標にして、一生懸命になる。しかし、自分が納得しなければ、社長にでも食って掛かると言う。僕も、そういう生意気な若者を、ずっと感じてきているし、その生意気さに期待してきた。それが、日本で生まれつつある「個人」というものの気配だと思ったからである。会計事務所の新入社員が、親孝行の業務命令を、会社の仕事として納得していたのだとすれば、これはやばいと思うが、いかにも綺麗ごとの正しさに騙されるのも、また若者なのかも知れない。

 欅坂46を僕が好きなのは、そこに集まった一人ひとりが、おそらく現実の社会や家で命令されたことに納得出来ずに鬱屈していたものが、ようやく納得できる命令と目標にたどりついたという解放感を全力で感じるからだ。

 大企業に入らずにベンチャー企業を志すことは、新しい個人の生き方として支持することが出来る。しかし、ひとたび会社組織が軌道にのると、ふたたび、旧来の家父長制度やスポコンの根性主義をふりかざす経営者が多いのもうんざりする。ベンチャービジネスとは、思い付きアイデアが大事なのではなく、未来社会へのビジョンと、それに賛同する若い社員たちの集中するエネルギー以外に資産はない。

(4)家族についての調査研究活動

 僕たちは、戦後家族の変遷と、現代の家族の諸問題について、情報収集と調査研究を行っている。まだ正解のない問題を、ひとつひとつ、解き明かしていきたい。関心のある方は、覗いてください。

CB現代「家族」研究会

 また、森永製菓のエンゼル財団と協力して、「戦後子ども文化研究」というプロジエクトを推進している。インタビューやシンポジウムの結果は、動画で公開されています。 

森永エンゼルカレッジ

 子どもにとって、家族は最初の社会であるなら、家族のあり方が地域や国家にとっても重要な問題であるという認識は、僕も同じだ。ただし、僕は、たからこそ、これからの家族はより創造的に考えていく必要があると思っている。

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橘川幸夫

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